※本記事は2023年5月に開催したComiruオンラインセミナーの内容です。
セミナー登壇者:藤庭 真也(ふじにわ まや)氏
医療機関での発達相談員、 民間機関での療育講師や発達障害児専門塾の教室主宰。
大阪府や滋賀県の市町村教育委員会の巡回相談員やスーパーバイザー、大手進学塾グループにて新規に放課後等デイサービスを立ち上げ、教室長を勤める。
2022年4月より現職。特別支援教育士。
発達障がいの診断と教育の役割について
前回の発達障がいセミナー基礎編では、発達障がいとは何かについて学びました。応用編では、目の前にいる彼らに、実際にどのように指導していくかということついて、事例も含めてお話したいと思います。
まず大前提として、発達障がいを診断するのは医者です。教育の現場で診断することはできません。診断が出た後に、教育という切り口でできることをしていきます。もちろん、診断がつかないから指導できないということもありません。どんな子どもであれ、目の前の子どものつまずきを把握し、そのつまずきに合わせた指導をすることが、教育の役割だと思います。
発達障がいの子どもにどう接したらいいのか
教育現場でできることとして、まずは様々な場面での気づきをまとめていくことから始めます。そしてそのまとめられたエピソードを見ながら、背景要因を推定し、どういうところにつまずきがあるかを把握していきます。そのつまずきに応じて、具体的な指導方法をそれぞれの子どもの特性に応じて工夫していくことになります。
一人ひとりに合わせた指導となると、個別指導ではないと対応できないのではと思うかもしれませんが、そうではありません。一斉指導をしている事例も多くあります。それぞれの立場でそれぞれがやれる範囲のことをしながら成功事例を増やしていくことが大切です。
授業のユニバーサルデザインとは?
授業のユニバーサルデザインとは、誰もが学びやすい授業のことです。配慮の必要な子どもにとっては支援があって学びやすい、また、他の子どもにとっても支援があることで便利であるという状態です。 子どもを見る視点には、体調や性格、服装、家庭環境、学力、運動能力、コミュニケーション能力など、複数ありますが、支援を必要としている子どもを把握するためには別の視点が必要です。例えば、姿勢、目の動き、鉛筆の持ち方など手先の様子、大きな音への反応などです。気付くポイントをまとめると以下のとおりです。
発達の課題/気付きのポイント
学習面 | 聞き方、話し方、読む力、書く力、計算する力など |
行動面 | 注意集中の度合い、友達とのコミュニケーション、気持ちのコントロールなど |
生活面 | 整理整頓の仕方、当番活動への参加など |
運動面 | 手先の器用さ、姿勢、粗大運動など |
子どもの行動にはその背景要因があります。それを推測することも大切です。例をあげます。
状況:「次の行動になかなか移れない」
考えられる背景要因
・注意の配分の弱さ
・感情のコントロールが難しい
・見通しを立てることが難しい
状況:「誤りを指摘されるとカッとなったり友達に暴力を振るう」
考えられる背景要因
・衝動性の高さ
・感情のコントロールが難しい
・適切な感情の表出方法がわからない
状況:「説明中に作業を始めてしまう」
考えられる背景要因
・注意集中力の弱さ
・説明を聞いて理解する力の弱さ
・記憶力の弱さ
同じ事象でも、実は背景要因はそのお子さんによって違うのです。つまり、対処もそれぞれで変わってきます。ぜひ背景要因を推測するということを心がけるようにしてください。子どもの間違い方の特徴をつかむことで、つまずきの要因が見えてきます。では、事例をもとに、さまざまなケースの対応を解説していきます。
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セミナー登壇者:藤庭 真也(ふじにわ まや)氏
Growth Support Center 代表
学習塾・スクールにおける発達障害の子ども達への対応について藤庭氏に相談したい方は、
こちらよりご連絡ください。
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事例から学ぶ 発達障がいの子どもへの対応と指導法
では具体的な事例からその子どもへの対応、指導法をご紹介していきます。
ケース1 姿勢が悪い子ども
姿勢が悪い=態度が悪いではありません。これを発達的な視線で考えると、姿勢が悪いのではなく、「姿勢を維持するための身体の使い方が上手く行かない」「集中の弱さが影響している」などが背景要因として挙げられると思います。教室の中で見られる気になる姿勢について、その背景要因を推測しながら対応を考えてみましょう。
・骨盤を立てにくい
体幹の力が弱いため、着席・学習活動ができるように、自分なりの座り方として、椅子を後ろに倒したり、大きく股を開いたり、片足をお尻の下に敷く、などの姿勢をとることがあります。これには、体幹の力を鍛えていく必要があります。椅子からずり落ちる場合は滑り止めシートの利用を、じっと座れない場合は低反発クッションや座布団の利用をおすすめします。
・刺激を必要としている
机をガタガタ揺らしたり、椅子の片側を浮かせてユラユラしたりすることがあります。このようなお子さんは、注意集中が難しく、動くことでなんとか先生の話を聞こうとしています。逆にいうと、揺れていてもらった方がいいのです。ムービングクッションやバランスボールの利用もおすすめです。
・まっすぐに座れない
机の上をうまく使えないため、身体の位置をずらして書く子がいます。歪んだ位置から見ると軸がずれるので、文字の構成などが難しくなります。この場合、机の中心に小さなシールを貼り、おへそをシールの位置に合わせると良いと思います。
また、その授業は集中を保つことができる時間・内容なのかということを今一度チェックしてみてください。姿勢に関して言えば、何年生になればよくなるとか、発達障がいがあるから姿勢が悪い、ということはありません。
ケース2 思いつくまま自分のペースで発言する子ども
思いつくまま話すのは、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDの特徴的な行動です。
ASDの場合の背景要因と対応
・相手の立場に立って状況を理解することが難しい
状況やその場にいた人の気持ちを説明する→適切な方法を伝え、その方法で対応させる→対応できたことをその場で褒める」の順番で状況を確認します。
・気持ちの動きの理解が難しい
人は何度も同じことを言われると最後にムッとするものですが、その気持ちが理解できません。3回目はだいたい人は怒りの気持ちが湧いて怒るんだよ、などと説明します。
・思ったことを必ず口にする訳ではない、ということを知らない
発言にはルールがあることを教えます。
ADHDの場合の背景要因と対応
・処理速度が速いため周りのペースが遅いと感じる/衝動性
ADHDの子どもは周りのペースに合わせることが難しいと感じます。待つことが苦手なだけで、状況理解ができないわけではありません。例えば、思いついたら10数えて待とうね、思いついても心の中で話そうね、など、待つためのスキルを身につけさせるよう指導します。
・思いついた段階で話さないと忘れてしまう
思いついた段階でメモをとる癖を身につけます。
ケース3 返事をしたのに違うことをする
返事をしたということは聞いていた、と考えると思いますが、発達障がいの子どもたちはそうとは限りません。状況理解の難しさ、聞いて理解することの難しさ、記憶することの弱さなどの要因により、うまく行動に移せないということがあります。
・記憶の弱さ
指示内容を書いて示す、または書きながら説明するなど、視覚に残るようにします。
・状況理解の相違(言葉通りの受け取り)
状況の再現→子どもの受け取りの確認→一般的にはこの場合どう受け取るものなのかの説明→具体的にどのように対応するものかを提示 の順番で状況を確認します。
・ことばの意味理解の難しさ
噛み砕いて、短く、繰り返し伝えます。時には目の前でやって見せるのも有効です。
ケース4 癇癪を起こす、すぐにキレる
自分が思っていたことと違ったり、気持ちのコントロールが難しい場合、癇癪を起こすことがあります。イメージすることが難しい、うまくことばで説明することが難しいと、どうしてもイライラして態度に出てしまいます。いくつかの要因から対応をご紹介します。
・見通しを持つことが苦手
前もって良いことも悪いことも詳細に見通しを伝えます。今日の授業はこのように進めます。目安の時間はこのくらいで、もしかしたら終わらないかもしれません、などと具体的に伝えると良いでしょう。
・状況に応じた感情の表出がわからない
「怒りの尺度」を使用し、レベルいくつならばどのような怒りなのかを説明します。
・気持ちのコントロールが苦手
深呼吸をしたりトイレに行ったり水を飲むなど、気持ちを沈められることをそのタイミングで伝え、やり切らせることが大切です。動きたくないからいい!と言うかもしれませんが、促してやらせて、体験させて気持ちを落ち着けるのに有効な手段であったと体験させるということも必要です。
ケース5 計算はできるのに文章題が苦手
文章題を解くにはたくさんの要素が必要です。文章中に出てくる言葉の意味や数式を組み立てること、文章の関係性をまとめることも難しいものです。文章が理解できたとしても、細部まで注意して読むことが難しい場合もあります。
計算の手助けになるフォーマットや、手順書を用意することで、考えがまとまりやすくなります。手順書もそのお子さんが同時処理(同時に考える)が得意か、継次処理(順番に考える)が得意かによって、まったく別のものになります。
文章題に書かれている状況のイメージが難しい場合には、1文ずつの状況を絵に描いてもらう作業をしてから、立式するなどが有効な場合もあります。 また、「増える」=足し算のように、キーワードと何算なのかを対比したカードを見ながら立式する際に考える手立てとすることもいいかもしれません。
ケース6 漢字を正しく書けない
漢字が正しく書けない子どもは、形を正確に捉えることが難しい、漢字と意味のマッチングが難しい、細部まで注意して見ることが難しい、不器用、などの要因が考えられます。ではどうしたら良いのでしょうか。
・形を認識する力、空間認知・視覚的記憶が弱い
形を認識する力が弱いと、いくらよく見てもなかなか覚えられません。ですから、視覚ではなく聴覚から入力します。【頭】という漢字は<いち くち ソ いち いち ノ 目 ハ>と読んで覚えます。
・細部まで注意してみることが苦手
この場合、漢字を虫食いにして、足りないのは何かな?という風に、あえて細部に注意を向けるような問題を出します。
ケース7 鏡文字を書く b、d、p、qなど、似た形の文字の混乱
・空間位置関係を捉えることの難しさ
「左から右へまっすぐ」「カックン下へ」など、言語化して唱えながら取り組みます。
・細部の違いを見分けることの難しさ
誤りやすい文字を並べて違いを言語化して覚える、意味や成り立ちに注目して覚えるなど。
つまづきと背景要因は子どもによって異なる
「〜が苦手」と言っても、苦手さの種類は子どもによって異なります。今回ご紹介したケースはほんの一例です。わかりやすい授業づくり、授業のユニバーサルデザインを心がけることはもちろん、支援が必要な子どもには、まず一人ひとりの誤りの種類を見立てて、そのお子さんにあった手立てを考えることが何より大切です。
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セミナー登壇者:藤庭 真也(ふじにわ まや)氏
Growth Support Center 代表
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