[8]某大手塾の社員さんと個人塾にありがちな◯◯の違い

これは舞台こそ個人塾ですが、主人公は某大手塾の社員たちの話です。

私のクライアントのほとんどは中小・個人塾の経営者です。セミナーや勉強会の後に催される懇親会等に参加すると、酒の勢いもあり、大手塾に対する非難合戦に遭遇することがあります。曰く「儲け主義に子どもが利用されて可哀想だ」、曰く「合格実績作りのために無理な受験を強要している」等々です。しかし、そんな悪徳塾?に何万人もの生徒が通うはずがありません。大手塾のほとんどが最初は個人塾であり、素晴らしい塾だったからこそ生徒が増え、教室が増えて発展したのです。そこにはちゃんとした原因・理由があるはずです。

その理由の1つを目の当たりにしたのが、他でもない私のクライアントである個人塾での出来事でした。

 

その塾は古い物件(集合ビル)の中にあって、ご夫婦と数名の女性スタッフで運営していました。ところが、その物件の取り壊しが決まり、退去を余儀なくされました。一時は経営存続の危機に陥ったのですが、捨てる神あれば拾う神ありです。道路を挟んだ向こうにある空き地のオーナーさんが救いの手を差し伸べてくれたのです。空き地に専用校舎を建築し、賃貸してくれることになりました。とは言え、家賃はそれまでに比べて大幅に高くなります。移転と同時に生徒も大幅に増やさなければなりません。塾長と私の経営計画の日々が始まるのですが、それは今回のテーマではありませんので割愛します。

いよいよ校舎が完成し、お披露目の日がやってきました。私も招かれて駆け付けたのですが…その入り口付近のレイアウトに首を傾(かし)げました。大きなレターケースが、入り口の3分の1程度を塞ぐように設置されていたのです。どうも什器の配置が上手くいかず、仕方なくエントランスにはみ出すように置いたようです。

言うまでもなくエントランスは塾の顔です。そこに大きな障害物があるということは、来場者に「来るな!入るな!」と言っているようなイメージを持たせます。できれば避けたいものです。私は挨拶もそこそこに1階のレイアウトを確認しました。どうやら、什器の位置を工夫すればエントランスを広くすることができそうです。私は塾長に新しいレイアウトをアドバイスしました。塾長も「なるほど、それがいいですね」と賛同してくれたのですが、前述のように、その塾は塾長以外に男手がありません。私と塾長二人では内覧会の開始に間に合いません。塾長は後日にレイアウト変更作業をすることにしたようでした。

その時です。

「やっちゃいましょう!」と声を掛けて、入口付近にあったレターケースを二人の若者が持ち上げます。彼らは、その個人塾が導入を決めた学習ソフトを開発・販売してる某大手塾の社員で、移転開校のお祝いのため、内覧会に駆け付けてくれていました。私と塾長の話を聞いて、いつの間にかスーツの上着を脱ぎ、力仕事態勢に入っていたのです。若い力は素晴らしい。あれよあれよという間にレイアウト変更が完成し、時間通りに生徒&保護者を迎え入れることができました。

私はこの某大手塾のスピード感に感動しました。中小・個人塾の経営者の多くには後回し気質があり、決断力と実行力に欠けると常々感じていたので、その鮮やかな行動力に舌を巻いたものです。良いと思ったことはスグに実行する習慣が身に付いているのでしょう。正直、「だから大手塾は強いんだ」と、改めて思い知ることとなりました。

こんなこともありました。

とある大手塾が駅前校を新設し、頼まれて視察に行った時のことです。素晴らしい教室だったのですが、1つだけ気になったことがありました。教材見本を分かりやすく展示しているのはいいのですが、設置方法が雑なため、表紙が捲(めく)れあがっているものが数冊ありました。私は「せっかくの展示なので、透明のブックエンドを利用して教材を丁寧に扱った方が印象がいいですよ」とアドバイスをしました。すると翌日の午前中には、お礼の言葉と共に、改善されたショーケースの写真がメールで送られてきました。そのスピード感にも驚いたものです。

私は、良いものは大手塾だろうが異業種だろうが謙虚に学び、取り入れるべきだと考えています。特に、このスピード感は多くの中小・個人塾に欠けているものだと感じています。しなければならないと解っていることでも、ずるずると後回しにしてしまう傾向があります。「忙しい」を理由にしていたのでは、同一地域にある大手塾分校には勝てません。「善は急げ」と言います。ぜひ、日々の業務にスピード感を持たせてください。

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