カリスマ講師として名高い出口汪先生。国語を感覚的に解くのではなく、論理的に解く重要性を説き、そのアプローチ法を体系化した『論理エンジン』は、全国公立私学300校以上や多くの塾でも導入されています。
国語力を高め、共通テストでもその先の人生でも活きる論理力の伸ばし方について伺った前回に続き、今回は塾講師からの「塾での国語の教え方に関する疑問」について直接お答えいただきました。
出口 汪(でぐち・ひろし)先生 出版社「水王舎」代表取締役、広島女学院大学客員教授、論理文章能力検定評議員。 現代文講師として、入試問題を「論理」で読解するスタイルに先鞭をつけ、受験生から絶大なる支持を得ているカリスマ。 また、論理力を養成する画期的なプログラム「論理エンジン」を開発し、多くの学校・塾に採用され好評を博している。現在は受験界のみならず、大学・一般向けの講演や中学・高等学校教員の指導など、活動は多岐にわたり、教育界に次々と新規軸を打ち立てている。 |
Q1 言語感覚が乏しい生徒は、どう教えていけばいいでしょうか。おかしな言い回しや表現をしていても、自分で気づくこともできないようです。
まずは漢字学習から見直していきましょう。書き取り中心はNGです。機械的な反復では作業化してしまい語彙力が身につきません。そうではなく、意味や使い方に主眼を置いたやり方に変えていきましょう。正しい意味や使い方に触れる頻度を増やしていけば、語彙力が磨かれ、言語感覚も研ぎ澄まされていくはずです。
私が開発した「頭がよくなる漢字シリーズ」を活用いただくのもおすすめです。ただ単に漢字を覚えるのでなく、自在に使え、自分の言葉で表現できるようになる「しかけ」がたくさんつまっています。
また、読書体験も重要です。読書体験には通常の読書と問題集の問題文を読むという2種類がありますが、言語感覚を磨くには、後者がおすすめです。論理的な文章が選ばれており、力がつくエッセンスが溢れているため、即効性があります。通常の読書も無駄ではありませんが、問題文に比べると遅行性が高いと言えるでしょう。通常の読書は、楽しむためのものにしてあげたいですね。
Q2 国語力は生徒本人の資質に問わず伸ばせるのでしょうか。上位の生徒は伸ばせても下位の生徒を伸ばせるのか気になります。
これは年齢によって異なります。人間の脳は6歳で90%、12歳までに100%完成すると言われています。そのため、幼児と中高生とではアプローチが異なってくるわけですね。中高生は既に完成された脳に対しての教育となります。それに対して、12歳までは脳のデザインの教育です。まずは、その違いを認識することから始めましょう。
まだ脳ができあがっていない12歳までの段階は、論理をしっかり教えれば面白いように吸収していきます。ガラッと変わりますね。
問題は中高生です。高1くらいまでであれば、ある程度の量の論理のトレーニングに取り組めば大丈夫でしょう。しかし、高2以降は厳しさが増します。詰め込み教育で、考えずに覚えるだけという形で脳が完成されてしまっている場合は厄介です。こういった場合は、一度出来上がったものを崩さないといけません。固定化された脳を変えていくわけですから、生徒自らが「変わらないとダメだ」と強く意識しなければなりません。そのため、私も予備校時代はかなり過激な言い方もしていましたね。
たとえば、高3の受験生からよく聞かれた「今から先生の現代文をやって間に合いますか?」という質問。私は正直にこう答えていました。「間に合うかもしれないし、間に合わないかもしれない。君の今の頭の状況もわからないし、どれだけ集中して問題をこなして論理の訓練に取り組めるのかもわからない。間に合わない可能性もあることを覚悟して取り組むか、諦めて他の教科で頑張るのか…選ぶのは君自身だよ。ただ1つ言えるのは、たとえ受験に間に合わなかったとしても、論理と出会って身につけられれば、君の将来にものすごく役立つよ」と。こういった言葉で生徒の意識改革をはかってみてはいかがでしょうか。
Q3 幼児や低学年に国語を教える際には、どのような点に注意すればいいのでしょうか。中高生を教えるのとは違う苦労についてもおしえてください。
私自身、幼児向けの教室も始めましたが、非常に楽しくうまくいっています。その中で、あえて苦労をいうとすれば、2〜4歳くらいまでは1時間じっと座っていられない子もいるということが挙げられます。そのようなこともあり、幼児向け教室は、保護者同伴を基本としています。学力には「遺伝」「環境」「教育」の3要素が必要ですが、保護者同伴とすることで「環境」「教育」にアプローチできるのもいいですね。
低学年では、公文式や塾などで早く解くことに慣れている子どもの対応に苦労することがありますね。私の教室では、問題を解くだけでなく、なぜその答えになったかを言語化して説明させるようにしています。なぜなら、それが筋道立てて考える論理力を鍛えるからです。
しかし、早く解くことを求められてきた子どもの場合、問題文を読むのもそこそこにいきなり設問を解こうとしたり、人より早く解いて次のプリントに取り組みたがったりする傾向があります。そうすると、その姿勢が改まらない限りは伸びづらく苦労することもありますね。
Q4 発達障害やディスレクシアの生徒への対応で気をつけたいことはどのようなことがありますか?
レッテルを貼ってとらえないほうがいい場合もあります。なぜなら保護者も子どもも変なコンプレックスを持ってしまう場合があるためです。脳はスピードの違いこそあれ、自然に発達していくものです。言語が習得できているのであれば、言葉を徐々に入れていけば解消していくでしょう。
周りと比べて判断してしまいがちですが、焦らず人格を認めながら漢字を読めるようにして、語彙を入れ、簡単な論理を教えていくという基本を大切にしてください。そうすれば、ゆっくりでも自分の気持ちも言語化できるようになっていくはずです。
Q5 大人になってからも論理力を鍛えることはできるのでしょうか。講師自身の論理力が乏しいときもあって悩んでいます。
「論理エンジン」シリーズなど、私がまとめた教材を活用して教えていただければ基本的に講師の論理力も高まるはずです。ただし、講師自身が論理の大切さを自覚して、自ら身につけようとする意識を持っている場合に限ります。そのため、経営サイドや教室長が講師に必要性をしっかり伝えられるかが重要です。
「論理エンジン」は10年以上の年月を経て300校以上に導入されています。目覚ましい成果をあげている学校が多いですが、中には変化に乏しい学校もあります。それは意識の違いにあると考えています。解説もそこそこにただ「論理エンジン」に取り組ませるだけでは、答え合わせしかしない学習と変わらないですからね。
また、目覚ましい成果をあげている学校は、模試の点数や合格実績といった点だけでない「成果の発見」が上手です。集中力があがった、話し方が変わった、英文の日本語訳がこなれてきた……など、あらゆる変化を発見しています。成果はあるものでなく、発見するもの。この意識も、論理力の養成に取り組む際に欠かせない観点です。
「論理エンジン」シリーズについては、こちらよりお問い合わせください。