
コミマグ編集部が、全国各地の塾経営者の塾づくりへの思いや取り組みを聞く「学び紀行」。今回は東京都小平市で4校舎を展開する「学習塾Canpass」の代表・千葉康平氏にお話を伺いました。 2018年に開校した学習塾Canpassは、塾業界の「当たり前」への違和感から生まれました。 生徒一人ひとりに向き合い、成績向上に寄り添うには、塾はどのような環境であるべきなのかーー。その問いを出発点に、社員講師による指導、料金体系の透明化、無料補習日の設定など、従来の塾の常識にとらわれない仕組みづくりを続けてきました。 前例にとらわれない取り組みはどのようにして生まれたのか。創業の背景と、これまでの歩みについてお話いただきました。
▼教室紹介
2018年開業。東京都小平市に4教室を展開する地域密着型の学習塾。生徒が通う学校に特化した指導で、多くの生徒の成績向上を支えている。全学年を専任講師が指導、無料補習日の設定、透明な料金体系など、塾業界の常識を覆す指導と環境づくりにも注目が集まる。
学習塾Canpass(キャンパス)
東京都小平市
https://canpass-class.com/
▼千葉康平さまご紹介
大学卒業後、多摩地域の学習塾にて5年間、講師として現場の最前線に立つ。2018年に独立し、合同会社キャンパスを設立。自身の教育理念を形にした「学習塾Canpass」を開校。
現在は創業9年目を迎え、東京都小平市を中心に「学習塾Canpass」3校舎、および「個別指導Polariss」の計4校舎を経営。現場経験を活かした独自の校舎運営と、地域に根差した教育サービスの提供に尽力している。
塾業界の「不透明さ」への違和感が出発点
大学時代から塾講師のアルバイトをし、卒業後は30教室以上を展開する学習塾で講師として働いていました。実は、塾をつくるという構想自体は、学生の頃から講師仲間の友人と語り合っていたことだったんです。アルバイトをする中で、「なんで塾ってこういうやり方をするんだろう」と感じることが多かったからです。
たとえば、料金の不透明性。入塾時には授業料の説明があっても、季節講習や特別講座があれば追加費用が発生します。年間でどれくらい費用がかかるのかが分かりにくいケースもあります。生徒や保護者が追加料金を気にして、本来受けたい指導を受けるのを躊躇してしまうことも少なくありませんでした。
友人とそんな違和感や、本来の塾のあり方を語り合いながら「自分たちで塾をつくれば、もっといい塾ができるんじゃないか」と話していました。
大学卒業後、私はそのまま学習塾業界へ。一方で友人は一般企業に就職し、それぞれが経験を積みながら独立の準備を進めていきました。
そして2018年、友人とともに合同会社キャンパスを設立。塾業界で感じてきた違和感を、自分たちなりの形で解決したい――その思いが、Canpassの出発点になっています。
生徒に向き合うために、塾の「当たり前」を変える

Canpassでは創業当時から、生徒が安心して学びに向き合える環境をつくるため、塾業界では当たり前とされてきた仕組みを見直してきました。
その一つが、料金体系の透明化です。Canpassでは、年間にかかる費用を入塾時に提示する仕組みを段階的に取り入れています。
こうした仕組みにしているのは、費用を理由に生徒の学びの機会が制限されてしまう状況をなくしたいと考えているからです。塾業界では、季節講習や特別講座などを追加で受講することで成績向上や売上UPを目指すケースも少なくありません。ただ、「追加講座を受けなければ成績が上がらない」という設計でよいのかという疑問もありました。
そこでCanpassでは、平日の授業とは別に土曜日を無料の補習・対策の時間として設けています。苦手分野の克服や検定対策、授業の振り替えなど、生徒が必要な学びに柔軟に対応するための時間です。追加料金を気にすることなく補習や質問ができる環境を整えることで、生徒が学びに集中できるようにしています。
もう一つの特徴が、社員講師による指導体制です。Canpassでは大学生アルバイトに授業を任せることはなく、授業や面談はすべて社員講師が担当しています。講師による指導の質のばらつきを防ぎ、保護者が安心して任せられる体制を整えました。
人件費はかかりますが、事務スタッフを置かず、事務作業や掃除を私も含めて社員で分担することでコストを抑えています。季節講習や特別講座の提案などの営業業務がないため、業務に追われることも少なく、授業や生徒対応に時間を使える環境になっています。
生徒が通う学校に特化した指導で成績向上を支える

Canpassでは、校舎ごとに対象とする中学校を絞り、学校ごとの授業内容や出題傾向に合わせた指導を行っています。各校舎の商圏を特定の2つの中学校に絞ることで、地域の学校事情に深く対応できる体制を整えました。
定期テスト対策では、各学校の先生の出題傾向や過去の問題も分析しながら指導内容を設計しています。分析にはAIも活用し、問題の傾向やワークからの出題率、重要単元などを把握することで、より効率的な学習につなげています。
また、対策は主要5教科だけではありません。内申点に影響する副教科についても対策を行い、学校の評価基準を踏まえた学習サポートを実施しています。
こうした学校ごとに最適化した指導によって、生徒の成績向上だけでなく、内申点の向上にもつなげています。
新教室を半年で閉鎖という苦い経験も
うまくいかなかった経験もあります。創業して2〜3年ほどの頃、新しく出した教室をわずか半年で閉鎖することになりました。
最初の教室では、入塾のお問い合わせをお断りしなければならないほど多くのご相談をいただくようになり、新しい校舎の設置を決めました。しかし、程なくコロナ禍となり、集客が思うようにいかなかったんです。
出店には当然、時間も費用もかかっています。ただ、それらはすでに投資してしまったサンクコスト。そこに引きずられて判断を遅らせるのではなく、この先の経営にとって何が最善かを考える必要があると思いました。
結果として、開校から約半年で撤退を決断。続ければ赤字が広がる可能性もありましたし、早い段階で方向転換をすることが必要だと判断しました。
振り返ると、このときにサンクコストにとらわれず撤退を決められたことが、その後の経営を守ることに繋がったと思っています。その後、改めて出した新しい教室では、エリアやターゲットとなる中学校をより明確に設定する形で展開し、安定運営に繋げることができました。
校舎が増える中で直面した「理念共有」の壁

校舎が増える中で、新たな課題にも直面しました。3校舎に増え、社員も10名を超える規模になると、理念やビジョン、現場での指導方針が、社員全体に十分に共有しきれなくなってきたのです。
これは1校舎や2校舎のときには発生しなかった問題です。私自身も日々現場に足を運び、同じ場所で働いていたため、考えていることは自然と伝わっていました。
しかし、規模が大きくなると接点も減り、自然と伝わっていた理念やビジョンも共有しにくくなります。同じ塾でありながら、それぞれの校舎が別の教室のようになってしまうリスクも感じました。「伝わっているはず」と思うのではなく、意識して共有していくことの大切さを実感した瞬間でした。
そこで取り組んでいるのが、年に2回の経営計画発表会です。年度初めの3月と、決算後の7月頃に全社員を集めて実施しています。そこでは塾としてのビジョンや中期・長期の経営計画、具体的な戦略や売上などを共有し、組織として同じ方向を向けるようにしています。
また、役職や経験に応じた社員研修の仕組みも整えています。校舎が増え、社員が増えても、創業時に大切にしていた考え方や指導の姿勢がきちんと現場に根付くよう、組織としての基盤づくりを進めています。
小学生から大学受験まで。地域に特化して学べる環境を整備
今後は、小学生から大学入試まで一貫した教育指導を地域の中で提供できる体制を整えることを目標にしています。2028年までに、中学受験専門塾と高校生向けの大学受験専門塾を開設する予定です。地域の生徒の一人ひとりの人生に向き合い、長いスパンで学びを支えていきたいと考えています。
高校生向けの大学受験指導では、既存の良質な映像コンテンツも活用しながら、学習計画の設計、進捗管理、受験スケジューリング、質問対応といった伴走型のサポートを行うことを想定しています。
映像授業を視聴するだけでは学習は定着しません。塾側が学習サイクルを管理し、理解度を確認しながら進めていくことで、合格に向けた学習を継続的に支えていきたいと考えています。
一方で、校舎や社員が増えるにつれて、業務管理の仕組みづくりも課題になってきました。これまでGoogle Workspace(スプレッドシートやGoogle Apps Script)を活用してさまざまな業務システムを自作してきたのですが、仕組みが増えるにつれて全体が複雑になってきています(※)。
今後は、こうしたシステムを整理・標準化しながら、より効率的な運営体制を整えていく必要があると感じています。
業務の効率化は、単に作業を楽にするためではありません。仕組みを整えることは、結果として生徒一人ひとりに向き合う時間を増やすことにもつながると考えています。塾としての基盤を整えながら、地域の生徒が安心して学び続けられる環境をこれからもつくっていきたいと考えています。
(編集後記)
料金の透明性、講師の責任体制、地域に特化した指導。
キャンパスの取り組みからは、塾業界で当たり前とされてきた仕組みを改めて問い直そうとする姿勢が伝わってきました。
特別講座に頼らず通常授業で成果を出すこと。追加費用を気にせず学べる環境を整えること。そうした仕組みの背景には、「本当に生徒のためになる塾とは何か」という問いがあるように感じます。
地域の学校に向き合いながら、生徒と保護者にとって安心できる学びの場をつくる。その積み重ねが、地域からの信頼につながっているのかもしれません。
※ Google、Google Workspace、Googleスプレッドシート、Google App Scriptは、Google LLC. の商標または登録商標です。
















