塾の授業料はどう設定するのが正解か ~退塾を招かない値上げの方法とは~【後編】

前編では、開校直後のスタートダッシュを決めるために、まずはエリアの中で最安値を謳い、問い合わせを増やす重要性に触れました。さらに、大手塾が無料攻勢を仕掛けてきても、安易に対抗せず、自塾の方針を貫く大切さを伝えました。後編では、その後の値上げのタイミングや、値上げの際、保護者の納得感を得るために大切なポイントについて、解説したいと思います。

監修いただいた先生


永遠に価格勝負では疲弊してしまう

安さとクオリティを武器に、良好なスタートを切った後は、3年程度はその料金をキープして、目標とする生徒を集めることに専念します。ただ、それ以降、ずっと価格勝負を行っていくことは、得策とは言えない場合もあります。

一つは、自分の理想とする指導をより一層実現するためには、資金が必要になる場合があるためです。例えば、生徒の成績アップのために、期末や中間テストの前の特別講座を無料で行ったり、あるいは、土日に自習ができるように教室を開放して事務員に管理してもらったりする場合の人件費など。塾のクオリティを上げるため、当初予定していなかった出費をまかなうのに、授業料を上げるという選択肢を取らざるを得ない場面もあるというわけです。もし、値上げをせずに自塾の理念のためにサービスだけを増やしていけば、「労多くして益少なし」となり、疲弊していくばかりとなってしまいます。

そして、もう一つが、集まる生徒の質を担保するために授業料の値上げを行うという考え方です。授業料が安いと、良くも悪くも様々な生徒が入塾してきます。中には、塾長の理念や指導方針に合わない生徒の入塾も増える可能性があります。そうした生徒がいれば、他の生徒に悪影響を及ぼし、塾の雰囲気や水準が低下してしまうということにつながります。

 

値上げをする場合も現生徒は据え置きが基本

そうした事態を防ぐ有効な方策が、授業料の値上げなのです。「授業料が高くなっても、塾の理念に共感しているので通わせたい」「塾長にずっと面倒を見てほしいので、高くてもお願いしたい」と、値上げによって自塾にふさわしい生徒が自然と集まる(残る)ようになるのです。立ち上げに成功して人気塾ともなれば、定員を大幅に上回る申し込みが来ることもあります。値上げをすればそういった過度の申し込みの抑制につながり、せっかく申し込みをしていただいたのに断らなければならないケースも減らせるでしょう。

値上げの方法にはいくつかあります。最も良心的な方法は、現在通っている既存の生徒の料金は上げずにそのままをキープし、新しく入塾する生徒から、値上げをした新料金体系を適用することです。授業料は、いわば保護者と塾との間に交わされたルールです。それを値上げするということは、そのルールを塾側が破るということに他なりません。保護者によっては反発し、退塾につながる場合も想定されます。

それを回避するためにも、現生徒の授業料は据え置きが基本と言えるでしょう。現生徒も値上げをする方針であれば、少なくとも一年間は猶予期間で料金据え置きとして、一年後に料金をアップするという配慮が必要ではないでしょうか。また、新しく入塾する生徒でも、既存の生徒の兄弟や親せきである場合は、旧料金体系を適用することがポイントとなります。「兄と弟で授業料が違う」となると、疑問や不信を招きかねないからです。値上げの際は、そうした細部にわたる配慮も重要となるのです。

では、保護者間で授業料の話をして、料金体系が違うことが問題になることは無いのでしょうか。結論から言うと、その心配は不要かと思います。保護者同士で「子供の授業料はいくら?」と話す場面は想像しにくいからです。万が一、そうした話になったとしても、塾側としては「最初の方に入塾した生徒は単価は安くなっている」と説明が付きます。

 

退塾防止には付加価値による納得感が不可欠

料金アップのやり方は「スライド方式」が有効です。例えば、中一と中二の生徒が2,400円、中三が2,700円、高一が3000円だったとすれば、中一・中二が,2700円、中三が3,000円、高一が3,300円と、上の学年の料金を下の学年にスライドさせるというやり方です。

料金の値上げで「あってはならないこと」もあります。それは、塾の経営が厳しいから料金を上げるという、自己都合の値上げです。これは当然やってはいけないことなのですが、退塾が増えて苦しくなると、その禁じ手を使いたくなる場合も出てきます。そうなると、退塾がさらに増えて、負のスパイラル(悪循環)に陥ってしまうことは目に見えています。

値上げをする際は、当たり前のことですが、生徒や保護者がそれによって生じる付加価値を実感できることが条件となります。先述したように、無料のテスト対策や特別講座、教室の土日開放などのメリットを提供することで、値上げの納得感を引き出せるのです。

また、例えばComiruの導入についても、入退室管理機能によって安心・安全の対策につながったり、保護者とのコミュニケーションが取りやすくなったりするなど、生徒や保護者は付加価値を享受できます。そのコストを「施設運営費」といった項目で追加徴収を依頼することは、十分に理解を得られると思われます。繰り返しになりますが、値上げの際は、それによる付加価値を付けることが重要であり、退塾を防ぐ秘訣と言えるでしょう。