講師育成の早道は、本気度が伝わるコミュニケーションの循環

講師の質は、塾の価値を大きく左右するといっても過言ではありません。数年で入れ替わる大学生のアルバイト講師を多く雇用している塾の場合、常に新しい人材を採用し、短期間で育成する必要があります。そのために塾経営者に求められることとは何か。 今回は、特に多くの講師を必要とする個別指導塾のケースを中心にその具体的な方法について、Comiruアドバイザーの大澤先生に解説してもらいます。

監修いただいた先生

減少する応募数、講師育成は常に課題

元来、高時給のアルバイトとして大学生に人気があった塾講師ですが、現在は応募数が減っています。一般的な時給制のアルバイトとは異なり、1コマあたりの授業単価を設定する塾が増え、授業前後の準備や報告・片付けにかかる労力に対する賃金が見合わないと敬遠されるようになったことが要因と考えられます。

もちろん昨今は改善されつつあり、授業時間以外に発生した業務については、契約書上で「コマ給に含まれる」と明記する、または別途“業務給”を支給する場合が多いでしょう。ただ、賃金や雇用契約に関する不安を拭きれず、応募数は少ないというのが現状です。

講師に関する課題としてはもう一点、大学生の学力低下があります。かつては有名大学に在籍している学生を中心に採用していました。しかし近年では大学入試の多様化から、有名大学に在籍しているといっても、必ずしも高い学力を担保するものではなくなっています。そもそも少ない応募の中から採用しなければならず、一定以上の学力を有した学生を採用できるとも限りません。

採用がそもそも難しい上に、即戦力化も難しい…そこで重要なのが講師の育成です。できるだけ短期間で一人前の講師として活躍してもらうためにはどうしたらいいのでしょうか。一般的な講師育成のフローを辿りながら解説していきます。

入社時のオリエンテーションは理念や指導方針をインストール

新人講師へのオリエンテーションは、まず自塾の理念や指導方針の研修から始めることが大事です。細かい指導方法の前に、どういう塾を目指しているのか、なぜ塾を作ったのか、どういう生徒が多いのか、大事にしている考え方は?等の理念や方針をまずインストールすることが大事です。

さらに、理念や文化は実践されてこそ意味のあるもの。文字だけではなく、どんな行動がそれを体現しているのか、具体的に伝えてあげることも必要です。

複数の教室を有する大規模塾の場合、全教室の全講師に共通認識を持たせるためにも動画を活用することもあると思いますが、仕組みや文化がすでに継承されている大規模塾と違い、個人経営の塾では塾長先生が自分の言葉で直接伝えるほうが直接的に届くのではないでしょうか。

指導方法はどう教えるかではなく、どう理解しているかに着目する

次のステップとしては実際の指導方法のレクチャーとなりますが、採用している教材によっては指導法を解説したDVDが用意されている場合がありますので、こうした素材を活用するのが最もスムーズです。

さらに模擬授業などでテクニックを習得していきますが、いざ1対1で生徒に教えてみると、全く生徒に理解してもらえないということが少なくありません。特に新人講師は「どう教えるか」ばかりに注力するあまり、生徒が「どう理解しているか」ということを考えていないケースが多く見受けられます。

この場合、先輩講師や教室長のサポートが欠かせません。たとえば以下のようなフォローアップの流れで、生徒も巻き込みながら教育する方法も一案です。

1)新人講師の授業を受けた生徒に対し、教室長や先輩講師がヒアリング
2)生徒目線での要改善点をフィードバック
3)生徒が先生役となり、先生に教えられるかどうかで習得度を確認

育成といっても一方通行にならず、風通しのいい環境作りが肝要であり、そのためには日頃から丁寧なコミュニケーションを図ることが大切です。

OJTトレーニングはメンターとの二人三脚で指導力向上を

塾全体で新人講師を育成する風通しの良さを整える一方で、新人講師に専任のメンター(指導役)をつけることも効果的です。それも同じ立場である大学生の先輩講師に任せるのがよいでしょう。新人講師から相談しやすいというメリットだけでなく、メンターとなる講師自身も授業の見直しや改善につながり、より責任感と自主性をもって仕事に取り組めるようになります。

指導役となる講師も初めは戸惑います。しかしこの経験が将来、社会に出たときに大きな糧となることをしっかり認識してもらうことで、試行錯誤しながらも真剣に指導するようになります。もちろん、指導役を任せたからといって教室長が全く介入しないというわけではありません。メンターの相談にも乗りながら、新人講師へのフィードバックや評価は教室長が行うべきです。

公正な評価指標を行動を決める

また、明確な評価基準を設定し、あらかじめ提示しておくことも重要です。一例として以下のような基準が考えられます。

*生徒の定期テスト点数(推移など)
*累積コマ数
*指導報告書の記述内容
*生徒アンケートの結果、反響
*指導法が塾の理念に則っているか

指導理念の遂行については、たとえば宿題を生徒自身に採点させ、間違ったところは解き直しさせる方針を明示している塾の場合。実際にその通りに実施させている講師は、指導理念の重要性を認識かつ実践しているのですから評価すべきでしょう。その結果が定期テストの点数に現れるには時間がかかる場合もありますが、果が出るまでのプロセスもきちんと評価することで、生徒がそうであるように講師自身もモチベーションが上がります。

ほかにも、講師リーダーや副教室長を兼任している場合は、役職手当を給与に反映するなど報酬を明文化しておくこと。そのうえで、雇用契約を結ぶ段階であらかじめ提示することが必要です。

そしてこれらの評価基準を基に、年2回ほど教室長が全講師の評価を決定しましょう。リーダー講師や副教室長を兼任する講師が在籍するような大規模塾の場合、エリアマネージャーも講師評価に加わり、公平性を保つことが大切です。

すべての根幹は講師と本気で向き合い、関わり合うこと 

新人講師を塾全体で見守る環境作りや、正当な評価制度の構築は、教室長や経営者が担うべき重要な役割であることは既に述べました。

しかし、それと同時に大切にすべき根本的な心構えがあります。それは「講師一人ひとりに関心を持ち本気で関わること」です。塾講師としてはわずか数年間の付き合いですが、大学生にとっては社会に出る前の大切な助走期間ともいえます。一人ひとりのその後の人生にまで関わる気持ちで、親身になり、講師自身のためになることを考えてみてください。

たとえば就職活動中の学生講師をターゲットにした、就職活動に関するセミナーの定期開催は、大規模塾ではすでに行われていると思います。講師の数が少ない小規模塾の場合は講師OBやOGを招いて体験談を語ってもらったり、講師の志望度の高い業界で活躍する先輩を招いて話してもらったりと、より個人の要望に即した相談にのることができるでしょう。

教室長の熱意が講師・生徒へと伝播し、塾経営の好循環へ

教室長が親身になり、講師一人ひとりの将来のことも考えてくれる姿勢を示せば、その思いは必ず講師にも伝播します。そして講師自身も担当生徒の将来に本気で関わろうとするようになり、授業の質が向上していきます。さらには、講師の熱意が生徒に伝わることで、生徒が勉強に力を入れるようになるに違いありません。

塾の本分は塾生の学力向上ではあります。しかしそれを導くのは、講師の指導力だけではないのです。生徒の将来について一緒に悩み、親身になって受験対策に取り組み、自分事のように結果に一喜一憂するような塾経営者・教室長は、講師にも対しても同じように本気で関わることができる。それこそが講師の育成へとつながり、塾経営の好循環を生むといえます。