塾を開校する際、最も難しいことの一つが授業料の料金設定です。いくらに設定するのが妥当なのか、見当がつかないというのが正直なところでしょう。どの地域でも、各家庭は料金には敏感であり、誤ると経営が立ち行かなくなる事態も想定されます。今回は、そうした授業料戦略の正しいアプローチをレクチャーします。
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開校当初は周辺の相場を調べる
塾を開校する際、塾長であれば誰しもが、最初のスタートダッシュを決めて、一日でも早く塾を軌道に乗せたいと考えるでしょう。そのために必要なのは、一にも二にも「生徒数」です。スタートからできる限り早く、一定の生徒数を集めることこそが、塾長に課せられた至上命題なのです。
そこで重要になるのが、授業料の料金設定です。まずは、周辺の相場を調べることから始めましょう。ある程度の規模の街であれば、複数の塾が既に教室を開いているはずです。それらの授業料を調べる方法はいくつかありますが、最も簡単なのが、各教室に資料請求をすることです。申し込めば数日で資料が手元に届くでしょう。
最大のポイントは「どこよりも安く」
次に、集まった資料を見比べて、料金を検討します。ここで、開校時の料金設定として最大のポイントとなるのが、「どこよりも安くすること」です。どの家庭も料金にはシビアです。もちろん、授業のクオリティが高いことが前提となりますが、その上で「どこよりも安く、高品質な授業を提供する」という謳い文句は、何よりも強い武器となります。アピールとして「安さに勝るものはなし」と考えると良いでしょう。
例えば、大手塾が90分4000円で行っているのであれば、3000円と設定します。他の個人塾の料金も参考にして、とにかく、「どこよりも安く」を追求するのです。安さを前面に出すことで、問い合わせ数の増加が見込めます。塾開校時には多くの場合、新聞の折り込みチラシやポスティングでチラシを配布します。通常、大手では2万枚に1件、個人塾であれば1万枚の1件の問い合わせが入るのが平均で、個人塾では5000件に1件入れば成功と言われています。
それが、「近隣で最も安い」とチラシで謳うと、問い合わせが大幅に増えます。ある個人塾の例では、5万枚のチラシを配布し、40件の問い合わせが来ました。先述の個人塾の成功水準の4倍の件数であり、まさに大成功と言えるでしょう。それほど、安さに対する反応は高いのです。問い合わせが来れば、後は高品質であることを材料にして、クロージングに持っていくだけです。実際、この個人塾は7月に開校し、1か月で30人の生徒を獲得しています。
気がかりとなるのは、「それほど安くして経営が成り立つのか」ということです。これは心配無用と言って良いでしょう。大手が4,000円の授業料を取るのは、広告宣伝費や大箱の教室のために掛かる家賃、多くの事務員を雇うのに必要な人件費などが含まれているためで、それらを引くと、概ね3,000円くらいになります。それでも利益がしっかり出る構造です。個人塾が3,000円や、それ以下に料金を下げても、利益は出て経営が成り立つ可能性が高いのです。塾でどのぐらいの経費と利益が必要か、一度周囲の塾の金額を考えず計算してみてください。
大手塾の無料合戦にどう対峙するか
ただし、こうした個人塾の台頭には、大手塾も反転攻勢をかけてきます。脅威となるのが、無料合戦です。近年、大手塾が「夏期講習会無料」「冬期講習会無料」など、無料攻勢に出てくるケースが散見されます。「無料」は「安い」よりさらに強いパワーワードであり、こうした文言に促され、入塾する生徒も多いようです。
しかし、個人塾が大手の無料攻勢に対抗しようと、「自塾も夏期講習会無料で迎え撃つ」と同じことを行ってしまうことは、思わぬ痛手となる危険があります。大手塾は資本力があり、夏期講習を無料にしても財務は揺るがず、その後入塾した生徒に様々な対策講座を売ることで、資金を回収できるという戦略が成り立ちます。
一方、個人塾は夏期講習を無料にしてしまうと、瞬間的に人件費や家賃などで持ち出しだけが多くなり、収入が無いために財務が急激にひっ迫して、じり貧に陥る可能性もあります。
大手塾の無料攻勢に焦りを感じることもあるでしょう。ですが、個人塾だからできる「生徒一人一人をしっかり見る」「塾長が居続けるので、ずっと生徒、保護者に寄り添える」など、独自路線を貫くことこそが肝心です。「大手塾は合わない」「しっかり見てほしい」「長い目で塾と付き合っていきたい」という生徒や保護者は必ずいます。安易に生徒集めに走るより、その原点を守り、大手塾が何をしてこようがぶれないことこそが、重要なポイントと言えるでしょう。
また、最近は、大手塾がなぜ無料にできるのか、その先に何が待っているのかを、生徒や保護者もわかってきているように思います。無料攻勢も以前ほどは効き目が薄れてきているという見方もあり、個人塾の経営者はとにかく焦らず、泰然自若の構えで臨むことが必要でしょう。