[10]本部と粘り強く交渉し、成績向上策を打ったFC加盟のJ教室

監修いただいた先生

個別指導塾サポートを始めて2年程度が過ぎた頃です。3月某日、新中3生と保護者を対象に「受験説明会を開催するので、ミニ講演をお願いしたい」と依頼されました。その塾は全国展開するFC教室の1つで、当時100人弱の生徒が在籍していました。新中3生は25名程度でしたが、説明会に参加するのは17組の親子だということです。開始の1時間ほど前に教室に到着し、参加者への配布物を確認しながら事前の打ち合わせをしました。そこで私はあることに気付き、塾長に尋ねます。「受験対策講座の案内が入っていないようですが…」

 

塾長曰く「当塾は来年の年明けから受験対策講座を設けるようになっています」とのこと。それがFC本部の方針であり、全ての加盟教室が従っているというのです。その塾はスタンダードな指導形態、講師:生徒=1:2で、週2回(1回80分)で月額3万円強の授業料設定です。週3回ならば4万5千円程度でしょうか。数は少ないですが、週に3回(3教科)の受講をしている生徒もいます。ならば、「(例えば)英語・数学・受験対策という週3回のコースがあってもいいのではないか。ましてや今日は「受験説明会」である。ぜひ、そうした案内を配り、受講を勧めるべきだ」…塾長を説得し、その場で「受験対策講座の案内」を作成、プリントアウトして配布物に加えました。指導内容は「後から考える」という綱渡りの行動です。

 

塾長が熱心に対策講座の説明をした結果、17名のうち14名がその場で参加申し込みをしてくれました。後日の申し込みを加えると、計18名の受講者が集まったのです。簡単に計算すると解るのですが、ひとり12,000円/月程度の売上です。10ヶ月で12万円、18名で216万円の売上が、ほんの30分の作業と説明(セールス)で作られたことになります。言うまでもないことですが、それは塾長と生徒&保護者の間に信頼関係が構築されていたから可能な数字です。

 

多くの塾(経営者)がセールスを苦手としています。また、FC塾に加盟している塾経営者は異業種からの参入者が大半ですので、どうしても本部(スーパーバイザー)の指導に盲従してしまいます。しかし、加盟塾は子会社ではありません。もちろん規約は守らなければなりませんが、許される範囲で工夫をすることは必要です。この塾が加盟しているフランチャイズは、そこまで縛りが厳しいということはなかったのですが、それでも本部との格闘はありました。生徒の成績向上のためなら本部と喧嘩も辞さないという塾長の姿勢が、生徒&保護者の信頼を得る源となったのです。時間は1年半ほど遡ります。

 

塾長の悩みは、生徒の成績が上がらないということでした。これは個別指導塾を運営している方に共通の悩みでしょう。個別指導塾の場合、中学生は英語と数学を受講し、週2回の通塾がスタンダードです。受講する英語と数学は成績が伸びたとしても、他教科の成績が伸びなければ高校受験には通用しません。内申点が確保できませんし、単科受験できる高校もありません。塾によってはテスト前に他教科の指導をコマ売りするところもありますが、付け焼刃の域を脱することはできません。塾長は悩んだ末、理科と社会の映像教材(もちろん他社制作)を導入することを決断しました。そして、その講座(週1回)を英数を受講している生徒を対象に無料で提供することにしたのです。国語は準拠ワークを導入して、やはりテスト前講座を無料で実施しました。

 

チラシには「2科目の授業料で5科目指導」と謳いました。「もう、個別指導は成績が伸びないとは言わせない!」というキャプションを付けて。リード文は次のように作成しました。

 

塾関係者の誰もが知っていて、誰もが口をつぐんでいる事実があります。それは「個別指導は成績が上がらない」ということです。冷静に考えれば当たり前のことです。標準的な個別指導…「1回80分の指導を週2回、英数受講」では圧倒的に学習量が足りません。受講していない他の科目は全くのノータッチです。これで成績全体を伸ばそうというのは無理があります。しかし、全科目受講するには授業料負担が大きすぎます。従来の個別指導塾は、そうしたジレンマを抱えながら指導に当たってきました。正直に告白します。当塾も同じでした。何とかこの問題をクリアできないか…私は長年悩み続け、試行錯誤を繰り返し、ついに理想の学習カリキュラムを作り上げました。もう、「個別指導塾は成績が上がらない」とは言わせない!私は自信を持って当塾をおススメします。面倒見の良さという従来の個別指導塾が持つ利点と、圧倒的な成績向上力を兼ね備えた〇〇塾の学習指導を体験してください。(以下略)

 

ところが、この取り組みが本部の知るところとなりました。「勝手なことをやるな!」というお叱りが届きます。が、そこは前職が海千山千の商社マンだった塾長です。本部と粘り強く交渉し、ホームページには紹介しないという条件で「実験的に実施する」という許可を得てきました。

 

このカリキュラムは大きな支持を得ます。中学生を中心に30名ほど塾生数が増えたのです。そうなれば、本部に収めるロイヤリティも増加します。本部は「認める」どころか、翌年から映像教材の制作企業と提携し、全FC加盟教室に導入することを決定しました。

 

そうした本部とのやり取りを含め、「塾長は生徒の成績向上を本気で考えている」という信頼感が、生徒&保護者の間に定着していきました。そんな塾長が「受験対策講座」を提案しているのです。多くの生徒&保護者が納得して申し込んでくれるのも必然です。こうした方法をマスタービジネスと言います。次回は多くの塾で実践し、成功しているマスタービジネスの内容を具体的に説明します。

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