入塾時に未来をみてもらい、生徒の意欲を高めることが成績向上・退塾防止・通塾年数長期化に繋がる

入塾面談とは、顔合わせや手続きの説明の場というだけではありません。この場でどんなことを話し、何を示すかが、結果として通塾年数にも大きく影響することになります。今回は入塾面談の在り方を、「生徒の学習意欲を高める場である」という観点から解説します。

監修いただいた先生

1時間の入塾面談は未来の2~3時間の余裕を生む

みなさんは入塾面談をどのようにとらえていますか。30分程度で授業料やスケジュールを説明するといった、単なる入塾手続きの場になっていたら非常にもったいないことです。

手続きに終始する入塾面談を行っていると、生徒自身は学習意欲が高まっていないまま入塾することになります。そのため、通塾していても授業に身が入らず、途中退塾を申し出てくる可能性が高まるのです。その段階になって2~3時間かけて引き止めの説得をすることになれば、塾側だけでなく生徒や保護者にとっても不要な時間がかかることになります。

入塾面談はしっかりと1時間程度の時間を取ると、生徒自身の聞く姿勢が変わります。最初の授業だという心持ちで臨むこと。そして、生徒に学習意欲を与えようとするのではなく、生徒が本来持っている意欲を「生徒自らが引き出せる」ようにアプローチすることを心がけてください。

生徒や保護者を不安にさせない「出迎えの姿勢」を

ではこの1時間で、具体的にどのような話をするか。それと同じくらい大切なのは、入塾面談を迎える「姿勢」です。

教室内は整理整頓しておく

入塾面談があるとわかっているのに、たとえば生徒名の書かれたテストの答案用紙が見えるところに置いてあったら、入塾面談で訪れた保護者は「この塾に入ったら、我が子の答案用紙も同じように晒されるのだろうか」と不安を募らせるでしょう。面談の日だけに限ることではありませんが、きちんと整頓しておきましょう。

面談する生徒に合わせた資料を用意する

入塾面談は予定が前もって決まっているはずですから、これから来る生徒に合わせた資料を用意しておくことも重要です。在籍中学校、所属している部活、志望校、定期テストの点数などの情報を事前に入手し、同じ志望校を目指して合格した先輩や同じ部活に所属経験のある生徒の実績をまとめた資料を用意しておきます。

そして、その資料には入塾面談に来る生徒の氏名を入れ、その子のためだけに作ったことを認識してもらうことで、きちんと一人ひとりに向き合って考える塾だということが伝わります。

理想は、言葉を一切語らずとも、自塾の実績や事実の提示だけで生徒を納得させることができるほどの準備をすることです。

初対面から生徒と向き合う姿勢を見せる

面談当日は塾の玄関に出て出迎えるなど、誠実に向き合う姿勢を示すことも良いでしょう。その上でしっかりと時間をとり、生徒の未来のことを共に考え、導いていくように対話するのがポイントです。

このように、入塾面談には相当な事前準備が必要です。そういう準備ができる人が語る言葉こそが、生徒と保護者に響くといえるでしょう。

キーワードは「数値・事実」と「認知不協和」

では具体的にどんな話をすれば良いのでしょうか。いくつか例を紹介します。

新中3生の入塾面談で、毎日の勉強時間を質問したところ、「1日1時間勉強している」と答えたとします。新中3とは、受験まであと約1年。365日あるということは、生徒にとってはあまり実感がわかず、まだ十分に時間があると思っているかもしれません。

しかし、これを数値的な事実として生徒に伝えてみましょう。

「これから先も同じペースで1年間勉強したら、受験まではあと365時間勉強できます。365時間を1日の24時間で割ると…日数にすると約15日です。あなたの志望校が5教科入試だとしたら、単純計算すると各教科に割ける時間は3日ずつですね」。

過度に危機感をあおるような表現はしません。しかしこの説明だけでも、生徒は「まだ1年もある」という事実と、「勉強時間を日割りにしたら15日しかない」という、矛盾する2つの事実に直面し、焦ります。これを「認知不協和」といいます。

こういった不安や不快感を覚えると、人はそれを解消するため、自らの考えや行動を変化させようとする。つまり、自ら「勉強しよう」という覚悟と決意になるのです。

どんな言葉よりも具体的な数字や実物を示すことです。たとえば、以下に挙げたような資料はぜひ用意して、入塾面談で見てもらうといいでしょう。

▼入塾面談で用意しておくもの

実物1年分
入塾予定クラスの通常授業、講習会や特別講座等も含めた全てのテキスト 
・入塾予定クラスの確認テスト類
・入塾予定クラスの塾内模試・特別講座等のテキスト

・受験用ガイダンスや合格者インタビューなどの実績資料や年間配布物
・先輩塾生が塾でとった1年間分のノート(入塾面談に来た生徒と同じ志望校に合格した先輩塾生のノートであればなお良い)
・入塾面談に来た生徒の志望校に不合格だった先輩塾生のノート

準備したものを説明する際、「難しい」や「大変」という形容詞は使わないでください。実物を見せることで、これからの1年間にどれくらいのテキストやテストが待ち受けているかということをリアルに感じてもらいます。そして、テキストのページ総数を提示し、「全部で3,035ページ。大丈夫、先輩たちもみんなやったから」と、危機感と安心感を同時に伝えましょう。

さらに、先輩の実績を見せることで、同じ志望校を合格するためにどのくらいの勉強量が必要かということを覚悟してもらいます。さらに、6よく書けている不合格者のノートも見てもらうといいでしょう。志望校の受験者数、合格者数、入試倍率等の数値を交えながら示すことで、しっかり勉強したとしても必ずしも全員が合格するわけではない、でも合格した人はしっかり勉強しているという事実がしっかり認識できるからです。

しかし、このような提示をすると、あまりの勉強量に圧倒されて拒絶したり不安に陥ったりする生徒もいます。そのため、「大丈夫、先輩たちもみんなできたよ」「一緒に頑張る仲間たちの姿勢に刺激されるから」「先生もむちゃくちゃ応援するから」といった声かけを行い、自分もできそうだという安心感を同時に与えることが重要です。

少し先の未来を「当たり前」として伝え通塾年数UPにつなげる

入塾予定クラスの時間割の例だけでなく、数ヶ月先の夏期講習や9月以降の特別授業の時間割りなど、少し先の未来についても入塾面談で伝えておきましょう。いつどんな授業があるかを知ることで、学ぶ覚悟が芽生えます。その結果、授業に取り組む姿勢が真剣になり、おのずと理解度も上がるはずです。

「少し先の未来」を意識させる際は、以下のポイントも抑えておいてください。

①保護者へは先々の費用感を明示しておく

例えば夏期講習や年末の特訓講座など費用は全て、入塾面談時にきちんと保護者に伝えるべきです。もっと言えば、授業料は月謝ではなく年間総学費をお伝えすべきです。夏期講習を直前に伝えたことで金銭的な準備が追い付かず受講できなくなる、というケースを防ぐ狙いがあります。また、途中から金額が上振れすると塾への信頼も損ねかねません。

②未来の自分を常に思い起こさせるために、「将来の夢」をヒアリング

志望校やその上の志望大学、学部、さらにその子の将来の夢についても聞いておきましょう。たとえば、大学進学という夢を実現させるために逆算し、高校でも継続した学習が必要であることを“当たり前”として伝えておくべきです。高校受験での合格をゴールと定めてしまうと、高校受験が終わった時点で退塾してしまうことにもなりかねません。

目の前の目標だけではなく、未来の自分を常に思い起こさせる。これは入塾後も大切なことで、節目ごとに提示してあげると良いでしょう。そうすることでモチベーション維持・向上にもつながります。

③先輩からのメッセージで、「この塾ならできるかも」を実感させる

同じ夢を抱き、実現させた先輩塾生の成功例を紹介するのもおすすめです。入塾前の成績から、塾のノート、通塾歴、そして後輩へのメッセージなど。入塾面談に来た生徒と近い目標を持っていた先輩の実績を紹介することで、「この塾でなら、自分にもできるかもしれない」と思ってもらうことが重要です。

 

これらは、進学クラスに属する生徒だけに言えることではありません。元々勉強が苦手な生徒でも同じです。大切なことは、現状の成績で判断せず、その生徒が思い描く未来の実現に塾としてどうアプローチするかです。

そのためには、生徒自らが覚悟を決め「がんばります」と決意(自己説得)を示してくれることが大切です。これこそ(自己説得)が、勉強意欲を持続させるために必要なことです。

入塾面談で生徒自身の言葉で決意表明が聞けるよう、丁寧に準備をしたうえでアプローチしてみてください。