講師にやる気があっても、まったく生徒に響かない、同じミスに対して毎回同じ指導を繰り返す……。生徒のモチベーションが上がらないと、講師のモチベーションも上がりません。そんなお悩みを抱える塾・スクールは少なくありません。 このコーナーでは、モチベーションアップに悩む生徒のタイプ別に対応の仕方、声のかけ方を解説していきます。
監修いただいた先生
第2回は「部活命!やればできるはずなのにギリギリまでやらない「部活脳」Bくん:高1男子」のケースです。
相談者:個別指導N塾 塾長
Bくんは、とにかく快活で好青年ですよ。野球部でがんばっていますが、頭の中ほとんど野球とゲーム。部活帰りに塾に来るのですが、授業もあまり聞いていないようです。朝練の日なんかはウトウトすることもありますよ。
そんな状況なので、入学後成績は下がる一方。講師からも好かれてはいますが、成績をあげてあげたくても本人がそんな調子で困っています。でも、やればできる子なんです。
新田コーチ
部活男子あるあるですね。女子にもいますが、男子の方がバッテリー切れになりがちですよね、全力なんでしょう。
部活に夢中になれるのは人生の限られた時間ですから大切なこと、応援はしたいですが、成績が下がっている状況はなんとかしたいですね。
部活にそれだけ打ち込めるということは、やる気さえ引き出してあげれば、勉強にだって力を発揮してくれるはずです。部活をがんばっている子は勉強もがんばれるものです。もしかしたら本人も「いざとなったらガチでやればなんとかなる!」と高を括っているのかもしれませんよ。
中3のがんばりで高校入試はなんとか乗り切れても、高3の大学入試はまったく違うものです。今がんばることの重要性を教えてあげなければいけません。
部活>勉強の生徒さんには、勉強を「しない」タイプと、「できない」タイプの2タイプがあると思います。Bくんはおそらく前者ですね。後者の場合、体育会系のガッツでガシガシ勉強させる、理解力は弱いけれど量でカバーするという方法が王道です。前者の場合、能力はあるので、あとはモチベーションを上げてあげるだけです。
<部活命!いいヤツだけど勉強しない生徒のモチベーションUPの基本ルール>
- 勉強しないのかできないのかによってアプローチが異なる
- ライバル校に勝つ!甲子園出場!のように、目標を明確にし、勝つための道筋を一緒に考えるべし
- 志望校を野球の強豪校にすると燃える
- 時間の管理をさせる(朝練がある日は何時間、ない日は何時間と決める)
- 野球のことを考えない時間を作る(試験1週間前の部活停止期間を有効に使う)
ーーー登場人物・普段の授業ーーー
Bくん
公立高校に通う高1男子。入学時は成績が高かったものの、テストの回数を重ねるごとに成績が下がってきて、今では約200人中170位ぐらい。野球部でがんばっている。授業の理解はできているが、復習をしないので知識が定着しない。部活が忙しいときは授業中ぼーっとすることもある。注意すれば素直に聞き、元気で明るい性格。
T塾塾長・K講師
中高生向けの小規模学習塾を運営。生徒数80名、講師9名。今回は授業後にBくん、塾長、講師と軽めの面談を行いました。
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Bくん
ちーっす。
塾長
Bくん、こんにちは。今日も部活か。疲れが授業中の態度に出てたぞ。
Bくん
ガチ疲れたし腹減った!
K講師
Bくん、今日も体力使い果たしてきたか(笑)。先週の復習テスト、これじゃ先週がんばって塾に来た甲斐がないじゃないか(笑)。今週新しい単元に入ったし、ちょっとこのままじゃまずいだろう。そろそろ本気出してもらわないと。
Bくん
次からがんばります…!
K講師
次からがんばるのはあたりまえだけど、何をどうがんばるかってちゃんと決めよう。野球だって戦略ってもんがあるだろう?大谷翔平の曼荼羅チャートが有名だよね?目標を達成するために行動計画を立てたものだね。あれがまさにそうなんだよ。
Bくんにも大学進学の目標があって、そのためにやらなければいけないことがある。先週の復習はそのほんの一部で、もっとあるでしょ?でも今は部活もがんばりたいよね?じゃあどうする?
Bくん
えー。。
K講師
Bくんははっきり言ってみんなよりガッツがあるんだよ。瞬発力もある、足りないのは計画性と持続力!計画は手伝ってやるから持続してみようよ。例えばゲームの時間、スマホをみている時間、移動時間でもいい、どこかの時間を勉強に置き換える努力をしてみよう。目標を定めて具体的な行動計画を立てるんだよ。キミがこの塾の大谷翔平になるんだよ!なんかワクワクするだろ?
実は僕も高校生時代はBくんみたいにサッカーばっかりやってたんだよ。こう見えて結構強かったんだぞ!でもね、高2で気づいたんだよ、まわりの友達は勉強もちゃんとやってて、僕は勉強が全然追いついていなかった。引退して、友達はさっと勉強に切り替えて、僕だけ取り残された感じだった。完全に出遅れた。友達は推薦でW大学に行って今でも大学サッカーをがんばってるよ。そいつ、部活もしながら、大学進学に向けて計画していたんだよ、知らなかった。
ね。努力してる人はもう努力してるんだよ。始めるのは早い方がいい。今は部活と両立できるペースでいいんだよ。計画して地道に進むんだよ。
ーーー新田コーチ割り込み!
Bくんはやればできるタイプ!いいですね!
やってもできないタイプの生徒はとにかくお尻を叩いてやらせる、理解力が弱いところを量でカバーするようなやり方になります。
やればできる生徒はモチベーションをあげてあげるのみ!これが難しいのですが、体育会系の生徒には「戦略」「攻略」みたいな説得方法が効果があると思います。目標設定の大切さも十分理解していますから、それを勉強に置きかえよう!というストーリーがいいですね。
講師の経験もリアルに伝わっていいと思います。同じ部活でなくても、先輩としてあの時こうしていればよかったという話はしてあげてもいいと思います。
Bくん
だってみんな部活に人生削ってないじゃん。
塾長
部活に人生削ってない子も受験でライバルになるんだよ(笑)。
Bくん
何をするか決めてくれた方がやりやすいんだけど…。
K講師
ぼくが決めるのは簡単だけど自分で決めなきゃ意味がないんだよ。M高の野球部だって自主性があるからこそ強いんだろ?自分たちで決めたことに自分たちで責任を持つ、同じことだよ。人に決められたことだけやってたら、負けたときに人のせいにしてしまうぞ?
ーーー新田コーチ割り込み!
自分で決めることが大事です!これからの人生もそうです。受験も部活も人生の通過点、そこにたまたま居合わせた我々がどんな言葉をかけるべきか…。
我々の時代と違って、今の子どもはあまり叱られなくなったというか、ガミガミお説教されたりする経験が少なくなったと思います。もちろん、きちんと関係性を築いた上でですが、大切なことはきちんと伝える、多少説教くさくなったとしても正面から話す、そんな経験も彼らには必要かな、と個人的には思っています。今回のK講師の声がけも、Bくんにきちんと響きそうですね!
Bくん
テスト前はやるって!
K講師
目の前のテストじゃなくて、受験に向けて計画していかないと(笑)。Bくんはやればできるってみんな知ってるよ。努力は得意だろ?本気だそうぜ!
塾長
慶應大学の野球部の話知ってる?今めちゃくちゃ強いんだけど、昔は弱かったんだよ。それを覆したのはスポーツサイエンスだって言われてる。科学的にすごい分析と計算で勝ってるんだよ。すごくない?スポーツもド根性で歯を食いしばる時代から科学が勝る時代になってるとも言えるね。この記事おもしろいから読んでみて。
勉強も同じなんだと思うよ。地道にコツコツ学習を重ねるやり方と、スマートに科学的に進めるやり方がある。一緒に戦略的に攻めてみない?Bくんならできるよ。
ーーー新田コーチ割り込み!
2023年夏の甲子園、107年ぶりの優勝を果たした慶應高校の野球部の「エンジョイベイスボール」が話題になりました。スポ根時代に育ったわたしにとっても、これからは脳筋昭和型では勝負できないんだなと学ぶものが多くありました。でも時代に合っていて清々しいですよね。
学習も本来は科学です。学習科学の観点で言えば、学習者にとって人との相互関係、道具(ICTなど)の活用が学習の質により作用すること、そして、「デザイン・実践・分析評価」のサイクルを繰り返すことでデータを蓄積していくこと、さらに、長期的な変化を捉え、学習の質を効率化していくことが大切だと言われています。
このことを、いかに生徒の目線に落として説得するか、わかりやすく伝えるか。部活命の脳筋くんには伝わりやすいかもしれません。
エンジョイベイスボールを実現するために、彼らが地味で辛い練習を積み重ねたことも事実です。そこに科学や便利なツールを導入して、努力をしやすくしたり、成果が目に見えるようにしたわけです。これって我々の世界でも十分展開できますよね!
Bくん
うん、わかった、やってみるよ。まずは何からやればいい?
塾長
まずは最終ゴールを設定して、それに向けた目標を立てよう。作戦会議だ。ゴールは志望校M大学。M大学の野球部だ。ここに向けて、学校の定期テスト、模試をクリアしていく必要があるね。
それと…数学は偏差値4点上げていこう。先週の振り返りテストができなかった原因から考察してみよう。作戦はこれから詳細に詰めていこう。K先生と曼荼羅チャート作ったら見せてください。
これからは、野球のことを考えない時間も必要になってくるよ。テスト前に部活停止になる期間、朝練がない日の朝時間、勉強に使える時間を増やして学習計画を作ろう。もう流石にゲームはダメだぞ(笑)。
Bくん
さすがに(笑)。テストが終わった日くらいにしておきます(笑)。
新田コーチ総評
ここまでわかりやすい運動部さんには例えばこんなトークもいいと思います。
M大学は英語で差が出やすい学校なんだよ。英作文がたくさん出るからBくんの武器である英語が十分活かせるはず。
野球でも、攻めが強いタイプの学校と守りの強い学校では使う戦略が変わるだろ?スタメンを変えたりするよね。それと同じで、自分のプレースタイルと志望校の分析もすごく重要なんだよ。
今回はBくんの性格も前向きで伝わりやすかったと思いますが、Bくん、いい返事だったけれど実践するかですよね。
こういうケースよくあるんですよね。こちらの伝えるべきことは伝えたけれど、こいつ本当に大丈夫かな…と不安になる生徒。
とにかくその時に約束したことを可視化して、いつでも見られるようにしておくことをおすすめします。「これ、君が約束したよね?」「君が決めたよね?」といちいち確認できるようにしましょう。
生徒はたくさんいますから、1人にかかりきりになるわけにはいきません。だからと言って、「ああ、やはりだめだったか」と諦めたくはありません。出来るだけ本人自ら意識を高めてもらうためにも、大谷選手や慶應高校野球部の話は、特に部活をがんばっている生徒には響くと思います。もしくは、もっと身近な卒塾生の例もいいかもしれません。
テスト前の部活停止期間についてですが、強豪校や試合・大会の進捗によっては、この期間も実は自主練という名の活動があることが少なくありません。塾としても困ってしまいますよね。正確な情報を受け取って、塾として臨機応変に対処していくこと、もしくは事前に想定して組み込んでおくことも、我々の腕の見せどころになります。
そのためには綿密なコミュニケーションが必要不可欠です。部活の予定はさることながら、定期テストの結果報告、文化祭などのイベント、振替休日などの予定、きちんと把握できていますか?Comiruなどのコミュニケーションツールをうまく活用してくださいね。