社会の様々な場面でデジタルトランスフォーメーション(DX)化が加速しているが、その波は学習塾業界にも迫っている。そこで今回は、個別進学塾塾長でありながら人気YouTuberでもある小林尚氏と学習塾用コミュニケーション&業務管理システム「Comiru」が爆発的人気となっている株式会社POPER代表の栗原慎吾氏を招いての「緊急対談」を実施。教育業界を最前線でリードするお二人の対話から、オンライン授業のメリットとデメリット、デジタルによって進化するコミュニケーションの形など、学習塾が積極的にデジタル化を進める際のヒントやキーワードが数多く見えてきた。
対談者紹介
株式会社POPER 代表取締役CEO:栗原 慎吾(くりはら しんご)
明治大学卒業後、住友スリーエムに入社。歯科用製品事業部に配属され2010年にはグローバルマーケティングアワードを獲得。2011年に株式会社optに入社しWEBコンサルティングを担当。2012年よりS.T進学教室に共同経営者として参画。経営から講師まですべての業務を経験し、当初20名に過ぎなかった生徒数を60名にまで増加させる。学習塾時代に感じた学習塾での課題を解決するために2015年1月に株式会社POPERを設立し、学習塾向けの業務支援SaaS「Comiru」、オンライン授業支援システム「Comiru Air」などをリリース。全国3000教室以上の学習塾で導入されている。
株式会社キャストダイス 代表取締役 / 株式会社キャストダイス 代表取締役:小林 尚(こばやし しょう)
東京大学法学部卒業。大学在学中は大手予備校に勤務し、東大・医学部をはじめ多数の難関大合格者を輩出する。卒業後は経営コンサルティング会社の戦略部門を経て株式会社キャストダイス、個別指導塾CASTDICEを設立。塾では最上位大学合格を目指すための「先取り&勉強量重視主義」を提唱し、指導はすべてオンラインで実施している。またYouTuberとして、受験・キャリアに関する動画「CASTDICE TV」を配信中。開成高校弁論部・コンサルティングで培ったロジカルな指導力を武器にチャンネル登録者を伸ばしている。
コミュニケーションを減らすための コミュニケーションが必要な時代
栗原: デジタル化が進む一方で、学習塾では新しいコミュニケーションの形に戸惑うケースも見られます。
小林: 保護者面談を考えても、これまでは校舎に来てもらえばよかったものが、WEBやアプリを通じてのコミュニケーションに移行することで、うまく対応できている塾とそうでない塾とで明暗が分かれています。コミュニケーションの重要性は誰もがわかっているものの対応できない塾が意外と少なくない印象です。
栗原: 確かに学習塾では、コミュニケーションの形は変わっても、コミュニケーションの重要性は変わりません。保護者とのコミュニケーションのためにWEBブラウザのシステムを導入されている学習塾がありますが、毎回のパスワード入力が煩わしくて保護者に使ってもらえないという話をよく聞きます。我々のComiruも、こうしたコミュニケーションのためのシステムをアプリで提供することで、スマホでも使えて、既読率も高まるという付加価値とともにご活用いただくために誕生した商品です。
小林: 私の感覚で言えば、「コミュニケーションを減らすためのコミュニケーション」が大切です。うちの生徒たちには、LINEグループで何の科目を何時間勉強したのかを毎日欠かさず報告してもらっていますが、保護者もそれを見ることで、お子さんがどのくらい勉強をやっているのかが日々イメージできます。そうすると面談のときに前置きは必要なく、重要な要件だけに集中できるのです。例えば退塾の申し出があってから慌てて引き留めるための面談を行うことなどは心身ともに大きな負担になります。そんな大きな負担を伴うコミュニケーションを減らすためにも、日々の細かなコミュニケーションが必要なのです。
栗原: おっしゃる通りです。Comiruの理念もそこにあります。今のトークは営業で使いたいくらいです(笑)。細かなコミュニケーションをやりとりすることでガス抜きができますが、そこを疎かにするとガスが溜まって、爆発して、火消しが必要になる場合もありますから。ところで、小林さんのYouTubeもコミュニケーション対策の一環ですか?
小林: YouTubeは「コミュニケーションを補うためのコミュニケーション」ですね。特にオンライン授業だとコミュニケーション不足に陥りやすいですから、LINEの機能で補ったり、プラスαで動画配信したりすることも有効だと考えています。
栗原: YouTubeの効果は実感されていますか?
小林: 今は動画のコンテンツをスマホを使って誰でも簡単に作れます。その手軽さが魅力です。それと私が何より感じているのは「音声」の効果です。YouTubeはテレビと一緒で、基本は動画が流れていますが、別に画面を見ていなくても音声だけで伝わることもあります。何か別のことをしながらでも情報を伝えられるメリットは大きいです。
栗原: 私もYouTubeをラジオ代わりに音声だけ聞きながら街を歩いているのでよくわかります(笑)。でもお話を聞いていて思ったのですが、例えば学習塾も生徒向けの授業動画ばかりではなく、もっと気楽に保護者に向けたコンテンツを作れば、それこそ家事をしながらでも見てもらえるかもしれませんね。
小林: 不特定多数の方に知ってもらう手法としてYouTubeは本当に有効だと思います。最初は声掛けした数十人の視聴者かもしれませんが、数十人集めて説明会を開催するとなるとどれだけのコストと時間を要するかわかりません。我々のYouTubeもチャンネル登録者の方々のおかげで広告収入をいただけるのですが、知人から「広告費をもらって自分の塾を宣伝できるって何かおかしくないか?」と言われて、確かにそうだと思いました(笑)。
学習塾がDX化で求めるべきものは? キーワードは効率化より最適化
栗原: 教育のデジタル化が目指している方向性と、生徒や保護者が求めているニーズが一致していることが理想ですが、まだまだ学習塾の現場レベルではズレが生じているように感じます。例えば小学生対象の夏期講習の場合、当然長期休暇を利用して成績を上げる目的が大前提ですが、その裏で共働きのご家庭では子どもをどこか安心できる場所に預けておきたいとのニーズもあるはずです。また子どもたちも友だちと一緒に楽しく学んだり、ライバルから刺激を受けたりしたいとのニーズがあると思います。そのときにオンラインによる夏期講習はニーズに対応しているのだろうかと考えてしまうわけです。
小林: 確かに教育業界においてもICT、DX、AIなど、いろいろなデジタル用語が飛び交っています。ただ学習塾は他の事業と違って、人とのコミュニケーションは欠かせません。例えば製造業であれば、ロボットの開発とプログラミングによって製品を作ることができますが、学習塾は生徒や保護者と向き合うことが仕事の本分ですから。これはオンライン授業であっても同じです。では、そんな学習塾が最新のテクノロジーに求めるべきことは何かを考えた場合、まず思いつくのは時間の効率化でしょう。ただ確かにそれもありますが、それは本質ではないと思うのです。キーワードは「効率化より最適化」。つまりは多忙な学習塾の業務において、「今やるべきことは何か?」「次は誰が何をすればよいのか?」「業務の優先順位は?」など、スムーズに業務を進行させる最適な流れを提示してくれるシステムがあれば、学習塾における業務の簡素化がさらに進み、スタッフは助かると思うのですが。
栗原: まさに私もそう思います。これからのニーズの核心をつくお考えですね。実は我々のComiruでも最近力を入れている機能にアラート機能があります。講師が記入する日々の指導報告書の項目に「遅刻」「宿題忘れ」「確認テスト結果」などがあるのですが、例えば遅刻が3回重なった場合は自動的に知らせてくれる機能です。気の緩みが見える生徒は退塾予備軍になりやすいので、それを事前に察知することが目的となります。指導報告書も毎日書いて終わりではそれまでですが、トータル的に管理すれば貴重なデータとなり、価値も高まります。ちょっとした気づきかもしれませんが、こうした部分から学習塾への新しいサービスやサポートは広がっていくと考えています。
小林: 学習塾のニーズに寄り添う「ちょっとした気づき」が、Comiruを常に進化させているわけですね。全国の学習塾で導入されている理由があらためてわかりました。納得です。
栗原: そう言っていただけると光栄です。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。これからの仕事の参考にもさせていただきたいと思います。
小林: こちらこそありがとうございました。