塾講師に求められるスタンスとは?個人塾の生命線となる”良い”塾講師を揃えるにはどうすればいいか【前編】

講師はいわば、塾にとっての看板商品であり、そのクオリティが塾の命運を握っていると言っても過言ではありません。ただし、良質な講師を用意するためには、他塾や他の業種との人材の取り合いに勝たねばならず、さらに新人講師を育成し、定着を図る施策も必要であり、一筋縄ではいかないのが現実です。今回は塾経営における人材戦略の最適解を探っていきます。

監修いただいた先生

生徒に毎回「今日も楽しかった」と思われる講師を揃える

講師は塾にとって最も大切な看板商品である――。これは当たり前のことのように思えますが、「なぜ大切なのか」を改めて考えると、次のようなことが言えるのではないでしょうか。


塾の直接的な顧客は言うまでもなく「生徒」です。その生徒と常に接する商品が、講師です。特に1対1や1対2で教える個別指導のスタイルの塾では、生徒と講師の距離が近く、共有する時間も濃く、長くなります。その時間が生徒にとっての塾に対する印象の全てと言っても過言ではないでしょう。


そうした中、講師のレベルが低く、「指導が分かりにくい」「講師が暗い表情をしていた」「言っていることが分からない」となればどうでしょう。当然、生徒は塾への不信感や疑問を抱くようになります。事は、生徒の気持ちだけにとどまりません。生徒は、帰宅後、保護者にそのことを報告するはずです。すると、保護者も不安になり、クレームの電話が来るか、最悪の場合、退塾に至る可能性さえあります。


それだけ講師は、一回、一回の授業を成功させなければならない、重要な使命を担っています。成功とは、20歳前後の大学生のお兄さん、お姉さんと、会話が弾んで勉強もできて、「今日も塾が楽しかった!また勉強頑張ろう。」と帰ってもらうことですその楽しさを帰宅後に家でも話すことで、保護者は安心し、塾への信頼が担保されるというわけです。


講師採用の面接で見るべきは“傾聴”の姿勢があるか否か

では、授業の成功のために講師に求められる最も大事なスキルは何でしょうか。もちろん、講師の頭の良さ、物事を整理して教えられる力なども必要ですが、それらと同じくらい大切なのが、“コミュニケーション力”です。生徒と適度に打ち解けて、心を掴み、「あの先生の話なら聞こう」「褒めてほしいから勉強しよう」と、思ってもらえるかどうかが鍵となります。逆に、「あの先生とはしゃべりづらい」「話していてもつまらない」と思われたら、いくら整理して教える力があっても、講師としては不向きです。会話に違和感があると、教えられている内容も頭に入ってきづらいものです。


コミュニケーション力の有無を測る尺度は様々ですが、中でも特に重要なポイントがあります。それは、「生徒の話をしっかり聞けるかどうか」、つまり傾聴の姿勢を持っていることですしゃべりすぎる、相手の話を途中で切ってしまう、話をかぶせてしまうなど、傾聴できない人は、意外といるものです。人は基本的に自分の話を聞いてもらいたい欲求があります。それなのに話を聞いてもらえず、自分ばかり話す講師であれば、コミュニケーションは成立しません。


生徒が部活のことを話し出したら最後までしっかり聞く。問題や勉強について意見や不安を話し始めたら、寄り添って耳を傾ける。その上で、必要に応じて、感想や助言を伝える。そうした心配りができることがコミュニケーションの基本です。ただし、傾聴の姿勢を一朝一夕で備えることは困難でしょう。自身の元々の性格や人間性、これまでの人生の経験によるところが大きいかもしれません。


だからこそ、大切なのは、傾聴できるかどうかを、面接時に見極めてスクリーニングすることです。面接官となる塾長の話をかぶせずに聞けるか、適切な相槌を打てるか、目を見て会話ができるかなどが、チェック項目になります。そうして、採用時にコミュニケーションのベースがある人を雇うことが、人材戦略の第一歩となるのです。



生徒集めより講師集め、母数を多くすることが肝心

コミュニケーション力が高い講師を雇う必要性は理解いただけたかと思います。では、どうすれば、そうした人材を揃えることができるのでしょうか。答えは一つです。求人にしっかりとお金と労力をかけて、より多くの応募(母数)を集めることです。母数が多ければ、必然的に希望する人材を雇用できる確率が高まるからです。


この応募集めを怠ると、「生徒はたくさんいるのに先生が足りない」⇒「少ない母数から、コミュニケーションに問題がありそうな学生でも、来週のシフトが回らないから雇う」⇒「生徒の不評を買い、保護者からクレーム」という負のスパイラルに陥ってしまします。

そうならないためにも、生徒集めの広告宣伝費よりも、むしろ講師集めの費用の方が高くなって然るべきかもしれませんスーパーなどの小売店で、良い商品を売っていないのに、客を集めてしまえばどうなるか、結果は見えているでしょう。優先すべきは“商品の仕入れ”です。


“攻め”の採用活動が良質な講師を揃える唯一の道

応募を増やす方法は色々あります。まず、簡単にできる手法は、雇いたい学生が通う大学の掲示板に求人を出すことです。また、チラシ配布の許可を大学から得た場合は、学食に寄って、塾長や教室長が学生に声をかけ、募集のチラシを配布するのも有効でしょう。男性の塾長が女子大生に声をかけることに気が引けるのであれば、女性の教室長や社員も連れて行き、塾長は男子学生、教室長や社員は女子学生と役割分担しても良いでしょう。


大学周辺のワンルームマンションなど、大学生が暮らしていそうな住居にチラシをポスティングしていくことも一つの手です塾長が散歩がてら回ってチラシを入れていくのであれば、余計なコストはかかりません。1,000枚〜2,000枚とチラシを入れると、1件くらい問い合わせが来るものです。


さらに、塾講師アルバイト求人サイトを活用するアプローチも検討に値します。基本的には、学生が登録された塾をエリアなどで検索し、比較検討して応募する機能のあるサイトですが、実は塾側も応募を待つだけでなく、学生に対して「当塾で働きませんか?」とオファーメールを送ることができます。例えば、A大学の女子大生を雇いたい場合、「A大学」「女性」を選択し、スクリーニングをかけることで、個々の学生をリストアップし、個別にメールを送付できるのです。


いわば、これは学生に対する塾からのラブレターです。男子学生、女子学生に、いかに自塾が良いか、こじんまりしていてアットホームで、仲間と一緒に楽しく働ける場所であることなど、メリットを全面に出して、「面接に来ませんか?」と口説くのです。

大手の塾では、破格の時給を出すところもあり、個人塾は、価格勝負では太刀打ちできません。であるならば、あらゆるルートを通じて自塾の存在と良さをアピールし、応募、面接につなげる努力を行うしかないのです。待っていては応募は集まりません。とにかく、自ら積極的に動く“攻め”の採用活動に力を注ぐことが、良い講師陣を揃える唯一の道なのです。