独立し、競合がひしめく中で個別指導の個人塾を経営する塾長にとって、生徒を集め、塾を継続、発展させていくのは至難の業です。特に資本力や宣伝力のある大手と対抗するのは並大抵なことではありません。しかし、個人塾ならではの強みを活かせば、競合他社から頭一つ抜け出し、地域の人気塾になる可能性も見えてきます。どんな施策が有効か、今回は個人塾が選ばれるための施策を伝授します。
監修いただいた先生
ターゲットを明確にする
塾を開いた当初は、経営を軌道に乗せるため、様々な生徒を受け入れることも必要です。しかし、開校から数年経ったら、誰でも入れるのではなく、ターゲットを明確にすることが重要となります。集まる生徒が自塾のカラーを決め、そのカラーが塾の行く末を左右することもあるからです。
ターゲットは塾それぞれで異なるでしょうが、仮に、「自塾では真面目に勉強に取り組む生徒に入塾してもらう」と決めたとします。入塾前の面談では、生徒に真面目に勉強する意思や頑張ろうという気持ちがあるかを念入りに確認し、入塾後も、塾に来たらとにかく勉強に打ち込ませることを徹底します。
そのための環境づくりにも力を入れます。自習室は常に静かな環境を作り、勉強に集中できる雰囲気を作ります。休憩時間も生徒同士がおしゃべりすることは禁止です。図書館の感覚に近いかもしれません。塾はとにかく静かに勉強する場所。その方針をぶらさず、貫くのです。
すると、そうした雰囲気の中で“本気で勉強したい”と思う生徒が集まるようになります。保護者も、そんな環境で勉強させれば成績が上がると期待が持てます。当然のことながら、結果を伴わせるための教え方や講師の質の確保が大事なのは言うまでもありません。ですが、それと同じくらい、集める生徒像を明確にして、そのための環境を徹底して整えることも、個人塾にとっては大切な点なのです。
「明るく、楽しい雰囲気の塾にしたい」と、休憩時間中のおしゃべりを許してしまえば、とたんに騒々しい塾となり、クレームを生むばかりでなく、せっかく付いた「真面目な生徒」の退塾につながってしまいます。塾のカラーも中途半端になり、大手や他塾との差別化が難しくなります。とにかくターゲットの明確化と環境作りを意識することです。この取り組みによって自塾のカラーを鮮明にすることは、様々な生徒を広く受け入れる傾向がある大手には行いづらいアプローチであり、差別化ができ、選ばれる塾になる可能性も高まるわけです。
小回り良く、やりたいことを即座にやる
個人塾ができて、大手にはできないことはまだあります。それは、塾長が行いたい施策を、思い立ったその日からすぐに実行できることです。大きな会社組織で、上司や役員の決裁がないと実行に移せず、意思決定に時間が掛かる大手にはない利点でしょう。
例えば、生徒が通う中学で中間や期末のテストが迫ってきたら、普段は休みの土日も臨時に開校して、直前対策講座を“急遽”行うこともできます。個別指導塾であっても、その時だけは集団授業にして、テスト本番に向けて通塾する生徒が互いに高め合いながら勉強するようなスタイルも、個人塾であれば臨機応変に試みることができます。
そうした臨時講座は無料にしても良いでしょう。それで生徒の成績が上がれば、塾の評価となり、生徒募集もしやすくなるのですから、宣伝の一環のようなものです。そんなイレギュラーな取り組みも、即断して、ある意味好き勝手できるのが個人塾の強みといえます。
この小回りの良さも、大所帯で動きが取りづらい大手に対抗する際の武器になります。ですから、「これをやったら生徒の成績が上がる」と思い付いたことがあったら即実行するわけです。考え方としては、「大手ができないことを積極的に仕掛けていく」ということ。これが、個人塾が勝つための戦術と言えるでしょう。
“ずっとそこにいる”ことの信頼感
さらに、もう一つ、大手ができないことで個人塾が優位である点を挙げます。端的に言えば、塾に常に塾長がいて、翌年も5年、10年経っても、その場所に居続けることです。「そんなこと当たり前」と思うかもしれませんが、大手ではそうはならないケースが多いのです。様々な場所に教室がある大手は、教室長や社員の異動があり、通っている途中で頼りにしていた担当者が他の教室に移り、以後、話や相談ができなくなってしまうことが往々にしてあるからです。
そうなれば、新たに赴任してきた教室長や社員と、また一からコミュニケーションをして、信頼関係を構築していかなければなりません。生徒にとっても保護者にとっても、それは想像以上に骨の折れることです。「もし今お気に入りの社員が他の教室に行ってしまったらどうしよう」と、不安に思う要素でもあります。
その点、個人塾であれば心配無用です。塾長側も「ずっとここにいるので、お子さんは何があっても責任を持って指導します」と、自信を持って断言できます。大手で異動の可能性がある教室長や社員は、そこまで言い切ることは難しいでしょう。こうして信頼を寄せる塾長が「ずっとそこにいる」ことは、実は個人塾の強みなのです。常日頃から「最後まで面倒を見る」ことをさりげなく伝えると良いでしょう。