新年度の入塾生を夏休み明け以降も継続してもらうためには、4月から6月までの「内部充実」が大きなカギです。そこで、この時期に集中的に行っておくべき具体策と、その理由や効果をご紹介します。
監修いただいた先生
なぜ4月〜6月の内部充実が必要なのか
内部充実とは自塾の価値を向上させ、勉強に対する真剣な姿勢やテスト結果などで、生徒や保護者の満足度を引き上げることです。特に4〜6月は、内部充実の影響を大きく受けます。それは、新年度入塾生と保護者が夏以降の継続と退塾の判断を行う時期です。新年度入塾生の引き続きの継続(=退塾しない)は、後の1年間の売り上げはもちろん、生徒数の維持や向上に影響するからです。
特に夏休みに実施する夏期講習は塾の売り上げに大きく影響します。例えば1000人の塾のうち、900人が4〜6月までに入塾しているとします。900人が継続した状態で全員が夏期講習を受講すれば、900人分の売り上げが立ちます。しかし、継続した生徒が850人にまで減ったとすれば、夏期講習の売り上げは850人分です。
さらに、夏休み明け以降の新規入塾生の数は一般的に少ないため、売り上げへの影響は1年どころか、それ以上に渡ることになりかねません。そのため、新年度の新規入塾生徒の継続のためには4〜6月の内部充実が特に重要なのです。
また塾生の勉強に向かう姿勢や成績の結果は「夏期講習会生募集」にも影響してきます。
退塾防止=生徒のポテンシャルを引き出す視点が大切
継続して塾に通ってもらうためには、新年度の最初の定期テスト(6月頃)への対策に力を入れることが一般的でしょう。しかしながら、定期テストの得点だけにとらわれていては意味がありません。生徒本人が本来持っている、やる気、向上心、覚悟、動機などを引き出し、自らが勉強をする姿勢を引き出すことが、定期テストの得点につながり、その結果「内部充実」と「退塾防止」につながるものだからです。
最初からやる気を引き出しきれずとも、生徒へのアプローチを続け、何かしらの変化や、その兆しを見つけていきましょう。そしてそれを生徒や保護者に伝えて、今後「自分は変わっていけるかもしれない」「この子は伸びていくかもしれない」と希望を持ってこらうことが重要です。
それでは、4〜6月の内部充実=生徒(保護者)の満足度を引き上げるためには何をすれば良いのでしょうか。その方法を具体的に解説します。
①入塾手続きで「マインドセット」
入塾手続きの際には、授業料の徴収方法の説明などに終始しがちです。しかし、それよりもどういう風に自塾が授業を進めていくかを具体的に伝えることが重要。例えば1年間のテキストを見せたり、問題数を具体的に伝えたりしましょう。
生徒に「この1年間で数学の問題は1,036問を解くからね」と伝えると、「えー!そんなに!?」と驚くはずです。そこですかさず「最初はそうやって驚くけど大丈夫、みんなで頑張るから一緒にやろう」と伝えましょう。「これが塾では当たり前だ」と、まずは生徒や保護者のマインドセットをすることが大切です。
塾は教育の場です。他人が頑張っている姿を見て、自らが頑張ったり、その姿がさらに他の生徒にも良い影響を及ぼすといった、「入塾者全員で良きチームになる」ことを目指しましょう。
②常に先手を打つ
まず、今後1年間の流れを早い段階で示しましょう。3月・4月に、夏期講習のことをぜひ話題にしてみてください。「夏休み期間中は、昼の時間に復習講座を実施しています。Aくんが行きたい高校に合格した去年の先輩は100%受講しているよ」と伝えたり、「今勉強している内容の発展版は夏期講習の復習講座で教えます」「高校受験にとってとても大切な内容だから、夏期でもう一度解説します」などと、先々につながるアナウンスをしておきます。
確認テストのちょっとした余白も活用できます。余白に「この内容は夏休みの特別選択講座で復習します!」と書いたり、合格した先輩たちの4月、5月、6月の平均勉強時間を数字で具体的に示し、少しの危機感を持ってもらうことも効果的です。このように、日々の中でいかに伏線を準備しておくかが大切です。誤解なきように補足をすると、目標の実現のために必要なことを前もって示しておくという、生徒目線の考えが当然前提にはあります。
③生徒と保護者をより良く知っておく
最初の3カ月は生徒のことをより知るために必要な期間でもあります。どの高校に行きたいのか、なぜその高校に行きたいのか、そして将来はどんな職業に就きたいのか、なぜその職業に就きたいのかという風に、具体的に知るように心がけましょう。
これには生徒自身に目標を再確認してもらうことはもちろん、本人の目標や就きたい職業を無意識に否定しないようにする意味もあります。無理に聞き出すことは避けた方がいいですが、そういった観点から、保護者の職業も知っておけたら良いと思います。
また、誕生日や部活動での活躍も聞いておいてください。「お誕生日おめでとう!」「新聞で見たけどこの前の大会で入賞してたね!」と声を掛ければ必ず喜んでもらえますし、その日の授業の集中度も増すことでしょう。
④集中できる授業を目指す
一番大切でありながらも非常に難しいのが、定期テスト対策を必要としないぐらい質の高い授業を日頃から行うことです。定期テスト対策をしなくて良い授業とは、特別な対策を実施しなくても、通常の授業で集中して理解し、おのずと良い得点を取れる授業のこと。
そのためには、生徒の集中力をいかに高められるかがポイントです。特に最初の2分が勝負。下記のトーク例を参考に検討してみると良いでしょう。
<トーク例>
講師:さぁみんな、京都の金閣って何階建て?
生徒:3階建てです。
講師:どこに金が塗られている?
生徒:あれ?全部に金が塗られていると思ってたけど、塗られているのは2階と3階。
講師:なぜだかわかるかな?
生徒:う〜ん。わかりません。
講師:1階は書院造りで天皇陛下をはじめとする貴族の住まい。2階は、武家づくり。武士の住まい。書院造より武家づくりが上にあって、さらに金が塗っている…ということは、武士の方が上だという…。
それで、これを誰が作ったかというと、足利義満。足利義満は当時の天皇とはいとこ同士で、普通の人たちが天皇陛下を見る感覚と異なるんだよね。この世の中は武士が動かしてるんだ!という自負があるということが見て取れるね。
それと、3階の窓の形も変わっているよね。これは中国の窓に似ているよね。当時、義満は日明貿易をしていて一隻の船が無事に帰国すれば、今のお金に換算すると10億円の収入があったと言われているんよ。まさしく、中国が大切な相手ということだね。
おそらく金閣は接待の場所としても使われていたはず。中国の使者が金閣に招き入れられて、自分の国の造りが最上階にあって金が塗られている。とても気分が良いだろうし、話がトントン拍子に進む。ちなみに屋根に立っている鳥は一万円札の裏側に描かれている鳥で、鳳凰って・・・。
すごいよなぁ、金閣にこういう意味があるんだよね。でも本当に中国の窓かなあ・・・
生徒:先生、早く知りたいです!あっ私は自分で調べてみたい!
講師:じゃあ、今日は小学校の時にも習った室町幕府について勉強しようか。
定期テスト対策も実施しながらも、一つの題材から知的探求な内容を展開すれば、生徒が本来持っている「学びたい気持ち」を引き出すことになると思います。「良い授業」という塾の価値の源泉については、また別の機会でも触れたいと思います。
⑤お手本となる「先輩」を育てておく
新年度は、多くの塾が新規入塾生の獲得に終始しがちですが、もっと大切なものがあると思います。それは、内部生の勉強に対する姿勢が、新規入塾生に大きく影響を与えるという認識です。
たとえば、講師から「勉強しましょう!」と言われるより、周囲の同級生が真剣に勉強に打ち込む姿を目にするほうが、新規入塾生の勉強意欲を駆り立てることができると思います。クラスの雰囲気こそ新規入塾に影響を及ぼすのではないでしょうか?
勉強への意欲を駆り立てるためには、下記のような貼り出しも効果的です。
・定期テストの高得点者の結果や点数アップの結果
・合格者の情報
・入塾後3ヶ月後の定期テストで低迷しつつも、夏を境にグッと伸びて、志望校に受かった先輩の事例など
明日の顧客ばかりを追ってしまうと、今いる顧客を失ってしまう可能性もあります。十分に留意しておきましょう。
⑥保護者への接触頻度を上げる
塾に通い始めて最初のうちは、「塾に通わせると急に勉強し始めた」「今まで自分の部屋で勉強したことがなかったのに、どうやらテキストを開いて勉強しているみたい」などと、生徒の自宅での過ごし方に変化の兆しが見られることが多いでしょう。また、「今日、先生が金閣の話をしてくれた!」などと、塾での出来事が食事の話題に上がることがあるかもしれません。
しかしながら、全員の生徒が塾での出来事をご自宅で積極的に話すとは限りません。そのため、塾側からこまめに報告をすることも大切です。「今日、とても集中して勉強していました」「誰よりも早く解けて、正答率は9割でした」といった報告に加えて、授業に集中している後ろ姿や、びっしりと書かれたノートの写真を一緒に送るとなお良いでしょう。
成績が思わしくない生徒の保護者には、事実と改善策を報告すると良いでしょう。「数学の三平方の定理の部分は、まだまだクラスの平均点から12点下回っているので、次回以降はこういう指導を検討しています」などと具体的に伝え、その指導結果を必ずフィードバックするようにしましょう。上記を速やかに遂行するために、特にご家庭への連絡方法(手段)を考える必要があると思います。
⑦塾全体で情報を共有する
ベテランの講師であればあるほど、ノウハウは膨大に蓄積されているはずです。自身の授業を映像化するなど、これまでに活用した資料を塾全体に共有し、全員が良い講師になることを目指しましょう。
また、個人塾であっても、下記のような方法で簡単にアプローチ方法を検討することも可能です。
生徒に、次の期末試験に向けての決意と具体的な目標を書いてもらいますその決意と目標に加えて、その生徒の現時点での得点レベルから指導方法を検討します。Excel等を活用してフォーマット化しておけば、時系列でそれぞれに生徒に行うべきアプローチが見えてくるでしょう。
<得点レベルによる指導方法例>
上位層:点数の張り出しを見てやる気に
(例)ライバル視している生徒の点数を見てさらにやる気に
中間層:具体的な勉強方法を明示
(例)
・テキストの何ページから何ページまで
・問題を解き終えたら見せに来るように伝える
・ノートの取り方を指導する
下位層:数字で指示を出し、効率的に学べる工夫を
(例)英単語は使っているアルファベットと同じ数を書いて覚えましょう
dog=3回、interesting=11回など
⑧自身が「魅力ある講師であるか」を客観視する
前述のような対策を講じるには、実行する講師自身が魅力的な人物であることが必須です。以下のようなポイントを改めて見直しておきましょう。
<チェックポイント>
・清潔な身だしなみ
・理解しやすい言葉で説明しているか
・分かりやすい講義を実践できているか
・生徒を知り、理解しようとしているか
自塾の分析をして、年中必要なアプローチが取れるように。
特に新年度入塾生へのアプローチとしていくつかの具体策を紹介しましたが、大半は新年度入塾生に限らず多くの生徒へのアプローチに通じる内容です。
ぜひ、自塾の自己分析を行ってみてください。どの時期に入塾が増えていて、どの時期に退塾が増えているか。また、退塾している生徒の得点を把握し、何点以下になると退塾が増えているかなども細かく見てみましょう。このアプローチが役立つシーンは、年中あるはずです。
そしてここまでいくつかの具体例をあげてきましたが、塾の内部充実は、さまざまな要素から成り立っています。一番大切なのは講義の質です。その他にも上記のような点は大切ですが、生徒目線で考えると「勉強が好きになる」「成績があがる」というのが重要なので、シンプルにそこに向き合うことが一番大切です。
そのように生徒全員に対して丁寧に向き合うことが、勉強に対する真剣な姿勢という内部充実につながります。そうすれば、新規生は増え、退塾は減り、その結果塾経営は安定し、今後の売り上げアップも見込めるようになるでしょう。