[6]仮説を設け徹底的に潰していったF塾

監修いただいた先生


 

 ビジネスの基本は、実践-検証-仮説-修正-実践の繰り返しです。それは塾経営においても同じです。PDCAサイクルと言われているものも、ほぼ同じ意味です。PLAN(計画)を立ててDO(実践)し、CHECK(修正)をしてACTION(アクション=再実践)するサイクルのことですが、私はココに仮説という項目を加えて考えています。

 故野村克也氏の言葉に「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という名句があります。理由もなく勝つことはあるが、負けには必ず原因があるということです。塾経営者は誰も、自分の塾が最高だと自信を持っているはずです。自塾の指導法、カリキュラムに間違いはないと。ところが、思ったように生徒が集まってきません。それどころかジリジリと生徒数が減少していきます。多くの塾経営者が原因を外部要因に求めます。自塾は悪くない、悪いのは大手塾が近くに開校したからだ。新型コロナで景気が悪くなったからだ。地域の教育熱が下がったからだ…と。他者に原因を求めたくなる気持ちも解らないではないのですが、それでは塾の経営は一向に上向きません。自塾内のどこかに原因があるはずだと考え、その原因を仮説し、修正した上で修正する…それで経営が上向いたのなら仮説が正しかったわけですし、そうでなければ別の仮説を考えます。その繰り返しが経営体質を強くしていくのです。

 F塾は地方都市の中心に位置し、塾長をはじめとする講師陣の熱心な指導と教務力が評判を呼び、1教場に最盛期、250名の生徒を集める優良塾でした。過去に何人もの東大合格者を輩出した地域一番塾と言ってもいいと思います。ところが次第に生徒数が減少を始め、とうとう150名程度まで落ち込んでしまいました。指導方法に変更はなく、合格実績も悪くなったわけではありません。最初は少子化のせいと諦めていた塾長も、さすがに危機感を強め、私のところにコンサルタントを依頼してきたのです。

 現状を調べてみた結果、ボディゾーンである中学生の減少率が著しいことが分かりました。それも地元中学生の数が極端に減っていたのです。 F塾には立地上、近くの国立大学附属中学校の生徒と、地元の公立中学校の生徒が通っていました。その地元中学生の比率が30%を下回っていたのです。これを回復しなければ全体の生徒増は図れません。

 中学部のクラスは各学年、成績別の2クラス編成でした。どちらのクラスにも附属生と地元公立生が混在し、進度と習熟度が違うため、どうしても附属生中心のカリキュラムになっていました。私はそこに原因があると仮説し、塾長に成績別ではなく学校別のクラス編成を進言しました。その上で、地元生向けのチラシを作成し、広告宣伝にも力を入れたのです。それまでのチラシは正直、長年積み重ねてきた実績と信用の上に胡坐(あぐら)をかいていたような(私から見ると)手抜きの内容でした。イベントにも力を入れ、地元生が友人を誘えるような内容を取り入れました。そうした改革が功を奏し、2年ほどで生徒数が200名を超えるところまで回復したのです。やはり、(塾長は無意識でしたが)地元生を軽視したことが生徒数減、特に地元生減の原因だったようです。地元の中学生と保護者にとって、敷居の高い塾という印象が作られていたのです。

 その後、付け足しのように設けていた個別指導コースを刷新し、ワンフロアをリニューアルした新教室として再出発しました。個別指導クラスは1年で80名を数え、全体で280名までV字回復したのです。 F塾は昨年、すぐ近くに新築移転開校し、現在は約400名の生徒が学ぶ塾になっています。

 業績が不調になるのは必ず原因があります。もちろん外部要因を否定するつもりはありませんが、それは何とも対処の仕様がありません。それよりも、外部要因を撥ねのけるだけの内部改革に取り組む方が建設的ですし、結果として強い塾を作ることにつながります。仮説を設け、それを徹底的に潰すことです。それでも改善しなければ次の仮説を設ける…その繰り返しが経営体質を強くしていきます。簡単に不振の原因が明らかになるのであれば、ビジネスは楽です。特に内部にいると、視野が狭くなって原因に気付かなくなるものです。結果、外部要因に原因を求め、本当の原因から目を背けることになってしまいます。

自分が源泉…全ての原因は自分にあると覚悟することから本当の塾改革は始まります。

 

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