塾の授業の質は、講師の力に大きく左右されます。どれだけ教材やカリキュラムが充実していても、教える人がやる気を失っていては、生徒の成績もモチベーションも上がりません。
では、講師のやる気を引き出し、長く成長し続けてもらうためには何が必要なのでしょうか。その答えの一つが「評価制度」です。
評価は単なる査定や給与決定のための道具ではありません。講師にとっては「自分の頑張りを見てもらえている」という実感を与え、成長の方向性を示すコンパスになります。そして、その評価を具体的なインセンティブ(成果報酬)と結びつけることで、行動変化が一気に加速します。
評価の基本方針
塾・スクールのアルバイト講師を評価する目的は、単に成績をつけることではありません。大きく分けると、次の2つがあります。
辞めさせないこと(定着)
せっかく育てた講師がすぐ辞めてしまえば、生徒や保護者の信頼も揺らぎます。評価されるということは、講師にとって「ここで続ける価値がある」「認めてもらって成長できる」と思わせるメッセージになります。
教える技術と意識を伸ばすこと(成長)
講師が授業の質を高めることや、生徒や保護者とのコミュニケーションスキルを高めることは、生徒・保護者の満足度や継続率に直結します。そのため、評価する項目は、授業スキルだけでなく、準備や態度、コミュニケーションなどの行動面も含めます。
数字と行動の両面から評価することで、「授業は評価できるが、コミュニケーション面で課題がある」「授業準備や態度は完璧だが授業内容に改善点あり」といった具体的な成長課題を提示できます。
基本給アップよりインセンティブ
評価制度というと「給料を上げる」ことを考えがちですが、基本給の増額は固定費が膨らみ、長期的に運営を圧迫しやすいです。さらに、固定給は一度上げると下げにくく、講師の行動改善にも直結しにくい傾向があります。
長くておよそ4年の期間限定だということもあり、短期目標に紐づくインセンティブが良いでしょう。インセンティブなら、達成ごとに支給額や特典を変えられ、講師は「次も頑張ろう」と思いやすくなります。
<インセンティブの設計例>
担当生徒の成績が20%UPしたら3,000円(※)
授業後アンケートの平均4.5点以上で月5,000円支給
新規入塾のきっかけ(入塾アンケートで指名あり)になったら10,000円
友人紹介で講師として採用されたら10,000円
※担当生徒の定期テスト等の点数が20%UPしたら該当生徒一人当たり3000円、担当生徒の成績UP率が1位の講師には3000円など。
以上の例のように、行動や成果が明確に反映されるルールにすれば、モチベーションと行動改善が同時に進みます。
インセンティブ設定のコツ
インセンティブはただ「やればもらえる」だけでは効果が長続きしません。講師が継続的に頑張れるように、次のポイントを意識して設定しましょう。
基準を明確にする
「頑張ったら○○円」という曖昧な評価では、講師は何をすればよいかわかりません。授業アンケートの数値や、生徒の宿題提出率など、客観的な指標(数字)を使いましょう。
達成可能で、少しだけ難しい基準にする
達成目標が低すぎるとモチベーションは上がりません。逆に、ほとんど達成できない基準では諦めてしまいます。「あと一歩で届く」ラインがベストです。
短期サイクルで支給する
半年や1年に1回よりも、学期ごとで評価して支給すると効果が高まります。行動と報酬が近いタイミングで結びつくほど、行動は定着します。
バリエーションをつける
金銭だけでなく、商品券、書籍代補助、講師向け研修の参加権なども有効です。学生のアルバイト講師は「成長につながる特典」も良さそうです。
お金以外の評価方法と両輪でまわす
インセンティブは強力な手段ですが、お金だけでは講師のやる気は長く続きません。心理的な満足感や承認欲求を満たすことも大切です。
学期ごとや、夏休み・冬休みの期間講習ごとに「ベスト授業賞」「生徒アンケート1位」などと表彰したり、その際、教室の掲示板などでフィーチャーしたりするのも、本人の自信につながるでしょう。1年に1回「◯◯塾アワード」として表彰と慰労の会を設けるのもいいですね。やる気につながるだけでなく、就活でのアピール材料にも活用できるでしょう。
また、月に一度、短時間でも講師と個別面談を行い、良い点と改善点を具体的に伝えるのも良いと思います。「あなたの授業のこういうところが生徒に人気だよ」と言われるだけで、講師は大きく成長します。
まとめ
アルバイト講師の評価は、辞めさせないための「つなぎ」ではなく、成長を促し授業の質を高めるための「投資」と考えましょう。基本給を上げるのではなく、達成感を伴うインセンティブやお金以外の評価を組み合わせることで、講師は長く、前向きに働き続けてくれます。
評価制度は、教室全体の空気を変え、生徒や保護者の満足度を高める最も効果的な仕組みの一つです。今日から小さくても始めてみてはいかがでしょうか。