塾の運営で最も大切なツールの一つが、授業が終わるごとに生徒一人ひとりの単元の進捗度や宿題、あるいは生徒の様子などを記録する「指導報告書」です。特に、講師が生徒にマンツーマン、もしくは1対2などで教える個別指導塾にとって、指導報告書は生徒の情報を管理するのに不可欠なものと言えます。
監修いただいた先生
塾によっては十分に活用できていないケースもあり、指導報告書を作成していない場合も少なからず見受けられます。 いずれの場合も、塾の運営上は非常にリスクを伴っていると言えるでしょう。
なぜなら、指導報告書が不十分だったり、無かったりすると、生徒への授業の質が下がり、講師間の引き継ぎもおざなりになるばかりか、個々の生徒の問題や課題を見逃してしまい、最終的には学力が上がらずやる気が失せて、退塾につながりかねないからです。
今回は、このように塾の運営に欠かせないツールである指導報告書の効果的な作り方、塾内での効果的な使い方を伝授します。指導報告書を有効活用すれば、保護者のクレームを無くし、不調な生徒に対応してやる気を起こさせる、品質の高いサービスの提供につながります。いわば、クレームをサービスに変える力が、指導報告書にはあるのです。
指導報告書の3つの効果的な使い方例
①指導報告書は講師が備忘録として活用
指導報告書では、授業を終えた講師が、その時間に生徒に教えた単元や内容などの進捗度、与えた宿題などを記述し、保管するのが一般的です。個別指導塾では、生徒ごとに紙のファイルを作成し、名前や住所の他、部活や趣味なども記録して、コミュニケーションを図る時の話のネタとして活用しているところも少なくないでしょう。
また、単元の進捗度を保護者に情報として提供している塾もあります。保護者に対してそうした報告で使うことは、勉強が確実に進んでいる安心感を与えられる点で一定の役割があります。
そして、最も有効な使い方の一つは、講師が個々の生徒がどこまで単元が進んだのかを、授業の前に知るための“備忘録”として使うことです。例えば、個別指導塾では、一人の講師が担当する生徒をずっと教え続ける「担任制」を取ることが多いため、基本的にはどこまで進んだかを覚えている場合もありますが、それでも複数の生徒を担当していると、混乱が生じる可能性もあります。そうした際に役立つのが指導報告書であり、見返せば進捗度は一目瞭然です。
指導報告書を付けていない塾では、生徒に「前回はどこまで進んだっけ?」と尋ねることもあると聞きます。自分の進捗度が分かっていない講師を生徒はどう思うでしょうか。生徒一人ひとりの状況をしっかり把握し、スムーズに前回の続きの単元に入ることで「ちゃんと見てくれている」と感じてもらうことも、信頼関係を築く上で重要な要素となります。
②講師が変わる時の引き継ぎ書としても使用
担任制を取っている場合は基本的に講師の交代はありませんが、事情があって休みを取らざるを得ないこともあり、その際は他の講師がピンチヒッターとして代役を務め、そうした緊急時にも役立つのが指導報告書です。前回まで何を教えて宿題は何が出ているのかが記録されているため、代役の講師も一通り読めばある程度円滑に引き継ぐことが可能になります。
ただし、生徒の近況や性格などを知らなければ、授業の最初の入りが少しぎくしゃくし、途中の指導もうまくマッチしない事態も想定されます。そこで、本来の講師が代役を依頼する時に必須となるのが「引き継ぎ書」です。例えば、「生徒がサッカー部に所属し、最近大会で優勝した」「勉強があまり好きではないため雑談を交えて教えると良い」などを引き継ぎ書によって、代役の講師に伝達するのです。
「最近サッカーの大会で優勝したんだよね」といった入りで始めれば、生徒との距離も近くなるはずです。性格を知っていれば適切な指導法も思い浮かぶでしょう。引き継ぎ書を1枚作ることは、代役となる講師にも、生徒にとっても、非常に有効な一手なのです。
③ネガティブ情報をあえて記載して対策を打つ
塾内部での情報共有という意味で指導報告書を作成する際は、進捗度などの記載と共に、記述すべき非常に重要なポイントがあります。それは、できるだけ生徒の“ネガティブな情報”を意識して書くことです。「この単元はかなりできていなかった」「やる気が著しく低下している」「集中力が切れることが多い」など、生徒の悪い面に目を光らせ、漏れなく記載するようにします。
もちろん、伸びている部分を書くことも重要ですが、それ以上にマイナス面を記述することは非常に大切。なぜなら、プラスの面は何もしなくてもそのまま伸びる可能性は高いのですが、マイナス面は放っておくと、それがネックとなって学習への意欲が失われ、「続けても意味が無い」と最終的に退塾につながるケースが少なくないからです。
つまり、講師が指導報告書にネガティブな情報を積極的に記載し、塾長や教室長は翌日などできるだけ早く読んで問題・課題を察知して、適切な対策を打つこと。これが、指導報告書の効果的な“第三の使い方”なのです。「単元が著しくできていない」のであれば、保護者に電話をして補講を勧めることが対策になり、「やる気が低下している」のなら、塾長などが面談室で相談に乗ったり事情を聞いたりすることで解決を図れる可能性があります。
こうして生徒一人ひとりのマイナス面を消していくことが、生徒のやる気アップや学力向上につながり、保護者にも問題と対策を逐一報告することで「しっかり見てくれている」と信頼を得ることもできるわけです。
後手に回ればクレームに、先手を打てばサービスになる
指導報告書=カルテの活用が塾の行く末を決める
指導報告書に講師があえて生徒のマイナス面を記述し、塾長や教室長が対策を打つことによって、塾の運営は確実に良い方向に変わります。何よりも大きなメリットは、マイナス面を放置することによって生じてしまう保護者からのクレームが無くなることです。
例えば「宿題をやり忘れてくることがたまにある、ケアレスミスが多く、このままだと成績向上に限界があるのでご家庭でも指導をお願いします」というのを予め保護者に伝えておけば、保護者にも責任が芽生えますが、もしこのコミュニケーションがなく成績が上がらないと「どうしてうちの子は成績が上がらないのか」というクレームになってしまいます。
さらに言えば、クレームが無くなるどころか、マイナス面を対策によって払拭することで、生徒自身のやる気スイッチがオフからオンに切り替わったり、補講により苦手分野を克服したりするなど、高品質なサービスを提供することも可能になります。先程の例なら、ケアレスミスをしないようにするにはどうしたらいいかと考え、もしそれが防げたら成績向上にもつながるということです。つまり、指導報告書を活用することによって、クレームを防ぎ、サービスの価値を向上することができるわけです。
マイナス面に対処できず、後手に回ってしまえばクレームにつながり、塾は信用を失います。一方で、指導報告書を使って先手を打てば、塾は頼りにされ、信頼度も高まります。指導報告書はいわば、生徒の状態を知るためのカルテであり、それを活用できるか否かによって、塾の行く末が決まるといっても過言ではないのです。
授業内容の報告だけになってない!?保護者の心をつかむ!指導報告書作成の3つのルール
クローズドで管理し、効果的な運用と対策につなげる
指導報告書をどのような形で記録し、管理するかということも大きな課題です。さきほどの例にように、伝え方には最新の注意を払いながら、マイナス面も含めて全てをデジタルで記述・管理し、保護者や生徒などとできるだけ共有する方法もあるでしょう。しかし、その場合に問題となるのが、「本当のマイナス面の情報を記述しにくくなる」ことです。生徒や保護者が見るのが前提であるならば、当然のことながらあまりにシビアなことは書けません。そうなると、マイナス面を記述して対策を打つという戦術が取れなくなります。
そこで、指導報告書は生徒の良い面も悪い面も講師と塾長、教室長で共有するためのツールと割り切り、生徒や保護者にはオープンにせず、あくまでクローズド(閉じた)状態で管理することも一つの手となります。クローズドの場合に適しているのが、紙の指導報告書に記して生徒一人ひとりごとにファイルに閉じてキャビネットに保管するアナログでの管理です。アナログであれば物理的に見る人を制限でき、生徒の秘匿も保持できます。
一方、Comiru(コミル)の指導報告書の機能の応用事例ですが、作成して保護者には送らずに保存状態とした上で、講師と塾長や教室長がクローズで情報共有するために使うというデジタルでの管理もあるでしょう。アルバイトの講師がスマホで入力もできるため、場所を選ばず作成できる便利さもあります。いずれにせよ、情報をクローズドにすることで、より効果的な運用と対策が行える点がポイントです。
先程のマイナス面も含めてオープンにするということと矛盾を感じられるかもしれませんが、マイナス面の中にも保護者と協力体制をつくるために伝えるべきことと、そうでないものに分かれるものがあるということです。
講師は保護者対応せず生徒に専念も一つのやり方
仮に生徒に補講で残ってもらうことになった場合、保護者に電話を掛けるのは誰が適切でしょうか。あるいは、面談や夏期講習の営業などは塾の関係者のうち誰が行うべきでしょう。塾によっては講師が直接保護者と連絡を取り、そうした業務を行っているところもあると思います。講師が行うことで、保護者に対して責任を果たすために必死に成績を上げようという意識が強くなり、塾長や教室長、社員の業務削減にもなるというメリットはあるでしょう。
ですが、逆に講師には一切保護者との連絡業務や面談をさせないという方向性もあります。保護者対応は講師の仕事ではなく、本分は、質の高い授業を行い、寄り添って励まして一緒に頑張っていく生徒対応であるという考えです。
塾の“商品”である講師はあくまで生徒対応に専念し、保護者対応といったバックオフィスの業務は、塾長や教室長、社員が行う。個別指導塾などでは、こうした業務のすみ分けも、質の高いサービスを維持していくためには必要な態勢の一つと言えるでしょう。