【KEC Miriz対談前編】 子どもの自主性を育むプログラミング教室  体験会では、教室からあふれるほどの参加者

教育機関向け業務管理プラットフォーム「Comiru」を開発・運営する株式会社POPER代表の栗原慎吾が、全国各地の優れた塾の塾長・代表者と対談する連載「Comiru 栗原慎吾の学び紀行」。第5回は大阪市に拠点を置き、全国に570以上の教室を持つ株式会社KEC Mirizの取締役社長・冨樫優太氏との対談をお送りします。2020年度、小学校でプログラミングが必修化され、プログラミング教室が急増する中、飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている同社。大盛況の理由をお聞きしました。前編・後編に分けてお送りします。

株式会社KEC Miriz(ミライズ)
本部所在地 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目1-43あべのハルカス
会社設立 2020年1月1日
資本金 1000万円
社員数 28名
事業内容

教育コンテンツの販売(プロクラ、CHATTY)

楽しさ最優先のプログラミング教室 開業4年で全国に500超の教室を開設

栗原慎吾(以下、栗原) この度は、対談をお引き受けいただきありがとうございます。小学校での必修化に伴い、プログラミング教室が増えています。その中で非常に多くの生徒を集めているのが、KEC Mirizさんの教室だと伺っています。まずはどんな教室なのか、教えていただけますでしょうか?

冨樫優太氏(以下、冨樫)ありがとうございます。最初に概要をご説明すると、弊社は2020年に小学生を対象としたプログラミング教室「プロクラ」(programming cloud)を始めました。現在、全国に570以上の教室があります。その内、直営教室が13教室、後はFCで事業を展開しています。プロクラでは、目的からの逆算を基礎とする思考力、トライ&エラーを繰り返す行動力、そして他の人に伝える表現力などを養っています。

栗原 他のプログラミング教室とは、教え方がかなり違うとお聞きしました。

冨樫 はい。プログラミングと聞くと、どうしても難しいものだと思われがちです。しかし、弊社の教室は、そういうイメージを払拭し、子ども達が「面白い!」「もっとやりたい」という気持ちが自然と湧いてくるカリキュラムを考案しました。楽しみながらプログラミングを覚えられる。それが他社との違いです。プログラミングを通じて、誰もがやりたいことが実現できる。主体性を育んでいく。そんな教室を私たちは目指しています。小さい頃は創造力が豊かですよね。何かを創ったり描いたりして楽しんでいます。そのワクワク感を呼び覚まし、好奇心をもってプログラミングに取り組める教室づくりを心がけています。

大手塾の幹部社員からの転職  ゼロから新事業をスタート

栗原 プロクラの詳しい内容は、後ほど改めてお伺いしたいと思います。冨樫社長は以前、大手学習塾にいらっしゃったのですよね。

冨樫 はい。大手学習塾で高校生に数学を教えており、同社の幹部でもありました。教務の傍ら映像授業で数学の指導も行っていましたが、どちらかというと、マネージャー業務がメインでした。仕事は順調でしたので、転職する気はなかったのですが、たまたまヘッドハンティングの会社を通してKECグループから声がかかったのです。

何か面白そうだし、社会勉強として行ってみるかと考え、代表の小椋義則に会いました。そこで、小椋代表と話すうちに、その世界観に感激したのです。大手企業に在籍していた私は、社外の文化を知らないまま、最前線の教育をやっているんだと、変に鼻の高い状態でした。しかし小椋代表は、全く違っていたのです。

栗原 代表のどこに惹かれたのでしょうか?

冨樫 小椋代表との面談は4 時間にも及び、一人の選考者に対して長時間、本気で向き合う姿勢に感銘を受けました。私に期待していることや、逆に自分が困っていることも包み隠さず教えてくれましたし、うちの会社は完璧じゃないよ、ともおっしゃる。その言葉に、非常に信頼できる方だと実感したのです。自分が今まで知らなかった価値観を感じました。

実は、私は社会人になって夢という言葉を使ったことがありません。夢を語ることがなかったのです。

そういう人間でしたので、実際に会社を訪問した際には、KECの社員の方々が夢を持って仕事に向き合う姿に圧倒されました。誰もが挨拶をして、迎え入れてくださる雰囲気でした。社員の方々の仕事ぶりを拝見し、本当に夢を実現させようと働かれていて、胸を打たれました。

栗原  2017 年 6 月に入社されたそうですが、冨樫社長は前職でかなりの実績を残しておられます。辞める怖さやリスクは感じなかったのですか?

冨樫 以前の私はプライドの塊みたいな人間だったんです。人に負けることが嫌で、自分に汚点をつけたくない。そういう状態にどこか疲れていたのでしょう。仕事に関してはプロでありたいと思っていましたが、周囲の人間を蹴落としてまで、自分を良く見せようとするのは不毛なことではないかと感じていました。それより、自分の成長に力を注いだ方がいい。大きな組織にいると、どうしても無理なことがあります。ですから、意欲あふれる社風を感じたKECでゼロからがんばろうと思いました。

この点は栗原社長も同じですよね。大手企業で実績を残していたのに、あえて異業種から教育業界に参入されました。

栗原 確かに似ていますね。私は2 回起業しており、1 回目は2012年に友人が立ち上げた個人塾に共同経営者として参画しました。しかし塾経営の大変さを知り、失敗に終わったのです。その後、再起を目指し、2015年に現在の株式会社POPERを設立しました。

冨樫社長がおっしゃるように、大きな組織の中にいると、どうしても競争に巻き込まれてしまいます。

それが当たり前になっているので気づかないのですが、後で振り返ってみると、当時は結構疲れていたんだな、と思いました。常に気持ちを張り詰めてやっていたのでしょうね。

ところでKECに入社後、冨樫社長がプログラを立ち上げた経緯を教えていただけますか? 

わずか3ヶ月でプログラミング教室を開業  子どもの好奇心を伸ばすカリキュラム

冨樫 KECは、1977年に奈良県で開校した学習塾です。長らく県内で塾を運営していましたが、ちょうど私が入社した2017年、初めて大阪・天王寺に塾を開業しました。奈良県内で運営していたため、大阪の状況を詳しく知りませんでした。そこで白羽の矢が刺さったのが、大阪の塾にいた私だったのです。しかし、問題がありました。私は高校受験が専門ですが、任されたのは中学受験の塾。初めてのことに、当初は不安がありましたが、どうにか立ち上げることができました。

その後、2ヶ月でブロック長になり、本気でがんばろうと思っていた矢先、小椋代表から他社のプログラミング教室に偵察に行こうと言われ、よく分からないまま同行したのです。

栗原 なるほど、小椋代表の構想に巻き込まれたわけですね。

冨樫 ある日、本社の会議に呼ばれ、小椋代表から「プログラミング教室を立ち上げようと思っている」、「やってくれるやろ」と言われたのです。プログラミングの知識はほとんどありませんでしたが、私は何事にもNOとは言わない。そう決めていますので、やりますと返事しましたが、教室の開業日を聞いて驚きました。それは2018年4月。わずか3ヶ月しかなかったのです。1月の中学受験指導が残っていましたので、中学受験が終わるまで待ってほしいと申し出ました。中学受験が終了して間もない3月25日に体験教室を開催することになったのですが、その時点では、内容は何も決まっていませんでした。

奈良の本社に空き部屋がありましたので、とりあえずそこにあった机や椅子を使いました。窓に貼る宣伝用のシールを作ろうとしたのですが、結局間に合わず、教室の壁一面にポスターを貼って、第1回の体験教室開催を告知しました。

栗原 それは忙しかったでしょうね。

冨樫 はい。非常に慌ただしかったです。告知をしながら教材を作り、コンセプトも考える。とにかく体験教室の日が迫っていましたので、やるしかありませんでした。急ぎ足で決めた内容でしたが、幸いなことに1ヶ月で100 件超の申し込みがあり、胸を撫で下ろした記憶があります。

後編へ続く)

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