学習塾を開業する際に、いつ何をするべきなのかという情報はたくさんあります。特に、個人塾を1から立ち上げるとなると、なかなかマニュアル通りにはいかないものです。そこで今回は、Comiruアドバイザー新田の塾開業のリアルをご紹介します。今だったらこうするのに…!というしくじりポイントも全部、包み隠さずお伝えします。
監修いただいた先生
まずはどんな学習塾をつくりたいか。
わたしが塾を開業しようと思ったのは、大手学習塾で勤務していたころのことです。生徒成績部門でトップ成績を出し続けていましたが、次第に、自分にはもっと別のやり方があるのではと思うようになりました。自分が担当する以上、全員の生徒の成績を上げたい、トップ成績じゃない子どもたち、溢れてしまう生徒を救ってあげたい。そのためには、読解力とやる気を高めてあげることだと確信するに至りました。
ただ、これって、大手塾ではなかなかできないんですよね。やる気を高める教育というのは得てして心理学の領域です。しかも、担当が変わると引き継ぐことが難しい。これはもう、自分でやるしかないと、独立を決意しました。その思いを胸に、しばらくは勤務しながら貯金をし、それと同時にコンテンツを制作、ストックしていきました。
塾開業において、まず大切なのは「どんな塾をつくりたいか」という理想を言語化することです。その上で、個人塾か、大手塾のFCに加盟するか、さらに、個別指導か集団指導かなどが決まってくるでしょう。そしてその塾で自分がどう働きたいのかをイメージしておくことも大切なことです。
気づいたら検討から3年経っていた…!開業までの流れ
学習塾を開業するにあたって、スケジュールをどう引いたらいいのでしょうか。一般的には3〜6ヶ月とされますが、私の場合は3年かかりました。大手塾での勤務と並行しての開業準備だったとはいえ、これはかなり長いほうですね(笑)どんな塾を目指すかにもよりますが、検討期間にどんなことをすればいいのか、わたしの例でお話ししましょう
ここまで時系列で私の開業レポートを紹介しました。ここからは学習塾ならではの検討事項をピックアップします。
(1)塾のコンセプト設計と実施してきたPDCA
塾を開業しようとしたら、そのエリアには大抵4〜5つくらいは既存塾があるでしょう。そこでどう勝負していくのか、しっかり考えて言語化しなければなりません。わたしが回したPDCAサイクルは以下のようなものでした。
わたしは「成績を上げるだけではなく、考える力や学ぶ楽しみを教えたい」という思いを持っていました。ですから、最初の訴求は「応援します」のようなふんわりしたものでした。ターゲットは内申点を5段階のうちで3くらいの学力の生徒とし、このクラスを<レベル3>とします。
この、<レベル3>クラスの生徒は、大手塾が合わないことが多いと思います。保護者もそのことに気づき、悩んでいます。そこで、自分の強みである伴走型指導を意識し、「読解力とやる気さえ上げてあげれば、自動的に成績が上がります」という打ち出し方をしました。実際、そのために開業しました。
これが言語化の難しいところで、やる気を出させてくれるんだ、と期待して、やる気のない子どもが集まりました(笑)。そして保護者は、伴走はともかくとして、“成績をあげてほしい”“もっと勉強させてほしい”と求めてくるわけです。当然ですね。
そこで訴求の仕方を変更し、「楽しみながら学習習慣をつけることで、レベル3からレベル4にします」と打ち出しました。そのためのツールとして、動画コンテンツやタブレットを整備しました。この結果、大手塾で溢れてしまった生徒、大手塾があまり狙わない層の生徒が集まってくれました。もともとわたしが救いたいと思っていた子どもたちです。彼らは「家だと勉強しろとうるさく言われるから塾に来た」と言ってやってきて(笑)、それでも見ていれば自主的に学びます。
ポイントは、訴求ワードを相手の要望を組んだ、なるべく具体的な言葉に置き換えることです。「何をどうすることで、レベルをいくつあげる」まで言い切ることです。これでコンセプトもシャープになります。
(2)[Product]教材の選び方・差別化ポイント
学力によってテキストを分けるのは必須です。教材によって先生の教えやすさも変わります。教材選定と同時に、誰が何を教えるのかまで想定しておきましょう。わたしの場合は「楽しく学ぶ」がコンセプトなので、動画やゲームも活用します。昨今はオンラインコンテンツも充実していますね。
(3)[Price]価格設定
わたしの場合、ブランド力がないため、他塾よりは思い切って安く設定しましたが、これが失敗しました。価格はブランド力を表すもの、安かろう悪かろうと自分で評判を下げてしまったんだと思います。他塾よりも少し安いくらいの価格値上げした途端、問い合わせが増えました。根拠のない低価格設定は必要ないと思います。
軌道に乗れば講師の採用を検討してもいいでしょう。わたしが講師を採用したのは開業して10ヶ月後でした。生徒が10人を超えて、指導時間が重なり物理的にどうしようもなくなったのがきっかけでした。
(4)[Place]塾に適した立地条件
まずはエリアを決め、その地域のどの学校の、どの学力層をターゲットにするかを決めましょう。競合となる塾についても生徒数や学力層など調べておきましょう。その上で、立地条件を細かく絞っていきます。
はっきり言って塾は場所がすべて。少しお金がかかってでも、ある程度認知される場所でないと厳しいでしょう。もちろん理想は1階、学校や駅から近い方がいいですね。あえて他塾の生徒の通り道に開業するのも手です。認知されやすく、転塾の選択肢にもなります。
大通り沿いや踏切沿い、工事が多い場所など、騒音がないかどうかも確認したほうがいいでしょう。駐輪場は必須です。
(5)[Promotion]集客方法
集客できないことには何も始まりません。まずは保護者の悩みに刺さる訴求をし、興味を持ってもらって、対面で改めて教育方針を伝える。この方法がうまく行きました。うまくいかないと思ったら勇気を持って変えることも大切です。
失敗しない塾開業への道すじ
これから塾を開業する人は、ぜひマーケティングの勉強をしてください。市場の見方や、ターゲティング、コンセプト設計、プロモーションなど、マーケティング知識は必要だと思います。
特に、わたしのように塾の現場で働いていた人、働いている人にとっては、知らないことがたくさんあると思います。 現在も学習塾で働いている人は、ぜひ視野を広げてみてください。いろいろな物事を、経営者視点で見てみてください。他塾の塾長とつながっておくのもいいですね。