第7回 竹林裕太さん(塾経営者)――みんなにコーチがいればいい!

この番組は「教える」をなめらかにし、みんなの「かわる」に寄り添うを掲げるPOPER代表の栗原慎吾と、山村で自宅を図書館として開き、「地に足をつける」生き方を探求する思想家・社会福祉士の青木真兵が、さまざまな「教える現場」を訪ね、その奥深い呼吸に耳をすませながら、教育の本質を問い続けるトーク番組です。

 

竹林裕太(たけばやし・ゆうた)さんプロフィール

1989年北海道札幌市生まれ。3児の父。趣味はサウナとキャンプと旅行。北海学園大学経営学部卒業後、大手学校法人で教務・広報を担当。2016年に大学時代の友人と一緒に独立し、「子育て世帯の負担をもっと減らし、もっと楽しく子育てができる社会を目指す」という理念のもと、株式会社アスクリエイトを設立。北海道札幌市を拠点に、親と子どもに課題の乗り越え方を教える学習塾「NEXT」を複数展開し、地域に根差した教育を実践している。

 

経営学×教育という独自の視点から

栗原 以前、POPERが塾経営者のみなさんをお招きし、ワークショップを開いたことがありました。そこに参加してくださったのが竹林さんです。その後、竹林さんから、塾内に良い変化があったとご報告をいただき、POPERで「札幌にすごい塾がある!」と話題に。今日は竹林さんの塾経営にかける想いを伺いたいと思っています。

青木 竹林さんは、幼い頃から学校の先生になりたかったとお聞きしたのですが、いつごろからですか?

竹林 小学生のときから先生になりたいと漠然と思ってました。「●●ガチャ」という言葉がありますが、私は「先生ガチャ」に当たってきた人生だったんですよね。「この先生がいなかったら、私は先生になっていない」と思える人たちとの出会いがありました。

青木 経営学部にいながら教員免許を取得されたそうですが、めずらしいですよね?

竹林 「ビジネスセンスのある教員になりたい」と考えていたんです。というのも、企業で務めていた社会経験のある先生の話のほうが、自分に刺さったから。大学を卒業してすぐ現場に赴任すると、子どもたちがこれから見るはずの世界を知らないまま教えることになる。それって無責任なんじゃないか?と。それで、大学では経営学部を選びました。 

青木 経営学部での学びはいかがでしたか。

竹林 授業で触れた「ソーシャルビジネス」には影響を受けましたね。それまで、社会に貢献するといえば公務員しかないと思っていましたが、ビジネスの力で解決できることもあるんだ!と。

栗原 起業のきっかけはなんだったんでしょう。

竹林 教職課程のゼミでの経験からです。ゼミ生のみんなと、平等とは何か、教育とは何かを議論するなかで「この人に先生になってほしい」と思う魅力的なひとがいました。でも、キラリと光るものがある人は民間企業を受けてしまうし、内定もバンバン決まる。「魅力のある人は公教育にいかないんだ!」という現実に衝撃を受けると同時に、「もったいないなぁ」と思う自分がいました。面白い先生と子どもたちとの接点を、自分たちで作れないか?と思ったのが起業のきっかけです。最初はゼミの同期と学校をつくろうと思っていたんです。

青木 塾じゃなくて学校をつくりたかったっていうのが面白いですよね。ある意味、公共をつくりたいという思いが原点にあるというか。

竹林 私自身の経験があるかもしれません。大学受験に向けて同級生が予備校に通うなか、うちは母子家庭なこともあり経済的に厳しかったんです。「親ガチャ」というより、「箱の中に当たりが多い人」と「少ない人」とで差がどうしても生まれてしまう。だから、子どもたちのスタートラインが揃っていてほしいと思う。一方で、塾を経営している人間として、格差に加担しているのではないか……という思いもあります。

青木 そういった社会構築の視点をもちながら塾を経営されている人はあまり多くない気がします。POPERの事業ともつながるんじゃないでしょうか。

栗原 とても共感しています。個人塾の中には、竹林さんのように想いをもった人がリスクを背負って経営しているところがたくさんあります。その可能性をぼくは信じているし、そういう場所を日本全国で増やしていけたらと創業当初から思ってきました。

でも、塾業界にもスタートラインの問題はありますね。個人塾が近隣の大手塾に勝つために日曜日も教室を開けるなど、労働量でなんとか補おうとするケースも。そこで個人塾の人たちがコミルを利用すれば、システムとしては大手と同じクオリティが出せるようになるので、POPERとしてはそうした形での企業支援をしていきたいと思っています。

塾の存在価値は「保護者の思いを聞くこと」にある

青木 大学卒業後はどのような道を歩まれたのでしょう。

竹林 大手学校法人に就職して、担任業務をはじめ、人材育成や広報に携わりました。実は、今も教員が不足しているようで、前職の学校からお声がけいただき教壇に立っています。

栗原 経営と学校教育の現場を往復しているのがいいですね。塾と学校、それぞれどんな違いを感じていますか?

竹林 塾でニーズに応えるなかで、学校との違いを感じるようになっていきましたね。

学校で集団指導をしていると、「今ゾーンに入ったな……」って思うような、おもしろい授業ができるときがあります。そうした経験をベースに、創業時はアクティブラーニングを塾の売りにしていました。たとえば、教師が一生懸命教えても、クラスのうち半分はわかっていない、なんてことはたくさんあります。私はそれが耐えられないし、わからないまま帰ってほしくないから、生徒同士で「教え合いっこ(学び合い)」をしてもらう。理解できなかった子も、友だちがかみ砕いてくれた言葉なら理解できるし、教育的な効果も実証されています。

ところがある日、保護者から「ちゃんと先生から教えてもらえると思ったのに!」と連絡がきてしまったんです。そのときに、「自分がやっていることは公教育と求められていることとは違うんだ」って改めて思いましたね。やっぱり塾には学校にはないニーズがある。「経営者がやりたいこと」をやるんじゃなくて、やりたいことと、求められていることが重なるポイントを追求したほうがいいし、塾とはそういうものだと思います。

青木 そうなると、塾に求められていることとは何になりますか。

竹林 やっぱり、保護者はちゃんと勉強をみてほしい。その保護者の思いに耳を傾けられることに、塾が存在する価値の根っこがあるんじゃないでしょうか。学校で授業がわからなくても、だいたいの親は文句を言わない。でも塾だったら「ちゃんと教えて!」と言える。それって、大事なことだと思います。保護者との接点が大変だし、面倒だと思っている塾も多い。でも、私からすれば保護者の意見を聞けるかどうかが腕の見せどころですし、そこに塾の勝ち筋があると思っています。だから、「困ったらまず竹林に相談してみよう」って思ってもらえたら、うれしいですね。

栗原 とても本質的だと思います。学校は先生一人で教えているゆえに「そこまでやれない!」という構造的な問題が大きいですよね。それに学習指導要領があるから、授業を進めていくしかない。基礎学力がつけられないと、どんどん置いていかれちゃう。親は心配だけど、かといって子どもの隣で宿題を見るのは、共働きだとまず難しい。本来的には学校がやるべきだけど現状では難しい、といった課題があるときに、塾は大事な存在です。

青木 教育にも経済の力が入ると、風通しがよくなるっていうことでしょうか。

竹林 無理やり市場原理を入れたほうがいいとは思いませんが、学校の外部から意見が入ることは大切だと思っています。私学は生徒や保護者から選ばれないと生徒が集まらないので、「いい教育をつくろう」という力学が勝手に働きます。そこは塾も同じ。塾も手を抜くと、廃れていきますから。その意味でも、保護者の考えに触れるタイミングってすごく大事なんです。
たとえば、うちの塾では保護者に月1回、電話をしています。親のいうことを自然に受け入れられて、自然に変われるのが塾です。学校だと、一人の先生が頑張ったところで組織が変わっていくのはすごく難しい。塾は気づきがあったタイミングで改善できます。フィードバックがすぐできるところが、塾のいいところですね。

 経営者やスポーツ選手だけでなく、親と子にも「コーチ」を

竹林 そうやって創業時のスタイルを見直していった結果、学習支援業として勉強を教えるだけでなく、「成長支援業」として「子どもと保護者に課題の乗り越え方を教える塾」として定義したいと考えました。親は子育てという初めてのことに向き合っているし、子どもたちは毎日勉強と向き合っています。スポーツ選手にコーチが、企業経営者にコンサルがいるように、親と子にも課題を乗り越えるためのコーチの存在が必要なのではないか?と。つまり、答えを教えてもらうだけではなくて、課題に対する乗り越え方を学ぶ、コーチをつけてもらえる塾です。
たとえば、保護者には関わり方の例を伝えたりもします。この前、テストの点数があがりましたよ、と保護者に電話をしたら、さっそく子どもを褒めている声が電話を切る間際に聞こえてきたことがありました。「しめしめ、学校ではこの関わり方はなかなかできないでしょう」って思ってます(笑)。

栗原 塾経営者として競争を焚きつけるのではなく、社会課題への問題意識を持っているのは素晴らしいですね。

青木 「結果が出る=一人でがんばる」ではないところが重要かなと思いました。成績を上げるだけでなく、保護者のコーチでもある。「NEXT」は親子が孤立しないようなハブになっていけるかもしれません。

竹林 実際には、塾の先生も学校の先生も、孤独だと思いますけどね。親や子どもと真正面で向き合っているからこそ、悲しいこともある。

栗原 孤独にならないように、みんな失敗したらハグできるような感じでやっていきたいですよね。塾は受験産業を支えているっていうことで批判されがちですけど、その中で塾の存在価値を見出してやっている人がいるというのは大きな希望だと思います。こういう人たちが全国で仲間をみつけて、つながっていったらいいですよね。

栗原慎吾(くりはら・しんご)
株式会社POPER代表取締役。1983年さいたま市生まれ。明治大学経営学部卒。住友スリーエム等を経て、S.T進学教室に共同経営者として参画。学習塾時代に感じた課題の解決を目指し、2015年POPERを設立。神奈川県藤野在住。3児の父。2026年3月に『社会関係資本主義』(夕書房)を刊行。

 

青木真兵(あおき・しんぺい)
思想家。博士(文学)。社会福祉士。奈良県東吉野村に移住し自宅を「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」として開きつつ、複数の組織でPodcastを立ち上げたり、執筆活動を行ったりしている。著書に『武器としての土着思考』(東洋経済新報社)など。

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