<前編> 退塾者を半減させる生徒のやる気アップ術 ~成績管理の要諦は、“数字”で示し具体策を伝授~

塾経営にとって最も大切な指標の一つが、入塾した生徒の退塾をいかに防いでいくかという点です。退塾者を増やさないためには様々な対策が考えられますが、重要事項の一つは、言うまでもなく生徒の成績を上げることでしょう。 成績を上げるためには、多種多様なアプローチがありますが、一番大切なのは個々の生徒の勉強意欲、やる気、モチベーションをアップさせることです。やる気にさせることによって、勉強時間が増え、勉強時間の増加は必然的に成績の向上につながるからです。シンプルに言えば、学習するかしないか、合格するかしないかは、全て、生徒をやる気にさせられるかどうかに掛かっているといっても過言ではないでしょう。 今回は、モチベーションアップのためにやるべきこと、さらに、モチベーション向上につながる成績データの使い方を、<前編>「生徒のやる気を引き出す“超”具体的アプローチ」、<後編>「データ活用が生徒のやる気に火をつける」の2回に分けて解説します。

監修いただいた先生


生徒のやる気を引き出す“超”具体的アプローチ

生徒のモチベーションを高める以前に、まず行うべきことは、生徒の状況をよく把握することです。中学生の場合、例えば、通っている中学やクラスの状況、兄弟姉妹の有無、家庭の状況、部活動は何をやっているのかなど、入塾した段階で知っておきたいことは山ほどあります。名著「人を動かす/カーネギー」の言葉を借りるまでもなく、「理解してから理解される」という考え方が大切、「やる気を出してほしい」という気持ちを理解してほしければ、まずは相手のことを正しく理解してあげることが必要です。

その中でも、最も知っておくべきことは、「どうなりたいのか」です。目標が決まらなければ、それに向けてモチベーションを高めていくというアプローチが取れないからです。

とはいえ将来のことを考えている生徒は少数派でしょう。そうした場合でも、塾側が情報提供や問いかけなど、継続的にアプローチし、目標設定とその達成に向けて働きかけていくことが重要です。

まずは「どうなりたいか」「どの高校に行きたいか」目標を決める

夢や将来像から行くべき高校を割り出す最強の“逆算進路指導法”

将来何になりたいか――。具体的な仕事や夢を語ってもらうことも、生徒がやる気を出すきっかけになり得ます。一見、勉強とは無関係と思われるかもしれませんが、実は、この将来の夢が学習意欲の向上につながるのです。

例えば、「弁護士になりたい」という将来像を話す生徒がいたとします。そうであれば、弁護士になるためには、司法試験の合格者を多く輩出している東京大学、慶應義塾大学、中央大学、京都大学が進学先として候補となります。加えて、それらの大学に進むためにどの高校に行くべきかが明確となり、その高校がターゲットとなるわけです。

もし、当該生徒が三男で、兄弟が多いために金銭的な事情が生じて私立に行くのが厳しいのなら、国立大学や都立、県立の高校が進むべき道となり、狙いが明確になることで、勉強にも身が入るようになります。

こうして、夢や将来像から逆算して進路を一緒に考えていくことは、生徒にとって非常にイメージがしやすく、志望校を決める際の考え方の一つになるでしょう。

目標を考えるために、こだわるべきは情報の量と質!

「中学一年生の最初からいきなり志望校を決めるのは早いのではないか」と思う方もいるかもしれません。しかし、早ければ早いほどモチベーションには効果があります。志望校は本人の意欲を高める際に、最も分かりやすい目標となるからです。

本人に志望校を決めてもらうためには、学校の成績やニーズに応じて、「A高校がある」「B高校もある」と、数多くの情報を提供することが必要となります。それぞれの高校の卒業生がどこの大学に進学しているかなどの情報も重要です。こうして、情報を与えていくことで、「では、B高校に決める」とその時点での志望校が決まります。

情報の“量”を与えた後は、“質”を意識し、B高校を目指す生徒にとって有益な情報を与えることに注力します。例えば、B高校に受かった先輩の合格体験記を読ませることも一つの手です。合格するまでに、学校の中間テストや期末テストで何点取ったかが書いてあれば、それが当面の目標となり、「その点数を目指して頑張る」と、モチベーションにつなげることが可能になるのです。

実際に志望校、大学のキャンパスに行ってみる

モチベーションアップは何も数字や文章が全てではありません。実際に、志望している高校やその先を見据えた大学に足を運び、雰囲気を肌で感じることも非常に有効な手段です。たとえば文京区の都会のど真ん中にある大学を見学すれば、荘厳な建物の周りに意外と緑が多いことに気づき、「こんな環境で勉強してみたい」と意欲が掻き立てられることでしょう。

あるいは、その近くの近代的なキャンパスの大学を見れば、それも魅力的に映り、行ってみたいと思うかもしれません。

東京在住の生徒が、地方の著名な進学校を目指すのであれば、保護者の方と一緒に旅行がてら見に行くこともおすすめです。こうして「実際に見に行くこと」が初めの一歩となり、勉強の原動力となっていくのです。その他、「憧れている有名人の出身高校や大学」「父親が通った大学」など、単純な決め方でも最初の段階では良いでしょう。

気持ちが緩んだ時は、勉強する目標時間を書かせる

“自己説得”こそが最強の説得力

目標が決まったからこそ、達成に向けた乖離が見え、乖離を埋めるために日々の勉強への落とし込みができてきます。しかし塾や自宅で学習を始めたとしても、やる気が持続せず、多くの生徒は徐々に勉強時間が少なくなるものです。夏休みに5時間勉強すると言っていた生徒がお盆前には2時間になってしまうこともあるでしょう。そんな時、「勉強時間を増やせ」と講師が言葉で叱咤激励しても、心理的な反発が起こり、逆効果です。

では、どうすれば良いかといえば、自ら設定する勉強時間を書面に書かせ、決意を宣言してもらうのです。そして、勉強時間が減った際には、その書面を見せて、自分の決意を思い出してもらうのです。つまり、今の緩んでしまった自分に対し、過去の自分が「5時間勉強すると言ったはず」と“自己説得”するという構図です。


講師や他人に言われたことより、自分が言ったことの方が、人間は遥かに覚えているものです。この自己説得こそが最強の説得力を持ちます。

さらに「頑張る」といった定性的な表現ではなく、偏差値や点数、勉強時間など数値を交えて達成未達成がはっきりと分かる内容を記述しておくことは更に効果があります。そうすることで、乗り越えるべきハードルが明確になり、生徒自身にも「できた」という感覚を持ってもらいやすくなります。また、先生や保護者など周囲からも状況がわかりやすくなり、評価しやすくなるというメリットがあります。

これを応用して、同じ志望校の生徒がいれば、「一日7時間勉強している人がいる」と駆り立てることも一つの手です。日々の勉強時間が明確になるとともに、「合格するためには負けてられない」と自己説得し、勉強に力を注ぐ引き金になるからです。

Comiruには夢や目標について、画像やテキストで記録に残せる機能”夢ミル”があります。

モチベーションは「たとえ高校入試でくじけても大学入試でリベンジ」

“不合格者インタビュー”で再起を図る

話はやや横道のそれますが、こうして、モチベーションを保ちながら勉強を続け、本番の入試に臨んでも、全員が志望校に受かるわけではありません。失敗する生徒も少なくないのが現実。受験に失敗して気を落としている生徒に声を掛けなければならない場面も出てくるでしょう。

そうした際にも、事前に夢や将来像をしっかりと設定しておくことが、立ち直りの鍵になります。ゴールは最終的にその夢を掴むことであり、高校入試で失敗しても、次の大学入試で希望する大学に合格すれば、弁護士など目標とする職業に就くことは十分に可能です。そうして“リベンジ”の道を示すことで再起を促し、高校に入ってからも塾を続けてもらえれば、共に目標を勝ち取る支援を引き続き行うことができます。

受験を失敗した生徒に有用なのが、失敗の要因と大学入試への意気込みを語ってもらう「不合格者インタビュー」を行うことです。反省点を赤裸々に話し、「次こそ勝つ」と宣言することで本人の動機付けになり、これから受験に向かう後輩が読めば、「反省点を参考にしよう」「もし失敗しても先輩のようにまた挑戦すればよい」と、良い影響を与えることもできるのです。

前編では、モチベーションアップのために目標が必要であることとその決め方、モチベーションを維持するために、偏差値や勉強時間など数値を用いた自己説得が重要とお話しました。後編では、「どういった数値をどう伝えていくべきか」モチベーションアップにつながるデータの使い方をお伝えします。