<前編> 多教室展開戦略を実現させるために フェーズごとに注意すべきポイント

個人で自分の教育理念や理想とする学習環境を実現する塾を立ち上げ、一定の成功を収めている場合、次の一手として考えるのが、多教室展開です。 ビジネスとして拡大していく際には、注意すべきポイントを押さえ戦略的に進めていくことで、事業が成功する確率は上がっていきます。 今回は、多教室展開を進めていく際に考慮したい点を、<前編>「フェーズ①単独教室から2教室へ増やす」、<後編>「フェーズ②3教室以上に教室数を増やすフェーズ」「フェーズ③10教室以上にスケールする」の3段階に分類し、解説します。

監修いただいた先生


フェーズ① 1教室から2教室へ増やす 求められる3つの視点

最初に立ち上げた教室では、創業者は生徒に教えるプレイヤーであり、同時に塾の運営を行うマネージャー、あるいは塾長という顔も持ち合わせています。つまり、創業者の大半はプレーイングマネージャーとして日々の塾の運営を行っているわけです。そうした中、2つ目の教室を立ち上げる際には「人材」「立地」「募集」の3つの視点を注意して、対策を講じる必要があります。

まず、2教室目を立ち上げるためには、当然のことながら、教室を任せられるプレーイングマネージャーをもう一人確保することなしには成立しません。その人材に最初の教室を任せて、自らは新しい教室のプレーイングマネージャーになるか、逆に新しい教室を任せて、自分は最初の教室に残って運営に当たるか、二つに一つしか方法はないのです。

人材:最も重要な「教室を任せられる」キーマンの育成

ヘッドハンティングは避ける

最初の教室が成功を収め資金繰りが潤沢であっても、好条件の物件が見つかったとしても、新しい教室を担える適任者がいなければ、計画は絵に描いた餅に終わってしまいます。

余裕資金を活用して外部からヘッドハンティングすることも一つの考え方ですが、その手を使うと、思った通りの展開にならない可能性が高くなるでしょう。いかに有能な人材で、目の前の数字が上がったとしても、前の塾のノウハウで進めてしまい、長い目で見て、結果的に自分が意図した教育や運営とかけ離れてしまう場合が多いからです。

したがって、最低でも1年は一緒に教室運営を行った人材を、プレイングマネージャー(教室長)として任命することが重要になります。

アルバイトの講師を育成するのが近道

人材を確保するのに現実的な手段は、雇用しているアルバイトの中で最も優秀な講師を教室長に抜擢することです。講師が昔、塾に通った元生徒であれば、生徒としての成功体験を持ち、さらに講師として教えることで、その塾で教えることにやりがいや喜びを見出している可能性が高く、まさに新たな教室の適任者となり得ます。

しかし、そうした人材を短期間で育てることは難しく、初めから将来的な多教室化の構想があるのであれば、2教室目を作る1、2年前から幹部候補となるアルバイト講師に目を付け、運営ノウハウも伝授するなど、育成を図っていく長期的な視点が重要となります。

立地:近場に教室を作る“塾版ドミナント戦略”

全く知られていないゼロスタートはリスク

2教室目が開校した場合、「どれだけ短期間で目標の生徒数を集められるか」が勝負のカギを握ります。いつまでも十数人の生徒だけで運営していると、月々の固定費が重くのしかかり、赤字体質から抜けられなくなります。

大切なのは、周辺の数ある塾の中で認知され、「選んでもらえる」土俵に上がることです。ただ、その地域で全く知られていない個人塾が開校されても、生徒や保護者の選択肢に入ることは非常に困難でしょう。

生徒を転塾させ、最初から一定数を確保

そこで、取るべき有効な選択が、最初の塾を立ち上げた駅の隣の駅など、近場に教室を作る“塾版ドミナント戦略”です。中学生向けの塾であれば、ターゲットとなる中学校の生徒が新旧どちらでも通えるロケーションに2つの教室を構えるのです。

こうすれば、最初の教室の生徒の数人~十数人は新しい教室に移ってもらう相談ができ、加えて、講師も両方の塾を掛け持ちすることが可能になります。それらの生徒や保護者が学校で「新しく隣駅にも開校した」と口コミを広げてくれれば、生徒集めの一助にもなります。最もリスクが高い「ゼロからのスタート」を回避でき、新しい教室を軌道に乗せやすいことが、このドミナント戦略のポイントです。

募集:集団指導と個別指導で異なる生徒の集め方

集団指導塾こそスタートダッシュが必要

ドミナント戦略で一定数の生徒から始めた後は、できる限り短期間で生徒を目標数確保し、事業を安定化させる“スタートダッシュ”が必要となります。銀行から資金を借り入れている場合、長い間目標未達成が続けば、資金ショートを起こす原因になるからです。

特に集団指導塾は短期間での目標達成をより重視するべきです。集団指導では最低でも文系、理系の講師を一人ずつ雇用する必要があり、たとえ生徒が数人しかいなくて募集が不調でも2人分の固定費が毎月かかるためです。

また、集団指導では、カリキュラムが進んでしまった途中から入塾する生徒は少ないため、年間で生徒を集めるチャンスが、年度前の2~3月と7月の夏期講習の実質2回しかないことも注意点です。つまり、この2回を逃すと新たな生徒募集は望み薄となります。だからこそ、最初のチャンスである2~3月に広告宣伝を積極投下し、一気に生徒を積み増すことが重要になります。

個別指導は比較的緩やかな生徒集めが可能

一方、個別指導塾は、生徒が集まらなければ追加で講師を雇う必要が無いため、人件費は変動費となり、集団指導に比べると、ある程度余裕を持った生徒集めが可能です。入塾のタイミングも基本的にはいつでも良いという利点があります。

春の募集が不調に終わっても、5月の中間テスト前や、終わった後に点数が取れなかった生徒向けに広告を打つなど、こまめな募集戦略が可能になります。ただし、家賃は固定費としてかかるため、個別指導であっても、目標生徒数の達成が早まるに越したことはありません。

個別指導塾であれば、30人、集団指導塾であれば50~60人が最低限目標としたい生徒数といえるでしょう。