監修いただいた先生
パワハラ、セクハラなど、ハラスメントはどの職場でも起こり得る問題ですが、中でも塾業界は、その特有の環境が原因で発生しやすいと言われています。今回は塾・スクールで起こりうるハラスメントについて、防止策と合わせてご紹介します。
塾・スクールでハラスメントが起こりやすいのはなぜか
塾・スクールは、閉鎖的な空間で、外部の目が行き届かない、ある意味特殊な環境と言えます。たくさんの人が集まるのにもかかわらず、学校や一般企業と異なり、第三者の監視が少なく、不適切な言動がエスカレートしやすいという側面もあります。ハラスメントが起こりやすい理由をまとめると以下のようなことが挙げられます。
①閉鎖的な環境
- 多くの教室は狭い空間で、外部の目が届きにくい。
- 個別指導や少人数指導では、先生と生徒の距離が近く、関係が密接になりやすい。
②権力関係が生じやすい
- 講師と生徒との関係において、「指導」という名目で講師が強く出てしまうことがある。
- 教室長と講師との関係において、立場の弱い講師が経営者からプレッシャーを受けやすい。
- 保護者と教室長・講師との関係において、生徒の成績向上を目指したアドバイスを頻繁に行う中で、距離感に歪みが生じることがある。さらに、保護者がお金を払っている分、成績向上への期待が強く、保護者から教室長へ、教室長から担当する講師に過度な要求が回ってくることもありうる。
③労働環境の問題
- 非正規雇用の講師が多く、立場が弱い。
- 長時間労働になりやすい。
- 研修が不十分で、適切な指導方法を知らずにハラスメントに繋がるケースも。
これらの要因が重なり、塾・スクールではハラスメントが起こりやすい環境になっています。塾・スクールの運営者はこうしたリスクを理解し、適切な対策を講じることが重要です。今まで問題になったことがないから大丈夫、自分には関係ないと目を向けずにいると、問題はどんどん大きくなってしまいます。
相手が不快に感じればハラスメントが成立する
同じ言動を受けても、それがハラスメントに感じる相手と感じない相手がいると思います。「かわいいね」と言われてうれしい相手、気分を害する相手……。ハラスメントの厄介なところは、相手が不快に感じてしまえば成立する点です。
また、言われた本人が気にしていなくても、周りで聞いている人がハラスメントと感じるケースもあるため、グレーな言動には細心の注意が必要です。
ハラスメントが明るみになった時によく聞く弁解が、「自分はそんなつもりじゃなかった」というもの。これはもはや通用しない言い訳と考えた方がいいでしょう。自分がどう思ったかではなく、相手がどう感じたかが重要なのです。
この点が塾・スクールの難しいポイントです。講師は生徒の心を掴むことに一生懸命になるもの。時には厳しく、時には優しい言葉をかけてあげたり、冗談を言って笑わせたりもするでしょう。ハラスメントを恐れるあまり、余計なおしゃべりはしない、なるべく近寄らないなどという過敏な姿勢をとるのはよくありません。
大切なことは、「あの先生はそんな人じゃない」と日頃から生徒に信頼してもらうことです。そのためには、日頃のコミュニケーションで信用されること、講師から積極的にアプローチせずとも、生徒から話しかけてもらえるような関係を作っておくことです。これは教室長と講師の関係性についても同じことが言えます。
塾・スクールで起こりやすいハラスメント
次に、塾・スクールで起こりやすいハラスメントについてご紹介します。
①パワーハラスメント:パワハラ
教室長や先輩講師が新人講師に、または先生が生徒に指導する場面で起こりがちなハラスメントがパワハラです。講師経験の長いアルバイトや社員が、経験の浅い講師や理解の遅い生徒に対して「こんなこともわからないのか!」と必要以上に怒鳴るケースもあります。
「こんな問題も解けないの?」「さっき説明したよね?」「前と同じ問題なのになんでわからないの」など、言葉や態度に出てしまい、それを相手が不快に感じればパワハラは成立します。人間関係における上下関係を前面に出し過ぎることで起きやすいのがパワハラです。
これに対しては、相手への不満を一度飲み込んで、根気よく優しく指導することを意識すること、顔や態度、口調に出さないこと、棘のある言葉なら優しく言い換えることなどが求められます。
②セクシャルハラスメント:セクハラ
講師や生徒に対する「彼氏・彼女いないの?」という問いや、相手の身体に触れる行為、冗談半分での性的な発言などのハラスメントがセクハラです。最も厄介なのが生徒に対するセクハラ行為です。生徒への思いやりで起こした言動がセクハラになるケースもあります。
例えば以下のようなものは確実にアウトです。
- 肩にゴミがついて取ってあげる/肩に手をかけて話す
- 長時間の勉強で疲れてる仕草をしたので肩を揉んであげる
- よくできたねと頭をなでる
- 教えるときに必要以上に接近する
視野が広く、生徒を気遣える講師だからこそ、生徒との距離感を見誤ってしまったり、指導に熱中しすぎるがために、行き過ぎた発言をしてしまうこともあります。特に異性への指導中にセクハラと取られやすいので、個別指導では担当講師の性別にも注意が必要です。ゴミが付いていることを指摘するような場合は、絶対に手を出さず、相手に口頭で伝えるようにします。
また、対生徒だけでなく、対社員、対講師の付き合いにも注意しましょう。例えば、仕事が終わって食事に行こうと異性を誘う場合、2人きりにならないように気をつける必要があります。過敏になる必要はありませんが、常に相手が不快に感じないよう日頃から意識しておくことが重要です。
③スメル(ニオイ)ハラスメント:スメハラ
塾・スクールでは、講師と生徒が狭い空間で長時間一緒に過ごすため、スメハラが問題になることがあります。スメハラとは、「体臭や香水、口臭などのニオイによって周囲に不快感を与えること」です。特に、密閉された空間では、ニオイがこもりやすく、生徒や他の講師にストレスを与える原因になってしまいます。
スメハラが引き起こす問題は、パワハラやセクハラと比較して軽く捉えられがちですが、「先生のニオイが気になって授業に集中できない」「先生の臭いが苦手なので講師を変えてほしい」「同僚の体臭が気になるが指摘しづらい」など、具体的なクレームに繋がります。塾の評判に関わる可能性もあるため、対処は必要です。
体臭や口臭が臭いと自覚がある、または指摘できる関係にある場合は、夏場は着替えたり、汗拭きシートや消臭スプレーを常備する、または使用を促すようにしましょう。口臭は歯磨き、うがい薬を活用するなどで対策できます。また、意外と多いのが柔軟剤や香水の香り。本人が気に入って付けていたとしても、相手にとってはスメハラになり得るので、控えた方がよいでしょう。
また、生徒がお弁当を食べたりもするでしょう。教室は積極的に換気を行いましょう。
まとめ
今回は塾・スクールで起こりうるハラスメントについて解説しました。ハラスメントが起こりやすい環境であることを理解し、言動に気をつけたり、まわりの人間関係にも目を配ったりするようにしましょう。
ハラスメントには適切な対策を取ることが大切です。具体的にどんな対策があるか、どんな声がけをするべきか、次回詳しくお伝えします。