発達障がいの子どもたちへの理解と接し方<基礎編>

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※本記事は2023年3月に開催したComiruオンラインセミナーの内容です。

 

セミナー登壇者:藤庭 真也​​(ふじにわ まや)氏

Growth Support Center 代表

医療機関での発達相談員、 民間機関での療育講師や発達障害児専門塾の教室主宰。

大阪府や滋賀県の市町村教育委員会の巡回相談員やスーパーバイザー、大手進学塾グループにて新規に放課後等デイサービスを立ち上げ、教室長を勤める。

2022年4月より現職。特別支援教育士。

 

学習障がいとは

 

発達障がいセミナー基礎編では、発達障がいと言われている子どもたちについて、理解を深めていただきたいと思います。最後に、その子どもたちの支援について、先生方がまず身近に取り組んでいただける内容についてお話したいと思います。

 

現在はお医者さんが診断される診断名と厚生労働省・文部科学省で使用されていることばが違うので混乱をされるかと思いますが、「学習障がい」という名称は文部科学省が用いています。その内容は以下のとおりです。

学習障害とは、全般的に知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力について著しい困難さを持つ状態をいいます。

 

「発達障害」と言われるものには、主に以下の3つがあります。

 

・限局性学習症(LD)

・注意欠如多動症(ADHD)

・自閉スペクトラム症(ASD)

 

医学用語では「Disorders=障がい」と表現されますが、文部科学省では「Disabilities=困難さ」と表現され、医学用語よりは広義にとらえています。1つずつ詳しくご説明します。

 

限局性学習症(LD)とは

 

みなさんのまわりに、こんな子どもはいませんか?

 

これらは「発達障害」を持つ子ども達の特徴です。この子たちは、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されています。中でもLDは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」という能力のうちのどれか特定の習得と使用に著しい困難はあるものの、知的障がいということではありません。

 

LDは、「学力が低い」というよりも「学習がうまくいかない」という状態だと言えるでしょう。このような子たちは、例えばこのセミナーをお聞きになっている進学塾に大勢いるかというと、そんなことはありません。彼らは、「漢字を書かせようとしても、そもそも文字が出てこない」とか「ひらがなを聞いても、音から文字に表現しづらい」「計算ができないというより数の感覚が掴めない」というように、そもそも読み書き計算に対して非常に困難さをきたしている状態です。「学力が低い」というイメージとは少し違うかもしれません。

 

例えば、俳優のトム・クルーズは文字の習得について障がいを伴っていることは有名です。ではどうしているかというと、台本をスタッフに読んでもらい、聞いて暗記しているのだそうです。LDのイメージが掴めたでしょうか。

 

このように、LDの理解はとても難しいことだと思います。「読む」「書く」「計算」を例に、具体的に解説すると以下のようになります。

 

「読む」ことの困難さの例

1音ずつたどたどしく読む

・読み飛ばしや勝手読みがある

・音読は上手だが内容がわかりにくい

「書く」ことの困難さの例

・線のつながりや向きを捉えにくい

・書き順を覚えにくい

「聞く」ことの困難さの例

・カメがアメに聞こえる(kの音の区別が難しい)

・「さ(s)」と「た(t)」の区別が難しい

 

限局性学習症(LD)の子どもの学習指導のポイント

 

LDの子どもの学習指導は簡単ではありません。まず大前提として、学習方法は一つではないということを理解してください。

 

教育現場と言っても、その環境は様々です。例えば、プログラミングスクールならば、画面を見ながら出てくる情報を整理するというスタイル。学習塾なら塾用教材を用いて指導を行っていきます。学童、英語教育などもそれぞれのスタイルがあります。

 

そのお子さんの特徴を捉え、その子は見た方がわかりやすいのか、聞いた方がわかりやすいのかを考えたり、その子に合わせた目標設定、要求水準や課題の調整を行ってください。

 

注意欠如多動症(ADHD)とは

 

次に、注意欠如多動症(以下、ADHD)​​についてです。このお子さんは、一言で言うと「非常に元気なお子さん」です。特徴は以下のとおりです。

 

不注意:気が散りやすい、うっかりミスや忘れ物が多い

多動性:授業中に席を離れる、歩き回る、落ち着かない

衝動性:話をよく聞かずに話し始める、順番を待てずに割り込む

(黒川君江『LD、ADHD、高機能自閉症児への手だてとヒント』より)

 

このように、注意深く行動することが難しく、順序立てて行動することがなかなかできません。その能力はあっても、他に気になることがあるとそちらに注意が行ってしまいます。だから、「やればできるのにしようとしない」と捉えられてしまいがちです。正しくは、「やればできるのにできない」のです。

 

注意欠如多動症(ADHD)の子どもの学習指導のポイント

 

ADHDの子どもが学習するときには、その行動特性が影響を与えてしまいます。例えば、ノートをあとで見返しても自分の字が読めない、漢字の学習で、点が足りない、線が足りないなどが挙げられます。伝えたいことがあっても、文字を書くことが苦手で、マスや行にきっちり収めることに困難が生じます。

 

また、彼らは、その行動が不適切なことだということはわかっていても、抑えることが難しい状態にあります。そのため、注意されると自分の取った行動を振り返ることもでき、落ち込みます。それでも、また同じことを繰り返します。学習指導のポイントとしては、以下のようなことが挙げられます。

 

トラブルを起こさない工夫をしてあげる
→見通しを立てさせる、達成できそうな目標を決める、ソーシャルスキルを教える

失いやすい自信と意欲を支えてあげる
→達成できそうな目標を子どもと相談して決める、挽回のチャンスを与える

基本的な信頼関係と自尊感情を育てる

ADHDは、叱られることが多いお子さんだと思います。それゆえに、前もって約束を伝え、その約束を守れた時にすかさず褒めるなど、自尊感情を育ててあげるということも必要ではないかと思います。きちんと注意を向けるように促すだけで、できることは増えます。

 

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セミナー登壇者:藤庭 真也(ふじにわ まや)氏

Growth Support Center 代表

学習塾・スクールにおける発達障害の子ども達への対応について藤庭氏に相談したい方は、

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自閉スペクトラム症(ASD)とは

 

自閉スペクトラム症(以下、ASD)には3つの側面からそれぞれ以下のような特徴があります。

 

①社会性

・目を合わせて会話することができない

・気持ちにあった表情や身振りを使って表すことが難しい

・表情や身振りから人の気持ちを読み取ることに困難がある

・自然に決まっているルールがわからない

②コミュニケーション・ことば
・回りくどい話し方や独特な言葉を使う
・字義通りに受け止める
・会話が形式的で抑揚なく一方的に話す
・言葉だけの情報では言われていることがイメージできない

③社会的イマジネーション・柔軟性

・自分なりの独特な日課や手順が決まっており、その変更を嫌がる

・特定のものを集めたがる

・特定の分野に非常に詳しい

・丸暗記が得意

 

これらの他に、音や匂いの感覚に敏感(あるいは鈍感)だったり、睡眠に問題があったりなどの特徴もみられます。

 

例えば、理科だと、その学年では習わないような分野のことを夢中で話したり、歴史上の特定の人物にものすごく詳しいなどということがあります。また、含みのある言葉や例え話が理解できず、そのまま捉えてしまうため、「頭を冷やせ」と言われると、頭に水をかけることで”頭を冷やす”子もいます。ことば通りに受け取ってしまうということですね。

 

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの学習指導のポイント

 

相手の気持ちを考えるということに困難があるASDの子どもは、読書感想文を書いたり、物語文の読み取りが苦手です。読書感想文は、ここに何が書いてあったか、という事実しか書けないということがあります。ですから、ASDの子どもには抽象的で推測を必要とするような言葉は避けるようにしてください。

 

「この前の続きからなるべくたくさんしてみて」→「教科書でどこまで終わったかを探そう」「その次から問題を解こう」「◯時になったら終わろうね」

「ちゃんとしなさい」→「前を向いて座ろうね」

「そこに置いて」→「先生の机の上に置いて」

 

また、匂いに敏感な子が多いのも特徴です。先生の服についたタバコの匂い、教室の匂いなどで、イライラしたり怒ったりすることがあるかもしれません。皆さんにとってなんともないことも、過敏さ故に辛く、我慢しきれないことがあるという事です。

 

発達性協調運動障害とは

 

LD、ADHD、ASDの子どもに多く併発する障害として、発達性協調運動障害があります。これは、身体を動かしたり手先を操作するような行動が、同年齢の子どもよりも明らかに劣っている状態です。道具を使うことも苦手で、誰がみてもとても不器用、という状態です。このこともぜひ認識しておいてください。

発達障がいの子どもが学びやすい授業とは

 

LD、ADHD、ASDの子どもそれぞれの特徴を踏まえ、学習指導のポイントをお伝えしましたが、最後に学習障がいの子どもが学びやすい授業についてまとめてお伝えします。

 

①学びやすい環境

やる気はあってもできない、刺激が多いと集中できないなど、彼らが弊害に感じる要素をなるべく取り除くと良いと思います。例えば、教室内の掲示物や音などは気が散らない程度に調整すると良いでしょう。座る場所や板書の取り方など、工夫できることもあります。環境を整えるということを意識してあげるとよいと思います。

 

②学びのための支援のポイント

「話す」「読む」などが困難な子どもには、それぞれ支援のポイントがあります。

 

<話すことが難しい場合の支援のポイント>

読むことが難しい場合の支援のポイント>


また、進学塾などでぜひ意識してもらいたいのが、「100点じゃないとだめ!」という考えを持たせないことです。こだわりを持つ子どもの場合には、その考えに捉われて、強迫的になり、メンタル面で二次障害を発症することもあるからです。例えば、「いつもより難しいテストをするから100点は難しいです」など、
100点が取れないこともあることを予告したり、100点を取れなくても大丈夫だということを分からせるのも大切です。

 

実は、発達障がいの子どもへの指導は型化されていません。Growth Support Centerでは、漢字のこういう間違いをする子どもをどうしたらいいのかなど、個別の課題に対して、教材の紹介や指導のアドバイスなどを行なっています。研修会や巡回相談も積極的に行なっていますので、ぜひご気軽にご相談ください。

Growth Support Center

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セミナー登壇者:藤庭 真也(ふじにわ まや)氏

Growth Support Center 代表

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発達障がいの子どもの保護者へのアプローチ

 

発達障害の子どもへの基礎理解についてお伝えしました。塾やスクールの先生が悩ましいのが、保護者へのアプローチだと思います。非常にデリケートな問題であり、保護者に伝えづらいことが多いでしょう。

 

塾の先生が普段接していて、どのように対応しているのか、まずは事実を伝えましょう。「この単元のこの部分で、なかなか理解ができない様子が見られます。学校やご自宅ではどうですか?どのように説明されてますか?」と聞くのも手です。「話を聞いてくれないので困ります」など、困っていることだけ伝えても、保護者は「知ってるわよ」と思うかもしれません。むしろ、だからお金を払って塾にお願いしているんだ、と切り返すかもしれません。

 

指導内容と子どもの様子を正確に伝え、「もしかしたら別のアプローチもあるかもしれないので、学校や外部の機関に相談してみてもらえませんか?」など、塾が困っていることと保護者が困っていることが一致しているかどうかを確認するとよいかもしれません。

 

セミナー質疑応答

Q

英文を書くことに苦痛を感じている生徒がいます。漢字は形で捉えられるが、英語は苦手のようで、マスに文字がうまく入りません。

A

英文を書く前に、綴りと音の違い、音と文字の種類の使い分けの混乱の度合いを見たり、英文の場合は単語と単語の間にスペースを開けているかなどをチェックしてみてください。

ーーー

Q

LDだと指摘することに、塾側のメリットはあるのでしょうか?

A

診断がつけばいいというわけではありません。学習も、やり方を変えたらできるようになることもあります。指摘する前に、何ができそうか、どんなやり方がよさそうかを試してみるのもいいと思います。

 

「塾ではこのやり方で15分くらい集中できました」「この本が指導の参考になった」など、やってみてできたところだけ報告するというやり方で信頼を得ることができます。そうすれば、何かあったときにはこの先生に相談しようと思ってもらえるかもしれません。理想は、保護者から塾に相談があるという形です。その場合は外部の機関への相談など促しやすいでしょう。

ーーー

Q

バイリンガルの生徒でLDが疑われるケースがあります。この場合、母国語の習得を優先するべきでしょうか。

A

一般的には3歳までは母語を優先することが望ましいと言われることが多いです。ただし、一般の子どもとLDの子どもとでは状況も異なります。後者はやはり母語優先が望ましいのではないかと思います。言葉の混乱をきたすのは心配です。どちらか片方はきちんと学んで欲しいですね。

ーーー

Q

低学年の場合、低学力とLDの判断は難しいのでは?

A

わかりやすく言えば、低学年のお子さんでLDがあった場合、ひらがなの習得のスピードが著しく遅いと思います。ADHDは、低学年の場合「元気な子・やんちゃな子」とまとめられることが多いので、判断は少し難しいかもしれません。

ーーー

Q

進学塾の場合、保護者の期待はテストの点数を上げることです。その場合、他の生徒と一緒に学習が困難なLDの生徒についてはマンツーマンの対応は絶対でしょうか。

A

塾の先生は生徒の成績を上げることが第一だと思います。LDで成績が上がらないわけではありませんが、今取り組んでいる塾用教材が本人にあっているかどうかという問題はあります。塾用教材が使えないというわけではなく、どう使うか、補助教材をどう用意するか、どう教えるか、アプローチはいろいろあります。マンツーマンが絶対ということでもないと思います。

ーーー

Q

フリースクールを運営していますが、ルールを決めた方がいいのでしょうか。学習指導は自習がメインです。

A

規制が少ない場所だけに難しい問題ではありますが、最低限のルールはあった方が生活がしやすいと思います。例えば、何でも自由ではなく、時間に目的を持たせて、その間はスマホに触れる時間を決める、などはいかがでしょうか。

 

自習では、課題やプリントの内容は考えた方がいいかもしれません。例えばADHDの場合、30問の問題がプリント1枚に書かれているより、2問のプリントを20枚やらせた方が取り組みやすいということもあります。パソコンを使ってみるなど、角度を変えるのも効果がありそうです。

ーーー

Q

外部機関はどこを紹介すればいいのでしょうか。紹介先のリストはありますか?

A

医療機関をいきなり紹介するのは避けた方がいいと思います。地域に必ず教育センターまたは発達支援センターというところがあるので、まずはそこをご案内できればいいでしょう。

ーーー

Q

営利目的の学習塾が学校と連携するのは難しいのではないでしょうか。

A

ここ数年、学校も民間機関との連携は必要という見解になってきています。直接連携するのは難しいかもしれませんが、アプローチの仕方としては、保護者に間に入ってもらうのが望ましいでしょう。「同じ目標を共有したいので、一度学校側と相談したいと思うのですがいかがですか?」と切り出すのもよいでしょう。学校に「特別支援教育コーディネーター」と呼ばれる方がいるはずなので、その先生に連携できたらいいですね。

 

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