塾にとって、生徒を集めるために最も重要なことが、優秀なアルバイト講師を育成することです。語弊を恐れずに言えば、アルバイト講師こそが塾の“商品”であり、その品質を高く維持することによって、有名校の合格者を多く輩出したり、定期テストの点数を向上させたり、それらが評判となって集客(生徒集め)につながる好循環が生まれるのです。 しかし、理屈は分かっていても、そう簡単にいかないのが塾講師の育成です。どのように行えば、自塾にとって最良の塾講師を育てることができるのでしょうか。
監修いただいた先生
今回は、地方において分かりやすい教え方が高い評価を得て、毎年多くの生徒を集めることに成功している個別指導塾が、どのように塾講師の育成を図っているかを紹介します。人呼んで、“最強の塾講師の育て方10か条”。中小塾の塾長や教室長の方々は必読です。
1.塾講師に必要な「看板は自分」の意識
塾にとっての看板商品は「アルバイト講師」です。生徒と毎回直に接し、成績を向上させることで塾の評判を左右するのが、講師に他ならないからです。
塾の授業が終わった後、生徒は自家用車で迎えに来た親に対し、車中で「今日はこんなことを教えられた」「難しい問題ができて講師に褒められて嬉しかった」など、出来事を報告するはずです。保護者が塾を続けさせたくなるような良い報告をしてもらうためにも、講師は看板商品として毎回ベストを尽くすことが重要となります。
ただ、塾長や教室長が「看板は講師」と思っていても、講師側に「看板は自分」という自覚が無ければ、運営側と講師側に思いのずれが生じてしまいます。そうした事態を防ぐためにも、塾長や教室長は日頃から「看板商品はあなた方講師」と“念仏”のように言い続け、常に意識を高くして授業に臨めるように気持ちの面を支える必要があります。
2.塾はサービス業、生徒はお客様
講師は生徒に気楽な友達のようにフランクに接するべきでしょうか。部活の先輩・後輩のように上から目線で話すのが良いのでしょうか。いずれも答えは「ノー」です。なぜなら、生徒は塾にとってお客様であり、塾はそのお客様を心から満足させる “サービス業”であるという意識が必要だからです。
サービス業である以上、生徒を友達や部活の後輩のように扱うことは許されません。講師にとって生徒は年下であり、先輩風を吹かせて雑な話し方や対応になりがちかもしれませんが、生徒はお客様であるという意識を忘れずに、「親しみやすく」「柔らかい」言葉遣いで話すと良いでしょう。
合わせて読みたい:優秀な講師採用の新ルール。優秀な講師をどう集めるか
3.生徒との距離を縮める絶妙なアイスブレイク
講師は「授業の入り」も意識すべきです。いきなり「では○ページから始めます」では、心の準備が整わないまま勉強を始めることになり、気持ちが乗ってこないかもしれません。講師と初対面だったり、久しぶりの担当だったりすれば、なおさらです。
そこで必要となるのが、ウォーミングアップです。優秀な講師ほど、最初はちょっとした雑談を入れて生徒の緊張をほぐすことから始めます。いわゆる「アイスブレイク」です。例えば、初めて担当する生徒に「バスケ部だったよね。最近の大会の結果はどうだったかな」と、生徒の部活の近況を尋ねます。あるいは「先生もバスケ部だったよ。始めた理由は……」と自分のことを少し話せば親近感がわく可能性があります。
アイスブレイクは生徒との心理的な距離を近づけ、授業に入りやすくするのが狙いです。そのために、生徒の部活の状況などの情報は事前に頭にインプットしておく必要があります。塾長などが講師に「授業の前に必ず生徒の近況を頭に入れておくこと」としつこく言い続けることがポイントです。
4.面接で適性を見抜くための3つのチェックポイント
そもそも良い講師を揃えるためには、育成以前に採用時に良質な学生を採用する必要があります。すなわち、面接では講師としての適性を見極め、慎重に合否を決めることが重要です。適性を判断するには次の3つのポイントが参考になります。
一つ目は時間をしっかり守れるかどうか。面接に遅刻してくるのは言語道断で、少なくとも10分前に来ていることが基準となります。
次が面接室に入ってきたときの最初の印象。講師はお客様である生徒を相手にするサービス業である以上、雰囲気は非常に大事です。第一声が爽やかで元気があるか、表情に好感が持てるか、服装に清潔感はあるか。それらを最初の数秒で見て、合否を判断基準の一つにするのです。直感に近い感覚ですが、この最初の数秒の印象は意外と当たることが多く、大事にしたいポイントです。
そして、最後がコミュニケーション力です。こちらが話している途中で自分の意見をかぶせてきたり、自分ばかりが一方的に話すような学生は講師に不向きです。講師は生徒の話を聞いてなんぼの商売。傾聴できるタイプの人間で無ければ務まらない職業です。また、講師が答えを言ってしまう「ティーチング」ではなく、ヒントや質問によって生徒本人に気づきを与え、答えを引き出す「コーチング」ができることも重要な要素。面接の場では、話のやり取りの中で、コーチングの素養があるかも見極めると良いでしょう。
「失敗しない講師採用の面接ノウハウ」もチェック!
5.講師デビューに必要な75分×10セットのロールプレイ
良質な学生を採用したら、次に行うべきは新人講師としてデビューする前にしっかりと研修を行うことです。最初は先輩講師の授業を見学させてから、先輩が生徒役、新人が講師役を務めて25分の模擬授業を実施。その直後に逆の立場になり、新人が生徒役、先輩が講師役で同じく25分の模擬授業を行い、新人は先輩の教え方から学びを得ます。さらにもう一度逆の立場で、先輩が生徒役、新人が講師役となり、学んだことを活かして模擬授業を行います。
この計75分のロールプレイを1セットとして、終了後は良かった点、悪かった点を振り返ります。こうした模擬授業を内容を変えながら合計10セット、トータル750分実施し、授業のやり方が確実に身に付いたところで、ようやく講師としてデビューできるレベルになるのです。
もっと少ない研修時間で講師デビューをさせてしまう塾もあるでしょう。しかし、お金をもらうからには、中途半端な技量のまま授業をやらせるわけにはいきません。時間を掛けてしっかり研修を行うことによって、新人でも塾の看板を背負えるレベルに引き上げることが重要です。
6.パーテーション廃止の意味
1対1や1対2の個別指導塾では、1つの教室にいくつかの机を並べて、1~2人の生徒の後ろに講師が付いて教えるスタイルが主流です。その際、生徒と生徒の間はパーテーションで目隠しするのが一般的。ですが、このパーテーションが実は曲者です。パーテーションの陰に隠れて、さぼる生徒が出てくる可能性があるからです。
さらに問題となるのが、パーテーションが邪魔になって、講師がどう教えているかを、全体を見渡す塾長や教室長が見づらいこと。問題がある教え方をしていても、見逃してしまう可能性があります。
そうした課題を克服するため、思い切ってパーテーションを廃止することも一つのやり方です。パーテーションを無くしても生徒の集中力は意外と途切れないもの。講師は塾長などから見られている意識が強まり、より教えることに身が入る効果も期待できます。
7.講師同士が仲良く話すのは良いことか
講師同士が休憩中にプライベートのことを話して盛り上がっている姿を、生徒やたまたま来ていた保護者が見たらどう思うでしょうか。
これは、同じサービス業であるカフェやレストランに当てはめてみると理解がしやすくなります。アルバイト同士が仕事に関係の無いことを話して笑い合っているのを見たら、客の多くは眉をひそめることでしょう。塾もサービス業であることを忘れず、講師の私語は慎むのが無難です。
8.保護者が来るときは情報共有を忘れずに
塾には、保護者が塾長や教室長との面談のために来ることがあります。その際、大事なのは保護者が来ることをアルバイト講師などにも予め伝えておくことです。「保護者と会ったら元気よく挨拶しよう」と、講師側も気持ちの準備ができるからです。
さらに、こうした保護者面談も含め、講師に対して情報をできる限りオープンにしていると、講師側も運営側が何をやっているか、何に苦労しているかなどの状況を可視化でき、塾全体の一体感の醸成にも役立ちます。
9.自転車をきちんと並べる姿は見られている
講師は、「一挙手一投足を見られている」と意識することも大切です。例えば、教室前に乱雑に置かれた生徒の自転車をきちんと並べる姿は、生徒のみならず、近隣の居住者の目にも入り、「配慮が行き届いている」と評価されることでしょう。
あるいは、教室内でコピー用紙や教科書を梱包していた段ボールを放置せずに片付けるなど、整理整頓をしたり、机をきれいに拭いたりする姿を見れば、「気持ちよく勉強できる環境を整えてくれている」と共感を呼ぶはずです。
10.暴走講師は放置せずに断固とした処置を
こうして、採用から育成まできめ細かく対応していても、傍若無人な振る舞いが目立つなど、問題行動のある講師が出てくるリスクはあります。目に余るので辞めさせたいが、そうすると代わりを務めるものがいないため塾が回らなくなる。仕方なく、雇用を続けるという事態も想定されます。
しかし、規律を乱すような講師は、長くいればいるほど周囲に悪影響を与え、塾の雰囲気や質が悪くなり、ついには評判を落とすことになりかねません。
暴走講師がいる場合は、座席が回らなくなることを恐れず対応するなど、断固とした処置を取るしかありません。もし、話し合いの結果辞めることになった場合、その講師が担当していた授業は、今いる講師や塾長、教室長で、何とか埋め、新しい講師の採用を急ぐことで乗り切るのです。