保護者の期待が高杉くん編

監修いただいた先生

子どものやる気は、起動するまでに時間がかかるのにあっという間にシャットダウンしてしまいがち・・・。うまくやる気を引き出して、前向きに学習に向き合ってもらうために、どんな仕組みや言葉が効くのか。生徒のやる気を引き出す達人が伝授します。

保護者の過度な期待が子どもの柔軟な思考をさえぎる!?

「うちの子、本気を出せば余裕なんですが」「今回のテストはたまたまうまくいかなかったみたいで」・・・あるんですよね、保護者の期待が本人の(現時点の)実力以上に高すぎるケース。親が子どもを評価することは素晴らしいことですが、それが塾の指導の障害になってしまうことがあります。

考えてみてください。子どもを塾に通わせたい保護者は、たいていは4年制大学出身です。人生において複数回の受験を経験し、大人になっているわけです。「できて当たり前」「偏差値はこのくらいがフツウ」、そんな固定観念はなかなか捨てられないものです。こんなにも時代は変わっているのに!

かつての時代の要請は、上位校に進学して、良い会社に就職することでした。今は0から1を生み出すことができるような人材、今までの仕事のあり方を変えられるような人材が求められていますよね。偏差値が高い学校に進学すれば幸せな人生を送ることができるかといえば、それはわかりません。

それはさておき、今回のケースは、そんな古い固定観念を持つ保護者に期待されている生徒のお話です。親の言う通りにがむしゃらにがんばれるタイプなら静観もありかもしれませんが、やはり本人はモヤモヤしていることが多いでしょう。親の期待を背負うことにプレッシャーを感じてもいるでしょう。何のために勉強するのか、その先の人生まで明るくイメージできるでしょうか。そんな生徒に対して、塾は何ができるでしょうか。

 

保護者の啓蒙も塾の役割

このようなケースの場合、生徒に対して直接何かアプローチをするというよりは、保護者へのアプローチを考えるべきです。それも、1対1のコミュニケーションではなく、保護者ガイダンスのような全体コミュニケーションが適しています。

受験や進学に対して固定観念を持ったままの保護者は少なくないと思います。大学のレベルにしても、保護者が受験した20年前と評価が大きく変わり、難化した大学や、逆のケースの大学もあります。また入試問題自体も暗記では対応できない思考が問われる問題が増えています。中学入試においても、英語を受験科目にする学校が増えたり、多くの都道府県で公立高校が進学実績を伸ばしているという変化があります。

それもそのはず、保護者はそのような情報を得るチャンスはなかなかないものです。受験の最新動向、大学の情報や傾向、時代が求める人材をどうやって育てるか、そのためにどんな環境があるのかなど、保護者にも学んでもらい、情報のアップデートをしてもらいましょう。

 

<保護者ガイダンスのおすすめコンテンツ:マクロ編>

社会で求められる人材とは

時代の流れ、ICT、グローバルなどの切り口から、今の子どもに必要なスキルを具体的にイメージしてもらう。

例:楽天の正社員に求められる英語力はTOEIC800点以上。加えてグローバルなメンバーとのコミュニケーション力。具体的には、中途採用合格基準:メンバー600点以上/マネージャー650点以上/幹部800点以上と決められている。新卒の外国人採用も積極的。就職に関しても、日本国内のライバルだけとの戦いではなくなっている。

入試動向最前線

新設した学部・学科・コースの紹介、そこから読み取る時代の流れ、求められる人材像を考える。保護者の時代とランクやイメージが変わっているケースも紹介。

例:学部や学科はより専門的に。海洋政策科学部(神戸大学)、アントレプレナーシップ学部​​(武蔵野大学)、東大の推薦入試など。

参考サイト

例:注目が高まる分野で新勢力となっている大学(AIやデータサイエンスの場合)の紹介。滋賀大学(データサイエンス学部)、横浜市立大学(データサイエンス学部)、会津大学、公立はこだて未来大学など。

参考サイト

 

教育の最新情報・教育の方向性

グローバル教育、ICT教育など、教育現場の最新情報を具体的な大学(高校)名を出して解説。

例:大学の学事暦見直し。国際基準に合わせて秋入学がスタート。

 

<保護者ガイダンスのおすすめコンテンツ:ミクロ編>

塾生の事例紹介

どんな生徒がどんな大学(高校)に進学したかの実例。当時の勉強内容とその後の人生まで紹介。

ミクロな情報で外せないのが先輩事例です。いろいろなタイプの先輩事例をストックしておきましょう。そのとき(ちょうど今)どんな勉強をしていたか、部活との両立、併願先、その後の就職先・・・情報は細かければ細かいほど、保護者はイメージしやすくなります。

 

わたしは、誰しもが羨む例だけでなく、うまく行かなかった例(わたしは「悪しき勝者の例」と呼んでいます)も紹介していました。偏差値だけで難関国立大学に進学を決め、結局退学してしまった先輩などです。前の話に戻りますが、偏差値で人生の勝ち負けが決まるわけではないという実例です。世の中に成功事例はたくさんありますが、失敗事例ってなかなかないんですよね。塾にならあるじゃないですか!

保護者の価値観のアップデートは一朝一夕にいくものではありませんが、少しずつ、機会を作って啓蒙していきましょう。啓蒙する際には「数字」と「感情」、「危機感」と「安心感」の組み合わせをバランスよく行うことがコツです。人によって啓蒙のクセがあるもの。「自分は精神論で危機感を煽ることが多いから、数字も見せて説得力を高めよう」など自分のクセと別の方向での啓蒙も取り入れるようにしてください。

 

保護者の期待を力に変える。生徒へのアプローチ

保護者の期待をプレッシャーに感じている生徒に対して、直接的にはこれといった決め台詞があるわけではありません。とはいえ、期待されることは悪いことではありません。もし、このことで自己肯定感が薄れかけているようなら、短期の成果を求めるのではなく、長期的に活躍できるイメージを持たせてあげるのもいいですね。

子どもにも先輩事例はよく響きます。毎日1時間コツコツ単語を覚えていた先輩が、今ではグローバルに活躍している話や、受験に失敗してしまった先輩が今では社長になった!という話など。身近な先輩の実例で少し姿勢や意欲が変わるかもしれません。

 親子のコミュニケーションがうまくいっていないと感じたなら、「この資料をお家の方に渡してね」「このアンケートに答えてもらってね」など、ちょっとしたお節介もおすすめです。

 

塾業界にも新しい風は吹いている

今回のテーマとはちょっと外れますが、保護者啓蒙の難しさにも触れておきたいと思います。

脱偏差値、グローバル化など、保護者に新しい教育の世界を見せても、塾としては古い手法しか持ち合わせていないことがほとんどです。これが実に難しいところです。

グローバルな人材になるには英語だ!と言いながら、指導はきっちり4教科、特に数学をがんばりなさいと言ってしまうし、偏差値で語るのは古いと言いながら「日本国内の学校の」偏差値で指導するしかありません。グローバルな経済界で力を持っているのはスタンフォード大学やハーバード大学、日本を含めて世界中の学校から選択をさせた方がいいのでは・・・。

私たち塾の先生の価値観をまずアップデートした方が良いのかもしれません。これにはまず、それぞれの塾のトップが未来を見据えて変化を受け入れ、自ら変化を起こすことなのではないでしょうか。塾のトップが「これからは偏差値だけではない!自ら切り開いた道で素敵な人生を歩んでいけるように、塾が全力でサポートします!」と発信することでしか変わりません。

大学名での進学実績アピールだけでなく、起業家輩出人数などキャリア軸でのアピールができれば、塾の当たり前が変わっていく地殻変動に繋がっていくかもしれませんね。これはなかなか壮大な取り組みに思われますが、個人塾のレベルではもう始まっていることです。塾業界も変わり始めているのです。

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