大手塾経営経験者が語る中小塾にしかできない“下剋上”戦略とは

現在、塾業界では大手塾の存在感が増し、都市部以外の地方でも古くからある有力な地元塾が大手グループに吸収合併されるケースが見られます。そうしてますます巨大化する大手に中小規模の塾が対抗し、生き残りを図るためにはどのような戦略や戦術が必要となるでしょうか。 大手が最も強みとするのは、上位校の合格者数や合格者占有率など「数」をアピールできる力です。中小の塾は、そうした数ではかなわないのが現状です。しかし、実は、中小ならではの利点もあり、それを武器にした戦い方が有効です。 今回は、中小の塾が大手に下剋上を果たし、生徒を獲得するための戦略、戦術、ヒントを解説。自塾の運営に役立てていただきたいと思います。

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大手に対抗して中小が生徒を集めるために必要なアピール法とは

“数”で大手にかなわないなら“姿”を見せよ

「□□高校合格者数○人」「△△高校合格者占有率○人」――。大手塾はその圧倒的な生徒数とそこから生まれる合格者数など“数”を武器に、チラシや窓に掲示するポスターなどで徹底的にアピールするのを常套手段としています。生徒数が少ない中小の塾は数による訴求では、大手に歯が立たないことは火を見るよりも明らかでしょう。

ただし、大手に対抗する手段が全くないかと言えば、そうではありません。その武器となるアプローチの一つが、生徒の「姿」を見せることです。

大手が打ち出す数はパワフルですが、生徒個々の具体的な姿をその数字から読み取ることはできません。また数字は塾にとって都合の良いように作られている可能性があり、「本当にそうなのか」と疑念を抱く保護者も中にはいます。その間隙を縫って、通塾する生徒の「姿」を見せるのが、中小の塾の有効な施策となります。

姿=個々の生徒を見せる

“姿”を見せるとはどういうことか。要は、通塾する個々の生徒のありのままの姿をできるだけ具体的にチラシなり、掲示するポスターなりに提示し、訴求するということです。

ベストな方法は、生徒の実名と顔写真に加え、本人直筆の塾に対する感謝の手紙をキャプチャーしたPDFや画像として掲載すること。例えば、志望校に合格したのであれば、「○△高校合格!」と大きく見出しを載せ、実名、顔写真、そして「塾の□△先生のおかげで受かった」という内容の感謝の手紙を貼り付ける構成とするわけです。

あるいは、補習塾であれば、同様の構成で「塾のおかげで期末テストの点数が各教科20点ずつアップした」などと生徒が書いた手紙を掲載します。もちろん、実際にそうした実績を出し、なおかつ生徒が塾や先生に信頼を寄せていることが大前提です。そうした信頼関係が成り立っているのであれば、生徒に協力を依頼し、塾によって目標を成し遂げた生徒自身をアピール材料として、全面的に出していくわけです。数に勝つには具体的な生徒の姿。これこそが、中小の塾が取れる最強のアプローチです。


ツール作りに時間を掛けるのは時代遅れ

ただ、自塾をアピールするためのツール作りにあまりにも時間を掛け過ぎるのは本末転倒です。塾の本分は、生徒への指導、コミュニケーション、保護者への対応であることは言うまでもありません。それ以外のこうしたツール作りのポイントは“省力化”です。

塾によっては、生徒から手書きのコメントを集め、それらを職員や塾長がパソコンのWordなどに入力し、それをさらに編集するなどして時間を掛けてしまっている事例が見られます。

これを生徒がスマホに直接入力し、送付してもらう方法にすれば、入力の手間が一気に省けます。直筆の感謝の手紙などは再度打ち直す必要はなく、それをスキャンしたり、スマホで写真を撮ったりして、そのまま掲載すればよいのです。その方がよほどインパクトがあり、肉筆によって生徒の気持ちも伝わります。

例えば、Comiruを使えば、個々の生徒にLINEやアプリで依頼し、コメントを集めることも実に容易に実現します。手紙も直接手渡してもらう以外に、生徒がスマホで写真を撮って、LINEやアプリに添付して送ってもらうことも可能です。こうしてツール作りの効率化を図る心掛けも、カギを握るといえます。


 

やるべきは個々の生徒の深掘り

通塾を始めた生徒を大手に取られないための施策も重要になります。大手にはやりにくく、中小の塾だからこそできるのが、一人ひとりの生徒を深掘りすることです。大手は生徒が多いため個々にそれほど多くの時間を掛けられない一方で、生徒数が限られている中小であれば、やる気次第でより生徒のことを深く知り、密なコミュニケーションを図ることが可能となります。

簡単なところでは、誕生日をリスト化しておき、その日が来たらお祝いの言葉を掛けること。また、氏名のうち、下の名前の由来を聞いておき、何らかのタイミングでそれをあらためて話題にすること。さらに、将来の夢、それを追い求める理由を時間を作って話したりするなど、少人数ならではのコミュニケーションが、中小の塾では可能です。

他にも、個々の生徒を深掘りする方法は色々あるでしょう。当然のことながら、本人が望まないことまで無理に聞き出す必要はありませんが、そうした中小の強みを意識して、大手ができない領域を手厚く取り組むことが、大手との差別化では有効となります。

 

大手の苦手を見定め、徹底的に攻める!

「授業と関係ない費用は一切いただかない」と宣言

大手を相手に勝ち残るためには、大手が手を出せない苦手な領域を見出し、その点を徹底的に突くことも効果的です。その一つが、「授業と関係ない費用は一切いただきません」とチラシなどで謳うことです。

実は、大手は入塾料や施設費、冷暖房費などの名目で、授業とは直接関係のない費用も徴収することがあります。生徒数が多いため、そのうち一つでも無料にすると、経営への打撃が大きく、簡単に「ゼロにする」とは言えないのが実情です。全国に数千人の塾生を抱える塾が、入塾料を1万円徴収していたとして、それを無料にすれば、数千万円の売り上げが吹っ飛ぶことになります。

しかし、中小の塾にとって入塾料をゼロにする施策は、生徒を集める広告費と考えれば、それほど高いハードルではないといえます。その他、施設費なども取らず、最終的に「授業と関係のない費用は取らない」を謳い文句にすれば、大手との差を出し、自塾の誠実な姿勢をアピールすることができるわけです。

年間総授業料を提示して比較を促す

もう一つの攻めどころが、「年間総授業料」をチラシなどで提示することです。大手にとっては、この年間総授業料を示すことが、難しい現状があります。年度初めに1万人と想定していた塾の生徒が9000人しか集まらなかった場合、不足分を補うために、夏期講習の料金を上げるなどして帳尻合わせをするのが、よく見られる施策だからです。最初に年間総授業料を提示してしまっていては、その帳尻合わせができなくなります。

中小の塾は、その点を逆手に取って、年間総授業料を明示してしまうわけです。チラシなどには、「塾選びでは、各塾に年間総授業料をお尋ねください」と記しておけば、それを見た保護者に大手にも聞くことを暗に促せます。答えられない大手があれば、そこも自塾の誠意を見せることにつながり、優位に立てるというわけです。

補習メインの個別指導塾は生徒のノートで宣伝

個別指導塾の中には、地方を中心に、学校の補習をメインに行っている中小の塾も多いでしょう。補習中心の塾は自塾の優位性をチラシやポスターなどでアピールすることが難しいかもしれません。「個別最適化の指導をします」と、いくらコンセプトを記載しても、それを見た保護者や生徒は理解しづらく、入塾の動機付けにはなりにくいでしょう。

しかし、ここでも打ち手はあります。個別指導の良さは、言うまでもなく、大手が主に注力する集団指導では困難である、個々の生徒の希望に合わせた指導ができることです。そのアドバンテージを、コンセプトのような抽象的な表記ではなく、より具体的な表現で見せることが大切です。

例えば、こうです。「中学3年、A君の学校での英語における今の単元:現在進行形、A君の希望:中学2年の受動態の復習」と明示し、実際にA君が受動態を復習し、問題が解けたノートを写真に撮り、一緒にチラシやポスターに掲載して訴求するのです。これであれば、自分の希望する単元を教わることができる個別指導の良さを、具体的にビジュアルとして理解することができます。

合格体験を次の世代に伝える“ドラマ化戦略”

中小の塾は、売りとなる個性的な文化を作ることにも適しています。大手はそうした動きをしようとしても、職員の数が多く、足並みをそろえて活動することが難しい中、文化を醸成しづらい側面があるからです。

では、どういう文化を作るのが有効でしょうか。それは、先輩の生徒が自身の良い体験を後輩に伝えていく文化に他なりません。先輩が志望校に合格するまでの軌跡=ドラマを、インタビュー記事などに残し、後輩に伝える。それに刺激を受けて勉強に励み、志望校の合格を勝ち取った後輩が、今度は自分の番だと、さらにその下の後輩のために体験談を残していく。

こうして、合格体験のドラマを次の世代に伝えていく文化が醸成されれば、塾にとっては鬼に金棒です。「あそこの塾は小さいが、生徒のモチベーションの付け方がうまい」「先輩が後輩のために自身の体験を残す文化がある」と評判になり、生徒の方から「ここで学びたい」と集まってくる原動力になるからです。

これこそ、生徒の体験を最大限活用した“ドラマ化戦略”です。中小の塾は、この個々の生徒のドラマ化戦略に力を注ぐことが、大手との差別化の意味でも有効といえるでしょう。