どれだけ良い教材があって、良い授業をしても、生徒のモチベーションが上がらなければ、学習効果は出にくいもの。とはいえ、生徒一人一人のモチベーション管理を行うのは難しそうです。これに対し、塾がすべきことは何なのでしょうか。Comiruアドバイザーの峯先生と大澤先生に解説していただきます。
監修いただいた先生
大澤 一通 先生
2002年に関西の大手塾に入社。個別指導部責任者を経て2009年に取締役に就任。コーチングをベースにした教授法、保護者面談、マネジメントを自ら実践すると同時に社内研修を担う。子どものやる気を引き出す親の関わり方を中心にPTA主催の講演会の講師を務める。アクティブラーニング型授業の実践をテーマにした指導者研修を全国の学校・学習塾で展開。民間企業の管理職を対象としたマネジメント研修も手掛ける。大学生講師の戦力化研修プログラムの開発、評価制度の構築、保護者会を活用した意図的な口コミの創出を得意とする。
峯岳徳 先生
2020年10月にPOPERにExcecutive Advisorとして参加。塾生数万人の元代表取締役社長。10年間教師、教室長、地区責任者として年間退塾率・中3⇒高1持ち上げ率・合格率・持ち生徒数・生徒増加率・授業支持率等「年間総合成績」で好成績を獲り続け、1999年役員就任後「一緒に働くスタッフとともに」10万件の知とメソッドの共有をすすめ、退塾者数を激減・中3⇒高1への学部間継続を劇的に伸長させる。塾経営の深い分析による今後の塾のあるべき姿への知見を有す。
モチベーションはもともと備わっているもの
まず、子どものモチベーションはもともと備わっているという前提に立ってください。好奇心や向学心のない子はいません。それがなかなか表に出ないとき、高まらないとき、それを引き出すのが教師の役割です。「この子はやる気がない」と決めつけている先生もいるのではないでしょうか。
生徒のモチベーションが高くないと、勉強を続ける意欲も低下し、それと比例して成績も下がります。成績が下がるとさらに勉強をしたくなくなります。この悪循環を断ち切ってあげないことには、退塾はおろか、その生徒の将来がとても心配です。そうならないために、もともとちゃんと備わっているモチベーションを引き出してあげる必要があるのです。
生徒のモチベーションは塾経営にもつながる
生徒のモチベーションが高くなくても「受験のために」と塾に通わせる保護者もいるでしょう。この場合、もともと塾への信頼が低いため、受験が終了したら塾を辞めることになります。塾にとっては生徒数が積み上がっていかず、常に新規生徒募集が必要な状態です。つまり、生徒のモチベーションが低いままだと、短期的には問題がないように思えても、実は長期的にみるとデメリットになることが多いのです。生徒のモチベーションを上げて成功体験を積んでもらうことで、結果、塾への信頼が高まり、通塾年数を伸ばすことにつながります。
受験で思うように結果が出なかった生徒に「一生懸命教えてくれたのに、ごめんなさい。」と言われたことはありませんか?この言葉はある意味「合格よりも大きな成果」を上げた気がします。そして、そう言ってもらえる関係であれば、「次こそ夢を叶えようね」と言って、新たな目標を確認しあい、また継続して学びに来てくれます。生徒のモチベーションは「平均通塾年数」という塾経営にもつながる大切な要素なのです。
まずは生徒のモチベーションを見極める
生徒のモチベーションは目に見えるものです。それは実にシンプルで、確認テストの点数、宿題の取り組み具合、通塾してきたときの表情、授業中の姿勢、鉛筆の動かし方など…。いつもと違う様子を感じたら、必ず声を掛けるなどのアプローチをしてください。個別指導の場合は、担当講師を通してでも構いません。
また、モチベーションを引き出すのは何をおいてもまずは”授業”です。はつらつとした面白い先生、説明が上手な先生の話は前のめりで聞くでしょう。生徒のモチベーションが引き出されているかどうか、観察眼と嗅覚を研ぎ澄ましながら授業をしてください。または、講師の授業を教室巡回や机間巡視しながら、それをおこなってください。成長過程にいる先生、新人講師へのフォローは管理職の役割です。どうすれば生徒のモチベーションを引き出せるのか、経験やノウハウを惜しみなく伝授してください。
Comiruなら、生徒を直接見なくてもモチベーションを事前に把握することができます。データを見て成績が伸びていない、提出物が出ないという場合にはフォローが必須です。組織として、モチベーション低下アラートをフォローできる体制を整えておくとよいでしょう。
子どものモチベーションは上がりやすく下がりやすい
子どものモチベーションは何かをきっかけに、グッと上がる瞬間が必ずあります。感情が揺さぶられたときには上がり、ちょっとしたことで下がるものです。昨日は目が輝いていたのに、翌日どんより曇っている、そういうことはありますね。子どもだから当然です。だからこそ、常に何かを発信し続ける必要があります。声をかけ続け、気にかけることをやめてはいけません。
話を聞いてあげるだけでもいいのです。人の心にはバケツがあって、水がいっぱいになったら気持ちの余裕がなくなると考えてください。もう溢れそうだというときに、さらに何かを詰め込まれてはたまったものではありません。少しずつ水を減らしてあげること、気持ちの負荷をなくすのには、話を聞いてあげることが一番です。ただ不満や不安を聞いてもらうだけで、水位は下がるものなのです。または、大丈夫か?と声をかけてあげてください。
このことで信頼関係が生まれれば、生徒自ら、モチベーションが下がり始めたときに相談しに来るようになるでしょう。この先生は聞いてくれる人だと心を開いてくれるのです。
間違ったモチベーション管理
「勉強しなかったら落ちるよ」と暗い未来を話す人がいます。保護者に多いと思いますが、これではまったくエネルギーが湧き出てきません。明るい未来を話す方がモチベーションは上がります。努力の先の未来予想図を提示してあげるのです。これは脳科学的にも証明されていることです。
また、「わかったよね?」と確認する先生も多いでしょう。生徒はわかっていなくても「はい」と言います。テストの点数が低かったとき、「なんでこんな点しか取れなかったの?」と聞いていませんか?子どもは大人の納得いく理由なんて言えません。
点数が低かったのは事実として受け止め、何が原因だったのか、ロジカルに分析させることが大切です。攻めずに根気強く対話をすれば、ポツリポツリと語りだすでしょう。途中式を端折ったら計算ミスをしたとか、ここはうろ覚えのまま受験したとか。これが引き出せたらしめたものです。「じゃあ次はどうすればいいと思う?」と聞いてあげてください。「普段から丁寧に書くように意識する」など、子どもは自分の言葉で答えるでしょう。
このような丁寧な会話を繰り返すことで、子どもは自覚を持って先に進めるようになります。間違っても、「ダメな理由がわかったら次から気をつけなさい」で終わらせてはいけません。あくまで、自分で考え、自分で答えを出すためのサポートをするのです。そして生徒と約束したことは、保護者にも共有してください。本人とこんな話をしましたと報告するだけで、必ず保護者も納得してくれます。少なくとも、「なんでこんなに悪かったの!」と頭ごなしに叱られることはないでしょう。
絶対にやってはいけないのは、挑戦的な言葉を使うことです。ダメと言ったらやりたくなる。覚えろと言ったら覚えない。何を言われたらその生徒は動くかを常に考えます。意外と、生徒に響く内容や表現がタイプ別に分類できます。
モチベーションを引き出すコミュニケーション術
では、モチベーションを引き出すコミュニケーション術について詳しくお伝えします。
1 内容と伝え方
生徒のモチベーションが上がるためにどんな声がけをすればよいか、塾が意識するとよいのは以下の4つの軸です。
「危機感」「安心感」×「定量(数値、事実)」「定性(感覚)」
これらを組み合わせ、例えば以下のように声がけするのです。
「危機感」×「定性」
「このままだと難しいかもしれないよ、もっと頑張らないと!」
「安心感」×「定量」
「入試本番まであと10日もある。毎日3時間勉強したら30時間も取り組める。応援してるから頑張ろう!」
危機感で煽ると火が付く生徒と、数字を見せると納得する生徒、相手がどのタイプかで内容と伝え方を変えましょう。
2 生徒タイプ別モチベーションが上がるパワーワード
伝え方と内容と合わせて、タイプ別のパワーワードを押さえておくといいでしょう。だいたいの生徒が当てはまります。子どもは素直でいいですね(笑)
「負けず嫌いのタイプ」
=1番になる!上位を目指そう!
「みんなの役に立ちたいタイプ」
=君のおかげでクラス平均点が上がった
「知的好奇心の強いタイプ」
=研究職につくならこの分野を極めるべき。興味がある業界の権威者や著名人の例
「認められたいタイプ」
=あの先生が褒めてたよ。お母さんも喜ぶだろう
その子にどんな言葉が響くのか、その子が誰に認められたいのかを意識しましょう。もちろん講師にもこの観点で指導・アドバイスをするよう指導してください。講師は自分と似たような生徒しか対応できないものです。これによって講師の生徒対応力の幅が広がり、塾にとっては講師が強い戦力となります。
3 生徒が自ら考える機会を提供する
さらに大切なことは、本人の口から前向きな言葉を引き出すことです。「勉強を時間増やせ」と先生が言うのではなく、「どうしたらもう少しいい点数が取れると思う?」「どのくらいやればいいと思う?」のように質問します。無理矢理言わされるのと、自分で考えて答えるのとではまったく違います。
このとき役に立つのはデータです。現状把握、前回の結果との比較、先輩事例との比較など、データがあれば自己説得もしやすいでしょう。データをもとに、未来予想図を描くのです。
このように、自分で決意して自分で動く(自己説得)という経験は今後の人生においても非常に大切です。努力した実績を積み重ねていくことは、短期的に身を結ばなくても、人生で必ず役に立ちます。
モチベーションを引き出すのは自己説得
結局のところ、モチベーションを引き出すのは自分で自分を駆り立てられるかどうか、自己説得できるかどうかです。塾としてサポートできるとしたら、その材料を揃えてあげること、モチベーションが下がりかけたときに、タイミングよく適切な声がけをしてあげることです。
やる気が見られない生徒のモチベーションを引き出すのは簡単なことではありませんが、覚悟を持ってそこに着手し、子どもが自分でドライブをかけられるようにフォローしてあげることは、必ずその子の将来のためになります。自己説得して行動に移す、努力した実績を積み重ねていくことこそが学習です。また、努力した経験を振り返る機会もきちんと与えてあげてください。このときComiruが役に立ちます。
モチベーションを自分で高めることができたら、下がらないように意識できるようになるかもしれません。自分のモチベーション管理のサイクルが回ります。また、相手に対してもモチベーションを引き出すような行動が取れるようになるかもしれませんね。クラスでいいサイクルが回れば、より良い塾になるでしょう。
モチベーションの上げ方について人と人の関係性によるので絶対解はありませんが、今回取り上げたものとは他に、危機感×達成可能性×目標の魅力というモチベーションの公式をこちらの資料で紹介しています。よろしければあわせてご確認ください。