入塾面談の真のゴールとは?入塾面談のよくある失敗例と対応策

「入塾面談」という言葉から、入塾を決めた子ども・保護者と自塾の方針や入塾手続きについて説明する場と思われがちです。しかし入塾の意欲を高め、今後の塾生活を有意義なものにしていくためには、入塾面談のゴールを手続きや説明とするのはあまりにももったいないのです。今回は入塾面談で目指すべきゴールについてお伝えします。塾側が抱える入塾面談での悩みや失敗談について、事例と共に紐解いてみましょう。

監修いただいた先生

入塾面談は手続きで終わらせず「合意形成の場」とする

前提として、「塾という存在は、子ども・保護者にとってどういった関係になるべきか」を定義したいと思います。各教科をしっかりと教える「教師」という役割だけでしょうか。子どもを支える「サポーター」、または同じゴールを目指す「パートナー」、それとも子どもや保護者の思いに共感してくれる「理解者」でしょうか。どれも必要なことですが、私は、塾は子どもにとって同じゴールを目指す「パートナー」になるべきだと考えています。

そこで、入塾して同じゴールを目指すパートナーになっていくためには、ゴールはどこなのか、どのような道のりでゴールを目指すのか、認識を揃えなければなりません。入塾面談とは、保護者・子ども・塾の3者が、信頼関係のもと共通のゴールを目指せるよう、合意形成をする最初の場なのです。

パートナーとなるためには「プロセスの合意」が必要

この、合意形成とは具体的に何か。それは、塾・子ども・保護者の3者が、目指すゴール現状値の共通認識を持つこと、そしてゴールと現状とのギャップを課題として捉え、このギャップを埋めるプロセスに対して合意が得られていることです。


塾-保護者間の合意形成ができていないと、さまざまな問題が起こります。

たとえば、
・成績が上がらないとすぐ退塾してしまう
・成績アップに講習会受講が必要なのに、必要性の理解が薄く費用面で受講を断られる
・塾で好成績を出してやる気になった子どもが、帰宅後「その程度で調子に乗っていてはだめだ」といった保護者の一言でモチベーションが下がってしまう
・大学付属の高校に通う子どもに、希望学部に進学するための内申点の重要性を伝えたものの、家庭では「大学付属だからそんなに頑張らなくても大学に行けるよ」といった誤った認識を与えてしまう

というようなことがよくあります。これらも、目指すゴールや現状、課題、プロセスの認識がずれているからこそ起こりえます。

塾側が子どもに伝えていることと、保護者が子どもに伝えていることにギャップが生じると、なかなかプロセスが進みません。早い段階からしっかり合意形成していくことが大切です。

しかし、どうしても入塾面談の中で合意が得られないこともあります。塾の方針と保護者の考えが合わないという場合については、「自塾では引き受けない」という決断も致し方ないでしょう。

入塾面談でのよくある失敗例と対策

塾運営をされる先生方に、入塾面談での失敗例やお悩みついて事前にアンケートを実施しました。その中でも多かった事例についてご紹介すると共に、対処法をお答えします。

CASE1|保護者に対して話しすぎてしまう

「保護者の方がなかなか口を開いてくれなくて沈黙になるのが怖い」「こういうことを聞かれたらどうしよう」といった不安があるのではないでしょうか。そんな方はぜひ、ご自身の不安と向き合い、何を準備しておけばよいかを考えてみてください。

そして、入塾面談では保護者の話をしっかり聞くことを心がけましょう。基本的なマインドセットとしては、話す:聞く=2:8くらいの比率。実際にはもう少し話してしまうと思うのですが、塾側は「8割聞く」姿勢で臨むことをおすすめします。

CASE2|保護者に何を聞いたらいいかわからない

入塾面談ですべての基本情報を得ようとするのではなく、事前に電話でのヒアリングやアンケートを記入いただくのも良いでしょう。子どものことをある程度知ることができ、面談で話す内容も準備できます。

その上で、入塾面談では保護者に「子育ての方針」や「我が子にどんな大人になってほしいか」、保護者にとっての「幸せとはどういうことか」ということを聞いてみてください。もちろん全ての保護者が、子どもに幸せになってほしいと考えるとは思います。しかしその保護者の方がどんな思いで子育てをしているかということをしっかり共有することが、合意形成を結ぶことにもつながっていきます。

タイミング 区別 内容(一例)
入塾面談前に把握しておくこと 基本情報 学校・部活
友人関係
苦手教科
志望校
将来の夢(職業)

過去の通塾歴 (きょうだいを含め)

入塾面談で聞くこと 塾への関心度 塾を検討するようになった目的
塾の体験授業に参加した理由
子育ての方針 将来どんな大人になってほしいか
保護者が考える幸せの定義とは
 


CASE3|アイスブレイクがうまくいかず、盛り上がらない

これについては「相手に興味を持つこと」が重要です。面談中、自分(塾側)に気持ちのベクトルが向いていると、相手は話してくれません。保護者や子どもに対し、「どういう人なのだろうか」「どうなっていきたいのか」と、興味を持って話を聞くようにしてください。

それでもなかなかうまくいかない場合の参考までに、私が実践していたことを紹介します。

それは、体験授業に参加した子どもの様子を観察し、その子の良いところを見つけておくことです。「字が綺麗で丁寧に書く」「元気に挨拶してくれる」など、どんなことでもかまいません。入塾面談で保護者に会ったときに、その良いところを褒めてください。「どうしたらこんな良いお子さんに育つのですか」、「子育てで大切にされていらっしゃることは?」というように、子どもの良いところを認めて話を向けることで、保護者の方も話しやすくなります。

CASE4|保護者や子どものニーズが聞き出せない気がする

保護者や子どもが必ずしも子どものやりたいことや周囲の学校情報を理解しているとは限りません。「なんとなく」で答えていることは往々にしてあります。

志望校など、保護者や子どもの答えをそのまま受け止めてゴールとするのではなく、「将来どうなりたいのか」「何のためにその学校を目指すのか」といった背景にある考えを聞いたうえで、こちらからニーズを整理し、提案してあげることが大切です。保護者や子どもから「未来へ向けてこうなりたい」「こういうことがやってみたい」という部分が見えてくると、その将来像から逆算して、「志望校AだけじゃなくBという選択肢もありますよ」という塾側の提案もできるようになり、より塾が信頼してもらえるきっかけとなるでしょう。

CASE5|子どもとの合意形成はできたが、保護者から横槍が入る

面談で「◯◯さんからA高校を目指したいと伺っていましたが」と切り出しても保護者から「そんなこと聞いてなかったです!私はB高校がいいと思っていて…!」と話が最初から食い違うこともあるでしょう。

保護者と子どもが家庭で合意形成ができているとは限りません。保護者と子どもが未来に向けて話をするきっかけになることも、面談のひとつの役割といえるでしょう。塾が間に入りながら、保護者と子どもとの共通認識を持てるようにしていくことが大切です。子どもとは塾で顔を合わせますが、保護者とも日頃からコミュニケーションを取っていくことが活きてきます。

CASE6|「やりたいこと」「目指したいこと」に対してどう背中を押したらいいのかわからない

夢や志望校がはっきりしていない子どもに対しては、まず「将来どうなりたいのか」を整理してあげることです。そしてモチベーションを高めるためには「やりたい」「やらなきゃ」「やれそう」という3つの軸でアプローチをしてみましょう。

例)
やりたい…理想像となる先輩の現在の姿を見せる。
やらなきゃ…合格までに必要な点数と現状の乖離の把握
やれそう…合格までの勉強ペースの提示。過去同じ道をたどってきた先輩の話。

3つ揃うことで、より子どもや保護者の気持ちを後押しできます。

 

さまざまな事例をご紹介しましたが、最後にもうひとつ。入塾面談のクロージングで、キラートークがあれば知りたい、という声もありました。しかし残念ながら、私もこれぞ!というキラートークは持ち合わせておりません。

ただ、ひとつ提案するとすれば、
「お話をして、一緒に頑張っていきたいと思いました。ただ他にもいろいろな塾があるので、ぜひ他の塾も見てから決めてきてください」と伝えることです。

そんなことを言ってしまったら、他の塾に取られてしまうと思われるかもしれません。しかし、この一言が言える塾かどうか、つまり商品力に自信があるかどうか。自塾に来てもらうことがその子の将来にとってベストだという確信をもって面談することが大切なのです。そのためには、塾本来の価値を高めていくことが欠かせません。

入塾面談を通して、塾が保護者と子どもにとってのパートナーとなり、そして「合意形成」を得て3者一体となってゴールを目指せるようにしましょう。もちろん、入塾面談ですべて終わりということではありません。日々、電話やアプリ等を使ってコミュニケーションをとり、さらに定期的な面談で続けていくことで信頼関係を育むこと。より強固なパートナーとなれるように努めることが大切です。