監修いただいた先生
もう体験的にご存知だとは思いますが、努力と成長は比例しません。
例えば、毎日100mを10回走ったからといって、毎日記録が0.01秒ずつ伸びることはありません。どれだけ頑張っても記録が伸びない苦難の日々を続けていたある日、突然に記録が伸び始めます。この点を「ブレイク・ポイント」と呼びます。いったんブレイク・ポイントを迎えたとしても、そのまま記録が伸び続けるわけではありません。どこかでまた頭打ちの状態を迎え、次のブレイク・ポイントまで記録が伸びない日々が続きます。「踊り場」と呼ばれる状態です。つまり人の成長は、比例関数ではなく3次関数のようなカーブを描くのです。
ブレイク・ポイントは努力を続ける者には必ずやってきます。しかし厄介なのは、それが「いつ訪れるか」が誰にも解らないのです。一説には「3日以上3年未満」と言われていますが、それも実にアバウトな数字です。そのため、ほとんどの人がブレイク・ポイントを待たずに諦めてしまいます。諦めた人には永遠にブレイク・ポイントは訪れません。だからこそ、その人を支え、励まし、努力を続けさせる指導者の存在が必要なのです。あなたの塾にも、成績が伸び悩んでいる生徒がいることでしょう。それは、ブレイク・ポイントを前にした「踊り場」に位置している状態です。ぜひ、あなたの力で努力を続けさせてあげてください。
さて、もう一つの現実を示さなければいけません。先ほど、「努力を続ければ必ずブレイク・ポイントはやって来る」と言いましたが、やはり限界があります。我々日本人は、どれだけ努力を費やしてもウサイン・ボルトには勝てません。辛いことですが、それが現実です。
ただ、目の前の扉を開けようと本気で努力を続けている者には、別の福音がもたらされます。たとえ正面の扉が開かなくても、別の扉が開くのです。
富士山を見てください。富士山は立派な火山(現在は休火山)です。かつては山頂の火口から溶岩が噴き出ていたことでしょう。ある時、地下から次のマグマが押されるように上昇してきました。ところが山頂火口付近は、冷え固まった溶岩で完全に塞がれています。それでも突き上げるマグマの勢いは、柔らかい地層を突き破り、ついには山腹から地表へと顔を出しました。そうして生まれたのが宝永山です。
人の成長も同じです。プロ野球選手を目指して必死に努力した野球少年の誰もがプロになれるわけではありません。しかし、本気で野球に取り組んだ者には、必ず別の道が開けます。医者を目指した者も、ミュージシャンを目指した者も…本気で努力を続けた者は、たとえその夢が叶わなかったとしても、その努力の途中で別の夢が見つかり、それを叶えることができるのです。
さて、塾経営の話です。この「努力と成長の法則」は、組織としての「塾」にも当てはまります。
あなたは、どんな夢や希望、目標を持って起業したのでしょうか。「いつかは生徒数1万人を超える大手塾」を目指していた人もいることでしょう。しかし、そのまま順調に成長し続ける塾はありません。どこかで挫折をするのが通例です。最初は順調に生徒数が増え、満を持して開校した第2教室で失敗した塾を、私は数多く知っています。近くに進出してきた大手塾の分校に生徒の大半を取られ、自暴自棄になった塾長も知っています。それでも…
あなたは塾経営者として努力を続けなければなりません。そうでなければ次のブレイク・ポイントが来ることも、別の扉が開くこともないのです。塾を成長させることを諦めた塾経営者に、塾を成長させることは出来ません。
私がセミナーの締めに引用する小話を贈ります。
あなたは「ロード・オブ・ザ・リング」という映画をご存知でしょうか。指輪物語を原作とした三部作で、日本でも大ヒットしました。その最終場面です。人間の兵団と魔界の軍団が最終決戦を行います。兵団が原野で待機していると、山の向こうから魔界の軍団が10倍、100倍の勢いでやって来るのが見えます。兵士たちが慄(おのの)き、怯(ひる)みます。
その時、主人公の王が馬にまたがり、剣を振りかざして叫びます。「確かに、我々人間が魔界の奴等に敗れる日が来るかもしれない。確かに、我々人間が奴等に支配され虐げられる日が来るかもしれない。しかし…」
この後、彼は映画史上最高のセリフを吐きます。「しかし、それは今日ではない!」…But, it is not this day ! と叫んだのです。
確かに、何を言っても響かぬ生徒に滅入ることもあるでしょう。確かに、どれだけ頑張っても増えない塾生に無力感を持つこともあるでしょう。もう頑張るのはやめよう、努力するのはやめようと思う日も来ることでしょう。しかし、「それは今日ではない」のです。今日できることが必ずあります。明日できることが必ず見つかります。そうした一日一日を過ごした者だけが、自分でも想像できなかった次のステージへと立つことができるのです。
全ての塾経営者に心からエールを送ります。