塾の運営方針、ビジョン、ミッションは退塾を防ぐためにも重要であるとお伝えしました。運営方針は決まっていても、それがなかなか浸透していない、または、日々の業務や指導内容に反映されていないという塾も少なくはありません。そもそも運営方針はなぜ必要なのか、それを生徒や保護者、内部の人間に伝える必要性、その具体的な方法について、Comiruアドバイザーの峯先生に解説してもらいます。
監修いただいた先生
理念マッチングは経営にも直結する
塾を創業するに至った思いや志、目指す世界観は、どの塾にもあるでしょう。それは関わるすべての人にきちんと伝わっていますか?ちゃんと伝えられていないと、相手にとっても、自分たちにとっても不利益が生じます。
例えば、「勉強が得意な子の成績をあげて難関校に合格させます」と謳えば、成績がいい子が入塾してきます。勉強が苦手な子は“自分のことではない”と判断して入ってこないでしょう。それと同じように、“勉強が苦手な子どもに手を差し伸べたい”と思っている講師の選択肢にも入りません。つまり、自塾が具体的に誰に何を提供したいかを明確に伝えていれば、相手とのミスマッチが起こりにくいのです。
価値観は人それぞれなので、どんな理念が正しいとかいうことはまったくありません。同意してもらえる生徒、保護者、講師に来てもらうように戦略を立てましょう。塾の理念に共感する生徒は、授業に対してもポジティブで成績も伸びやすく、生徒・保護者の満足度も上がり、その結果継続年数が長くなります。
理念に共感する講師は、優先してシフトに入ってくれたり、長く勤めてくれるでしょう。理念でマッチングできていれば、生徒の通塾年数の長期化や退塾者数の減少、さらに講師の離職率低下につながっていくのです。中長期で塾を伸ばしていくためには、入塾や採用の段階で理念を理解してもらうことが重要だということです。
また、理念は愚直に守らなければいけません。生徒数が足りないからと言って入塾対象を広げてしまっては、講師から見ると“塾長は利益を優先したな”と思うでしょうし、それだけで一気に授業がやりづらくなります。 生徒にとっても、望んでいない授業内容となり、場合によっては授業の質が低下することで成績が下がるか、最悪の場合は退塾にもつながります。
自塾にしかできないことを端的に運営方針に掲げる
運営方針は、そのメッセージが自分の塾にしか言えないことであるべきです。他塾でも同じことが言える、具体性に欠け、ぼんやりしているなどはダメな例です。
また、長々と思いを綴るタイプの方針もありますが、基本的にはNGです。塾は口コミが流入経路の大部分を占めますが、あまり文字数が多いと、誰かに説明するのが難しくなるからです。できれば10文字〜15文字くらいで表現してください。今の運営方針がちょっと長すぎるなと思ったら、ぜひ見直しをしてください。その際に、根本の方針は変えずに、表現を変えるだけに留めてください。
(良い例・具体的)
「学ぶことが楽しくなる!」まずは定期テストの平均点プラス5点を目指します。
(良くない例・抽象的)
「どんな子でも学習習慣が身につく」親しみやすい講師がじっくり寄り添い共にゴールを目指します。
塾運営方針の発信の仕方
では、運営方針をどのように発信していくべきでしょうか。いかに素晴らしい方針でも、浸透させる努力を重ねなければ、“絵に描いた餅”に過ぎません。現実と合っていないと、不信感に繋がる可能性さえあります。
生徒・保護者への発信の仕方
一昔前はチラシがメインでした。今ではホームページやSNSなど発信の場は複数あります。こうした場をぜひ活用しましょう。また、伝え方は合格者数、平均通塾年数など、データにできるものはデータに語らせるとよりうまくいきます。
<運営方針に基づくアピール例>
「学ぶことが楽しくなる!」
当塾は、学校の定期テストの成績を平均より5点(受講の各教科)上げることを目標にしています。苦手科目を5点上げるには、ご自宅での日々の学習時間を10分多く確保すれば可能になります。しかし、この10分がなかなか増やせません。
当塾では日々の学習時間を報告してもらい「学習時間平均」をフィードバックしたり、過去の先輩塾生の勉強時間が目安になるように塾生に伝えております。仲間のがんばりや先輩の軌跡という、事実でモティベーションを高めてもらっています。
また暗記に終始することなく、生徒の気づきから授業を展開し、「学ぶことが楽しくなる!」を心がけています。
理念を裏付ける具体的なデータを提示するだけで、入塾後のイメージが湧きやすいでしょう。実際の授業の動画リンクも有効です。
これを見た生徒と保護者が、面談の場に現れたとします。ここでも運営方針をきちんと説明し、それを証明する具体的なデータや、方針に則った入塾規則、ルールなどを伝えます。さらに先輩塾生の事例を紹介し、生徒に“変われる予感”と“この塾でがんばる覚悟”を決めてもらうのです。
運営方針を見て夢を抱き、覚悟を決める。これは保護者も同じく必要です。覚悟が決まれば、あとは入塾後に生徒のがんばりを保護者と共有するだけです。ここでComiruの機能が大いに役立ちます。
社員・講師など社内への発信の仕方
朝礼や会議で運営方針やそれを行動指針に落とし込んだ「クレド」を唱和する企業もあるかもしれません。そのこと自体が間違っているわけではありませんが、唱和することが目的ではありません。実践していることをお互いに確認し合うことこそが大事です。
まずはトップが運営方針に沿った行動のお手本になってください。そして、きちんと実践している社員をキャッチし、その過程や結果をシェアし、賞賛する仕組みを作りましょう。理念研修を行ったりカードにして携帯させたり、やり方はいろいろありますが、体現事例で浸透させることが近道です。
例)トップやミドルが常にメッセージを発信する
トップが強い意志を持って発信し続ける以上、人数がいくら増えてもブレることはありません。よく社員が増えると理念が浸透しづらくなると言いますが、それはアプローチに問題があるのではと考えます。先に述べた社内発信の例などは、人数が多いと逆にレバレッジが効いて浸透スピードが早まるということもありますね。
運営方針の発信は安定経営の柱
運営方針がきちんと定まっていて、それを明確に持続して発信できていれば、生徒、保護者、講師のミスマッチを防げます。それによって退塾も減らすことができます。さらに、生徒の兄弟姉妹、その先にはご子息(塾生の子ども)の入塾が自動的に決まることも、そう珍しい話ではありません。これは最高の集客手段ですね。「親子二代塾生」をSNS等通じて発信…、どんなメッセージが伝わるでしょう?
運営方針の発信においては、まずトップが努力することです。社員や生徒にばかり努力を求めず、ここは覚悟を持って挑戦してみてください。塾生と講師双方のエンゲージメントが高まると思います。