[13]自塾のコミュニケーション・スキルは大丈夫ですか?

監修いただいた先生

あなたがカップ麺を食べようとして湯を沸かします。その時、全ての人が「湯が沸騰するまで」イライラせずに待てるはずです。経験上、どれくらい待てば湯が沸騰するかを知っているからです。

以前に私が経験した話です。その日、翌日に札幌で開催されるセミナーのため、函館から電車で移動していました。ところが途中で、「信号トラブルのため…」とアナウンスが入り、途中の駅で臨時停車してしまいました。外は次第に暗くなり、冬期だったので渦高く積まれた雪が証明を反射して青光りしていたのを覚えています。

私はノンビリと本を読んでいたのですが、30分以上も停車したままだと次第に不安に襲われます。「まさかこのまま車中泊ということはないだろうな」「明日のセミナーに間に合わなかったらどうしよう」…そんな思いが過ります。他の乗客も同じ思いだったようで、車掌に詰め寄る人もいます。しかし、「しばらくお待ちください」「トラブルが解消次第、発車しますから」を繰り返すばかりです。1時間が過ぎた頃には、社内が殺伐とした雰囲気になっていました。結局、列車は90分程度の遅れで動き出し、事なきを得たのですが…。

ディズニーランドに繁忙期に行くと、人気のアトラクションには長蛇の列ができます。中には2時間待ちということもザラです。それでも来客者は嬉々として並んでいます。イライラしている人はいません。それは、途中に掲示してある「ここから2時間」「ここから90分」というプラカードが、実に正確だからです。ステージショウに並んでいる人(たいていは父親?)もそうです。2時間後には確実に入場できると解っているからイライラせずに待つことが出来ます。

人は「予告されている2時間は待てるが、予測できない90分を待てない」という性質を持っているのです。これを「沸点の法則」と言います。

この「イライラし始める時間」というのは、個人差がありますし、シチュエーションにもよります。例えば電話の保留音、電話を掛けて20秒を超えると、多くの人はイライラし始めます。「担当者に変わります」と言われた後の保留時間も同様です。たいていの人は30秒程度で沸点(イライラ)を迎えます。ですから、企業の研修で真っ先に言われるのは「呼び出し音の3回以内に電話に出ること」です。相手を不快にさせないための対応です。

多くの塾(塾経営者:塾長)が、この点に対して無頓着です。ある塾の実例を挙げます。

何か保護者からクレーム電話が入ります。どうやらアルバイト講師の不手際(対応ミス)があったようです。塾長(教室長)は、「すみません、スグに確認して対応します」と言って電話を切ります。ところが、2日経っても3日経っても保護者のもとに連絡が入りません。保護者のイライラは募り、ついには不快の沸点を迎えます。当の塾長は、当のアルバイト講師とスグに連絡が付かず、勤務する4日後に話を聞こうとしていたのです。塾長としてはそれが最善の策だと思っていました。こうした保護者と塾の「認識のズレ」が塾に対する不信感、ついには退塾に発展する原因になります。どこに問題があったのでしょう。

それは「スグに」という言葉を使ったことです。

保護者はそれを「今スグ」と理解したかもしれません。しかし塾長は「出来る限り早く」という意味で使っていたのです。その認識のズレが問題だったのです。

では、どうすれば良かったのでしょう。沸点の法則を思い出してください。人は、予告されている時間ならば待てるのです。「申し訳ありません。今週末までの5日間、時間を下さい。詳細に確認して、対応策も含めてご報告します」と、具体的な時間を提示するべきでした。そうすれば、保護者は5日間を待ってくれます。少なくとも3日で沸点を迎えることはなかったことでしょう。

こうした認識のズレは、いたるところで起こっています。生徒と教師の間にも頻繁に。「今度、〇〇攻略プリントを配るよ」「そのうち、バーベキュー大会でやりたいな」「いつか絶対にディズニー旅行を実現させてやる」…こうした(塾からすれば)希望的観測を含めた曖昧な物言いが、塾に対する信頼感を減退させていきます。「今度」と言われた生徒は、「次の授業に」と理解したかもしれません。「そのうち」と言われた生徒は、「今月中に」と理解したかもしれません。「いつか」と言われた生徒は、「今年中に」と理解したかもしれません。そうしたちょっとのズレの積み重ねが、「先生は約束を守らない、信頼できない」に繋がります。

退塾理由のほとんどが、「成績が上がらない」と「塾が信用できない」です。特に後者は退塾理由の1番だと言われています。原因のほとんどが塾側の曖昧な物言いにあります。「今度」ではなく「来週の月曜日に」、「そのうち」ではなく「11月の期末テスト終了後に」、「いつか」ではなく「3月の卒塾旅行で」と、具体的な日程を示すことです。そうすれば「その日」まで、生徒はイライラではなくワクワクして待つことができます。もし、具体的な日程も決まっていない「希望的観測」ならば、言葉にすることは差し控えるべきです。

今でも、「(特に午前中は)問い合わせの電話をしても出ない塾」が存在します。その場合、あなたの知らないところで見込み客のイライラが高じ、沸点を迎えているかもしれません。その見込み客は二度と問い合わせの電話を掛けませんし、あなたの塾の悪評を拡げているかもしれません。

信頼を築くのは時間が掛りますが、失うのは一瞬です。ぜひ、自塾のコミュニケーション・スキルを見直してください。

連載記事