志望校を見極める。保護者と塾の役割

生徒の志望校、子どもの進路を決めるサポートをする役割というのは、その本人が想像するよりもはるかに重責で、選択を間違えると、取り返しのつかないことになる可能性があります。 中学受験に挑む小学生が、この先の人生を見据えて志望校を決めることなど到底不可能で、身体は大人並みに成長した中学生でも、自分が進むべき道が明確に見えていることなど、そうそうないでしょう。それゆえに、生徒に適した志望校を見極め、選択肢を絞るということは、学校、保護者、塾のとても重要な役割ということになります。 今回は、生徒の志望校選択における、塾の役割について考えます。解説は、Comiruアドバイザー・大澤一通先生です。

監修いただいた先生

Comiruのサービス資料を無料ダウンロード

 

志望校は誰が決めるのか

 

志望校の決め方については、都市部か地方かによっても事情が異なります。中学受験にしても、都市部なら数校に絞るのが大変なくらい選択肢がありますが、地方の場合、受験するか地元の公立中学校に行くかの二者択一というケースも少なくありません。

選択肢の数がどうであれ、志望校を決める基準は、「その学校が、この子に合っているかどうか」の一点でしかありえません。そして、もっと大事なことは、最終的に志望校を決めるのは本人だということです。

 

わたしも多くの保護者と生徒を見てきました。その中で、絶対に阻止するべきは、保護者が子どもの志望校・進路を一方的に決めるパターンです。点数だけで判断して志望校を決める、知名度で決める、何を根拠にか、この学校に入学すれば間違いないなどと胸をはる。中学受験においては、そもそも受験するのが本人ではなく親の意思だというケースも。そんな保護者が、子どもの人生を狂わせてしまうことが本当にあるのです。

 

このような理由で進路を決めた子どもは、その後どうなると思いますか?進学後にちょっと嫌なことがあったり、うまくいかないことがあったら、必ず親のせいにします。

 

お母さんがここに行けと言ったから。

自分は本当は別の学校に行きたかったのに。

うまくいかないのは親のせいだ。

 

子どもは人のせいにするものです。思春期の難しい時期にこんな感情になったら、本人も家族も不幸ですよね。保護者は子どものために環境を整える責任がありますが、その先は本人が選び、決めることです。最後は自分で決めるように促す、これは塾というよりは、保護者の役割です。ただし、これがうまくいっていないようなら、塾は保護者のよき相談役となって、うまくいくよう支援してあげてください。大人が用意した選択肢を、本人が自分の意思で選べるようにフォローするのです。

 

進路の選択肢をどう用意するのか

 

子どもに示す選択肢、つまり、その子にあった志望校をどう見つけるのか。これも、中学受験の場合は保護者の役割だと思います。親が子どもを見ていて、「この子に合う」と思えるかどうかです。

それは往往にして、偏差値とか、知名度とは違うものだとわたしは思います。受験が、”その学校に入る”ことが目的になってしまうと、先に述べたようなミスマッチが起こりやすいでしょう。遊びたい盛りの小学生がたくさん我慢を強いられた結果、念願の志望校へ進学したものの、不登校や退学となる例もあります。

 

なぜこの学校を受験するのか、この学校のどんなところが本人に合っているのか、まずは保護者が明確にビジョンを持っていなければなりません。そのために、保護者が情報を収集し、勉強しなければいけません。

 

ここで塾がやるべきことは、言わずもがなです。持っている情報、地域に根付く塾だからこそ知り得る情報を共有・発信することは、生徒の今後の人生にまで息づきます。ただ、学校の特性をどれだけ伝えても、保護者が子どもの特性や個性とマッチしているかを判断できなければ情報の効果も半減してしまいます。

 

そうならないために、生徒の得意なことや行動特性を観察し、受験に躍起になり点数や偏差値ばかりを気にしてしまう保護者が見落としている点を認めてあげることも、塾ができることです。

 

「理解が速いわけではありませんが、じっくり考えて着実に力をつけていくタイプですね。その適性に合う学校に入れてあげられれば、さらに伸びていくのでは?」といったコミュニケーションですね。保護者が気づいていないかもしれない生徒の特性に気づきを与えられれば「どんな学校なら、子どもの適性を生かせるだろう?」と保護者の視野も広がるかもしれません。そこに塾から得た学校情報が合わされば、保護者の学校選びの精度も高まるでしょう。

 

最近の、特に都市部の保護者は、情報が多い分、常にアンテナを立てていることでしょう。心配なのは、どちらかといえば都市から離れた場所に住む保護者や先生の方です。いまだに偏差値で判断したり、「目指せ国公立」「旧帝大」なんて言葉が生きていたりします。令和の時代にそんな価値観はありえません。

 

最近の研究でも、偏差値が高い低いということは、人生の豊かさを決めるものではないことが明らかになっています。成功していると言われる人の成功と相関しているのは、どの学校に行ったかではなく「誰に教わったか」「誰と学んだか」だという研究もあります。だからこそ、生徒に合った学校選びが大切なわけです。できるかできないかではなく、得意か不得意か。弱みがあれば強みで補う、そんな世の中になっていることを、塾からも発信していくと、保護者の視野も広がるかもしれませんね。

 

塾の実績としての志望校選び

 

さて、子どもに合う学校を選ぶべきだという話は理解するとして、それとは別に、塾としてはなるべく偏差値の高い学校の実績が欲しいという現実もあります。この整合性を保つのはなかなか難しいものです。進学塾の中には、偏差値の高い学校に無理してでも入れるべきだと考える塾もあるでしょう。現に、進学する学校によってその先の進路が明らかで、本人がそれを望んでいるケースもあります。

 

子どもによっては、がんばってレベルの高い学校に合格することで大きな自信がつき、その先どんどん伸びていく子もいます。一方で、背伸びをしてギリギリで進学した結果、1学期最初の定期テストで心が折れてしまう子もいます。

 

どんな状況でもそこで奮起してがんばれるタイプの子か、鶏口牛後で自信をつけるタイプの子か。進路指導においては、どちらが正しいかではなく、どちらがその子に合っているのかという話をするべきだと思います。塾としては、どちらのタイプの事例も話せるようにしておくといいでしょう。

 

受験は子どもが自分自身と向き合うチャンス

 

高校受験、大学受験においてはなおさら、本人の言葉で、その学校に行く目的を明確に言えることが重要です。周りの大人は「それはなぜ?何のために?」という自問自答を、これでもかというほどさせてください。すぐに答えが出なくても、自分の頭で考えることが重要です。

 

昨今の若者には、情報が無限に、そして自動的に入ってきます。正しい情報を選択して、処理していかなくてはなりません。情報に埋もれて流されるか、情報を適切に活用して最適解を導けるかは、自分の頭で考える習慣にかかっているのです。自分の頭で考える習慣は、今後より一層貴重なものになります

 

受験は子どもにとっての大きな試練ですが、彼らが自分と向き合う習慣を身につける絶好のチャンスです。好きなことは何か、得意なものは何か。保護者も塾も学校も、子どもが幸せになって欲しいと願う気持ちは共通です。何が子どもにとって幸せか、それはどの学校に入学するかではなく、その先で好きなことを見つけたり打ち込めたりすることです。それさえぶれなければ、進路指導もそう難しいことではありません。

 

志望校合格が人生のゴールではない

 

今回は、志望校の見極め方をテーマにお伝えしました。生徒の進路について、保護者とどのように話を進めていくかの参考にしてください。

 

保護者の中には、志望校合格がゴールになっているケースもあります。塾として、合格させることがゴールだと考えていたとしたら、それは共に間違っていると思います。

 

12才、15才、18才の子どもたちにとっては、どの学校に進学するかということよりも、その先の人生の方がよっぽど長いのです。だからこそ、自分の進むべき道を自分で考え、自分で決めることが重要なのです。そのために塾がすることは、選択肢を一緒に考えることと、事例などの情報を共有することです。そして、保護者の頼れる相談相手になることに他ならないと思います。

 

「うちの子なんて」と言っている保護者がいれば、些細なことでも良いところを見つけて認めてあげることです。塾は保護者の、特に、孤立しがちな母親の味方でいてください。