監修いただいた先生
子どものやる気は、起動するまでに時間がかかるのにあっという間にシャットダウンしてしまいがち・・・。うまくやる気を引き出して、前向きに学習に向き合ってもらうために、どんな仕組みや言葉が効くのか。生徒のやる気を引き出す達人が伝授します。
塾に来ても勉強しない生徒・・・?
両親は共働きで帰宅が遅く、学校の後の子どもの居場所として塾に通わせている保護者。当然、成績にもあまり口を出さず、むしろ関心があるのかも疑問。子ども本人も、通塾は自分の意思ではないから、特に目標も持っていない。塾へ来て、決められた時間を過ごして、帰る。それだけ。
昨今ではこんなケースがあるんですよね。塾としては、どう接してあげるのが正解なのか、迷うかもしれません。それでも、やはり信頼して預けていただいたのですから、精一杯対峙してあげてこそ、地域に必要とされる塾になるのだと思います。
ちょっとしたきっかけで子どもの興味の扉は開く!
このような生徒は、授業中にウトウト居眠りをしてしまったり、宿題もやってこないことは珍しくないでしょう。保護者からも、宿題は出さないでと言われたり・・・。一生懸命指導しても糠に釘では、講師のモチベーションだって不安になります。
でも、考えてみてください。今回のケースは小学生ですが、宿題を完璧にやってくる子の方が少ないですよ。「宿題やったよ!」と言っても、やっつけで終わらせていたり、まあ、多くの小学生は普通勉強なんて嫌いですよね(笑)このお子さん、ちゃんと塾に来るだけでも偉いじゃないですか。
それでも子どもって単純なもので、ちょっとしたきっかけで興味の扉が開くんです。好きな先生ができたり、苦手な教科でも興味のある単元に出会ったり、刺激を受ける友達がいたり。そうなるとしめたものです。大人がやることは、そんなきっかけが見つかるような働きかけをし続けることです。いつか良い出会いがあると信じて、諦めずに関わり続けることです。今は目標もなく通塾していたとしても、学習の場に参加しているだけで、いつか扉が開く時が来るかもしれないのです。
興味が持てる何かを一緒に見つけてあげる作業は、意外と我々は得意かもしれません。たくさんの子どもを見てきたわけですから。表情、ノートの取り方、もしくは、教科書のある部分に少し長く目を留めた、などのちょっとした行動で気づくと思います。教材など、興味を見つけるための材料には事欠かないので、とにかくたくさん見せてみて、リアクションを探ってみてもいいでしょう。
その子にとって、それは勉強じゃないかもしれません。何か別のところに興味関心の対象が見つかったとしても、そこで自己肯定感が高まるのであればよいと思います。この先、学歴重視社会じゃなくなるかもしれませんしね。
子どもたちが生きていく上で大切なこと、努力することや、人との付き合い方、表現力、コミュニケーション力・・・そんなスキルも、社会と関わることで育まれていきます。ただ何となく塾に来ると言っても、それはちゃんと社会と繋がっているということなのです。
「塾」という居場所を作ってあげる
わたしも過去にそんな生徒に出会ったことがあります。中学3年生で、アルファベットも書けなかったんです。冗談かと思ったら本当に書けなくて、ABCから指導しました。それでも翌週にはすっかり忘れていて、じゃあまたやろうな、と言ってまた1から。
そんな調子ですから、当然宿題もやってきません。入試の間際まで同じことの繰り返しでした。今でも記憶に残っているということは、それだけ手がかかったんでしょう。でも、わたしは一度も叱ったりはしませんでした。ここで彼を否定してしまったら、居場所がなくなってしまいますからね。特に個別塾の先生は、居場所を守ってあげる、じっと見守ってあげる姿勢も大切なのかもしれません。
ちなみに彼は推薦で進学したのですが、彼の特性をよく理解してくれる学校で、とても安心したのを覚えています。
講師への指導・フォローはどうする?
今回のケース、実は講師へのフォローについても検討しておく必要があります。塾の講師は、特に個別指導塾などには優秀な学生が多いため、やるべきことをやらない、学習したことをすぐに忘れてしまうということが理解できずに戸惑うかもしれません。
まずは、そういう子どもがいるんだということは伝えるべきです。あなたとは違うかもしれないけれど、そんな生徒が現実にいること、その保護者が我々を信頼して大切な子どもを預けてくれているのだということを、改めて認識してもらいましょう。塾は大切な居場所なのです。
そして、塾を生徒にとって大切な居場所にするために、生徒に興味を持って質問をする、生徒の話を興味を持って聞いてあげることが何より大切だということを伝えてください。なかなか学習に身が入らない生徒に、講師はつい指導口調になってしまいがち。でも、それでは生徒はますます居場所を失ってしまいます。
大切なのは「あなたに興味があるよ」ということを態度で示すことです。自分に興味を持ってもらえていることが伝われば、生徒の自己肯定感は高まるはずです。そうすると、ただ通わされていた塾という場が、彼らにとってちょっと特別な場になっていくでしょう。
学習障害かな?と思ったら
生徒に学習障害が疑われるような場合はどう対応するべきかという質問を受けることがあります。当然ながら、そうかもしれないな、と思っても、保護者にそのまま伝えるわけにはいきません。保護者から「うちの子もしかしたら・・・」などの発言があった場合は、塾での様子を伝えたり、専門科への受診を進言したりといったアクションは取りやすいかもしれません。
ある一定の割合でそのような子どもが存在することはわかっていることです。それはその子の特性として捉え、その特性に合わせたアプローチをすればいいということです。何れにしても、とてもセンシティブな内容なので、学生講師に任せるのでなく、社員がきちんと対応しましょう。
塾は社会とつながる大切な居場所になる
いかがでしたか?やる気ゼロさんにとっての興味ごとが見つかれば、やる気を引き出してあげられそうですね。
はっきり言って、全員がめちゃくちゃすごい人になる必要はないと思います。一生かけても自分の興味があることが見つからない人もいるかもしれません。そうであったとしても、他人に迷惑をかけない、挨拶をする、最低限のルールを守る、そんな正しい大人になってほしいです。
それには、やはり社会とつながること、複数の場に所属することがプラスになると思っています。教育に携わっている以上、どうしても成果を期待してしまうのですが、全員そうはいかないのだと覚悟して、それでも諦めずにきっかけを見つけてあげてください。指導者が諦めたらおしまいですから!