「それって指導?それともパワハラ?」塾長・教室長が講師を指導する時に気をつけたいこと【Comiruハラスメント研修】

監修いただいた先生

前回の記事では「講師から生徒への指導とパワハラの境界線」をテーマに、パワハラにならない伝え方についてご紹介しました。今回はその続編として、「塾長・教室長から講師への指導」に焦点を当てます。


参考記事:それって指導?それともパワハラ?塾講師が知っておきたい言葉の境界線【Comiruハラスメント研修】

 

特に、大学生のアルバイト講師に対しては注意が必要です。彼らが受けてきた教育は、塾長世代が経験してきたような上下関係を重んじる指導や、体育会的な熱血スタイルではなく、対話を重視した個別最適な教育や、対等な立場でのコミュニケーションが基本です。そのため、ハラスメントや威圧的な指導に対しても敏感です。

教える力や責任感を育てたい一方で、伝え方を間違えると「怖かった」「もう行きたくない」と、すぐに離職してしまうことも…。「自分たちはこう教えられてきたから」といった価値観は、今の大学生講師には通用しません。

 

でも、せっかく縁あって働いてくれているなら、できれば長く続けてもらいたい。将来的に社員として活躍してくれたら、採用や教育の手間も減って、教室としても大きな戦力になります。

そんな“未来の仲間”を育てるために、今一度見直したいのが「講師への声かけ」です。

こんな言葉、つい言っていませんか?

教室長や塾長としては、「指導のつもり」「良くなってほしいと思って言ったこと」でも、若手講師にとってはプレッシャーになりすぎてしまったり、「自分には向いていないのかも…」と感じてしまったりすることがあります。

 

大学生講師は社会人経験も少なく、まだ“怒られること”や“厳しい言葉”に慣れていない場合が多いもの。だからこそ、ほんのひと言でやる気が削がれたり、「もう辞めよう」と決断してしまったりすることも少なくありません。

 

ここでは、指導の現場でつい口にしがちなNGフレーズと、講師の心を守りながら成長を促す言い換え例を紹介します。「育てる」視点で、声かけを見直してみましょう。

①遅刻や休暇の取り方など勤務に対する指導

「また遅刻?どうなってるの?」

 

【注意点】

責め口調で、反省よりも不安を煽り、萎縮を生む可能性があります。

【言い換え例】

「次回からは余裕を持って出勤できるように気をつけよう」「シフトを調整し直した方がいいかな?」

 

問題を一緒に解決しようとする姿勢を見せることで、講師も改善しようと感じやすくなります。ただし、数分であっても遅刻が続いたり、大幅に遅刻したりするようではそもそも時間にルーズな可能性があります。この場合は改めて対応が必要です。

 

「◯◯◯夏休みもっとシフトいれてよ」

 

【注意点】

夏休みなど長期休暇中の学生は帰省や旅行など、アルバイトより優先したいこともあるはずです。特に夏休みは学習塾にとっても大事な時期。そんな会社都合を押し付けるのは重荷に感じるかもしれません。

【言い換え例】

「夏休みのシフト、もし入れる時間があれば助かるんだけど、どうかな?」

 

→ アルバイト講師に無理強いせず、柔軟に聞く姿勢が伝わります。

②生徒への対応に関する指導

「そんな説明の仕方じゃ生徒が理解できないだろう」

 

【注意点】

生徒の授業態度や成績を講師だけのせいにするのはプレッシャーを感じてしまいます。何がいけないのか、どうすれば良いのか、適切なアドバイスを。

【言い換え例】

「生徒が少し集中できていない場面があったね。どうしたらもっと興味を持ってもらえるかな?一緒に工夫していこう」

 

→ 具体的な改善策を一緒に考え、指導の方向性をポジティブにする。

③保護者への対応に関する指導

「保護者にきちんと伝わっていないよ。なんでそんな言い方したんだ」

 

【注意点】

「責めるトーン」で話すと講師側は委縮してしまいます。なぜだめだったかもわかっていないかも。何がいけなかったか、言ってしまったことについてどう対応するかを冷静に伝えましょう。

【言い換え例】

「次はこういう流れで話すとスムーズだと思うよ」

 

→ そもそも保護者対応は教室長・塾長が行うべきこと。アルバイト講師にその一部をお願いする場合は、トーン&マナーはもちろん、トークスプリクトなどマニュアルを用意しておきましょう。もちろん、コミュニケーションが取り辛い、または難しい保護者の対応は講師にやらせるべきではありません。

④講師との何気ない会話に潜むパワハラ発言

「◯◯ちゃん、最近ちょっと顔色悪いよ。元気ないんじゃないの?何かあったの?」

 

【注意点】

「◯◯ちゃん」と名前を呼ぶこと自体が馴れ馴れしいと感じることがあります。講師との適切な距離感を意識して、あまり親しくなりすぎないように気をつけることが大切です。また、健康状態に関する発言や、何か悩みがあるの?といった問いは、プライベートに踏み込みすぎと感じる人もいます。気にかけてるよ、という姿勢だけ伝われば良しとしましょう。

【言い換え例】

「最近、少し忙しそうにしてるけど、大丈夫かな?無理せず、何かあれば言ってね。」

 

→ 講師を気遣う表現にし、親しすぎないトーンで話すことがポイントです。

⑤人目のあるところでの注意・指導

(生徒や他の講師がいる場面で)「今言わなきゃダメだと思うから」とこんこんと注意

 

【注意点】

生徒や他の講師など他の人の目のある場所での指摘は、たとえどんなに正しいアドバイスでも萎縮させてしまいます。プライドを傷つけられたと思われる危険性も大。指導は他の人の目のない場所で行うのが基本です。

【言い換え例】

「後で少しだけ話せる?」

 

→フィードバックの場を落ち着いて設定することが重要

講師側のホンネ:「こんな時、ちょっときついなって感じます」

いくら指導のつもりでも、「こういう言い方はつらい」「自分には向いてないのかも…」と思わせてしまえば、それは離職のきっかけになってしまいます。

実際に、アルバイト講師からよく聞かれる“モヤっと体験”をまとめてみました。

 

「やる気ないの?」って言われると、一気に気持ちが冷める
雑談のつもりでも“他の講師と比べられる”とプレッシャーになる
保護者対応で失敗したあと、「信じて任せたのに」って言われて、すごく落ち込んだ
忙しいのはわかるけど、注意されるときに目も合わせずPC打ちながらだと、すごく軽く扱われてる気がした
指導のつもりなんだろうけど、「◯◯さんは言わなくてもやれた」「普通はできるよね」って言われると、自分が劣ってるように感じる


大切なのはフィードバックの仕方です。叱るのではなく、“共に考える”スタンスでのコミュニケーションを心がけましょう。「どうしてこうなったか」「次はどうすればいいか」を一緒に考えてもらえると、講師側も「見てもらえてる」と前向きに受け取れることができます。

塾長・教室長のための、講師指導・パワハラ防止チェックリスト

パワハラを避けるために気をつけるべきポイントをご紹介します。日々のコミュニケーションを見直すために、ぜひセルフチェックの習慣を!

 

✅ 指導の「目的」を意識できているか?

□ 自分の感情をぶつけるためではなく、講師の成長のために声をかけている

□ 相手が納得し、前向きに動ける伝え方を考えている

 

✅ 関係性を築いたうえで伝えているか?

□ 日頃から「見ている」「気にかけている」ことを伝えている

□ 初対面に近い講師に、いきなり厳しい口調で注意していない

 

✅ 感情的な言い方をしていないか?

□ イライラしたときは一呼吸おいてから声をかけるようにしている

□ 指導のトーンが高圧的になっていないか、後から振り返るようにしている

 

✅ 「人格」ではなく「行動」に対して伝えているか?

□ 「やる気がない」「向いてない」などの決めつけはしていない

□ 「今日は挨拶がなかったね」など、具体的な事実を指摘するようにしている

 

✅ 講師の立場や状況に配慮しているか?

□ 学業や他のバイトと両立していることを理解している

□ 無理なシフト希望や、圧をかけるような頼み方をしていない

辞めさせないために、育てる視点を

アルバイト講師は、イヤな気持ちになったら「辞める」という選択を簡単にとれる立場です。でも裏を返せば、「居心地の良さ」と「成長の実感」があれば、意外と長く続けてくれる存在でもあります。

 

もしかしたら将来、社員として一緒に教室を支えてくれるかもしれない──

そんな未来を思い描きながら、“辞めさせない指導”より、“育てる関わり方”を心がけたいですね。

 

参考記事:それって指導?それともパワハラ?塾講師が知っておきたい言葉の境界線【Comiruハラスメント研修】