学び紀行 麻布科学実験教室編:子どもに本物体験を。口コミだけで半世紀続く科学実験教室

コミマグ編集部が、全国各地の塾・スクール経営者の塾・スクールづくりへの思いや取り組みを聞く「学び紀行」。今回は東京都港区にある科学実験の名門塾「麻布科学実験教室」の代表・阿部昌浩氏にお話を伺いました。

 

麻布科学実験教室は、子どもたちに科学の楽しさを伝えるために、教育評論家で知られる阿部進氏によって48年前に創立。およそ半世紀の歴史を重ねる科学実験教室です。 趣向をこらし、様々な分野で子どもたちの興味がある実験を行っています。「子どもたちに本格体験を」をモットーに、専門家らによる唯一無二の授業が展開されます。

 

今では珍しくはないサイエンススクールですが、麻布科学実験教室が始まったのは48年前。父親から受け継いだ阿部室長の思いや、48年間子どもたちから支持される秘訣について、お話いただきました。

▼教室紹介

1978年開室。東京都港区にて科学実験の名門塾として愛されている。カリキュラムはすべてオリジナル。授業は週に1回、様々な分野の専門家による趣向を凝らした実験を展開。
http://www.azabu-cec.com/index.html

▼阿部昌浩さまご紹介

教育評論家の父が立ち上げた『株式会社創造教育センター』を母体とした『麻布科学実験教室』を受け継ぎ、室長として自らも40年以上講師を務め続けている。

48年前には珍しかった科学教室を父が開校。その意志を継ぐ。

教育評論家の阿部進が私の父です。もともと小学校の教師をしていましたが、退職後、『株式会社創造教育センター』を設立、主に「学校外の教育」に力を入れていました。その中の1つが山梨県忍野村の自然の中で行う合宿『野生学園』でした。そのエッセンスを活かし都会に開設したのが『麻布科学実験教室』です。

父の理念は確固たるもので、「子どもが自然と関わること、体験することで学びを深める」ということが事業の柱。そのためには実験だ!ということで、父が知り合いの理科の先生などに声をかけてスタートさせました。

私は当時大学生で、海洋学を学んでいました。将来はその道を研究しようと大学院まで進みましたが、夏休みに野生学園を手伝っているうちに、「こっちの方がおもしろそうだな」と思えてきて(笑)。結局方向転換しました。

一番最初にやった仕事は、会社の一部門である『劇団はかせ(着ぐるみショーなどを上演)』での<舞台から小道具を引き下げる役>です(笑)。それから40年になります。

 

昭和40〜50年代、世の中に学習塾もそれほどなかったと思います。大手の予備校があったくらいですね。そんな中で「科学の実験教室」ですから、とても特殊だったと思います。今でこそサイエンススクールは増えてはいますが、ようやく時代が追いついてくれた、自分たちがやってきたことが認められた、そんな風に受け取っています。

特殊な教室が長く続いている理由

特殊な教室が半世紀近く続けられている理由を考えてみると、まず挙げられるのが教室の場所です。今は東京タワーの麓に引っ越しましたが、開室したのは今の麻布台ヒルズが建っている場所でした。この地域ならではの、先進的な考えを持っている保護者が多かったと思います。他の地域だとこうはいかなかったかもしれませんね。

保護者に理系出身の方が多かったということもありません。子どもの教育に関して問題意識が高く、中でも理系的な素養に注目していた方が少なくなかったように思います。

もちろん集客は簡単ではありませんでした。初年度、生徒は8人。今のようにインターネットの口コミなんてありません。折込チラシを作ったこともあります。それでも、通ってくれた生徒さんのお友達、そのまたお友達という風に、評判だけで20人、30人と増えていきました。

講師は全員専門家。教育者ではないからおもしろい

当教室は社員2名で、あとは講師が8人です(2026年1月現在)。実は全員教育畑出身ではありません。講師は研究者として他の仕事をしている人がほとんどです。つまり、子どもに教えるノウハウがあるわけではありません。やっていることは、「自分の研究、やってきたことを伝える」ということだけ。本物に触れさせるんです。

例えば、光の専門家が行う光の実験など。その分野における第一人者ですから、目の前で起こることはまさに最先端。だからおもしろい。他にも、虫や魚の専門家が来てくれることもあります。実験も様々で、例えば「火山灰から鉱物を探そう」など。こんなこと、地質関係の人しかやらないですよね(笑)。人生にあまり関わらないようなことを、あえてやってみる。そこがポイントです。

各分野の専門家が集まって教室を作っているから唯一無二なんです。ですから、教室を増やす選択肢はあまりなくて、目の届く範囲で、一人ひとりに濃い体験をさせてあげたいと考えています。

年間216回分の教材はすべてオリジナル。リアルな体験こそが感動を生む

現在、小学生が120名、幼児が40名ほど通ってくれています(2026年1月現在)。みんな白衣を着て楽しそうに実験しています。

他のサイエンススクールだと、月に1日または2日、1回2時間くらいの授業が多いと思いますが、うちは週1回授業があります。教材はすべてオリジナル。小学生の場合、1学年36回の授業、6学年分で216回分のカリキュラムを全部自分たちで作っています。

理科の成績を上げる目的で来ている生徒さんはいませんが、結果的に理科が得意になります。例えば、学校の授業で使う顕微鏡は、レンズなど最初から用意されていて、覗けば何かが見える状態だと思いますが、当教室ではあえてアナログの顕微鏡を使っています。生徒たちはレンズを入れて、光を調整するところから始めなければいけません。しっかり見るためにどうすればいいかを自分で考える必要があります。

昔の科学者たちはみんなこうして努力なり工夫を繰り返してきました。便利な世の中に生きる今の子どもたちが、あえてこのようなことを体験することで、感動が生まれるわけです。パソコンで画像検索すれば難なく見られるものを、試行錯誤しながら見る、目の前で動いているものを見る感動は格別です。

東大に進学したある卒業生が、大学の研究所で「試験管を振るのがうまいね」と褒められたそうです。試験管の振り方も徹底して時間をかけて教えましたから、成果が出たんですね(笑)。

今はデータが揃っていて、それをコンピュータで分析して解析することがほとんどです。ですが、自分の手で採ってきた泥や土を機械にかけて、何が出てくるか目で見て確かめて分析する、そうやって初めて自分ごとになると思うんです。そういうことを、子どもに体験してもらいたいんです。

授業の回数が多いのも、幅広い分野を揃えているのも、子どもたちになるべく多くの経験をさせてあげたいから。その中から1つ2つでも得意なことを見つけてくれたらと思っています。

長い子は年少から小学校卒業まで9年間通ってくれましたね。この地域は受験する生徒さんが多く、5〜6年で休学するケースは少なくありませんが、受験が終わると晴れ晴れした顔でやってきて、卒業制作に打ち込む姿も見られます。

子どもが親に感動を伝えるから、教室の魅力が伝わる

教室の魅力を伝えるために、体験授業は保護者の方にも参加してもらっています。また、これがとても大事なのですが、生徒さんがその日取り組んだことを保護者に説明したり、やってみせたりできるように工夫しています。家にあるものでやってみせる、兄弟の前で披露する、そんなことを推奨しています。子どもって誰かに見せたいですしね。保護者も一緒に化石採取に行くプログラムもあります。親の方が必死になって掘りますよ(笑)

受験ではなく社会で役立つスキルを身につける

当教室で教えるのは、学校のカリキュラムとはまったく違います。正直、受験に役立つかもわかりません。結果的に受験にも役に立ちますが、そこがゴールではありません。

大切にしているのは、物の見方や考え方です。初めての物事に直面したときにどう思考するかを鍛えます。これはどんな社会に出ても役に立つことです。

卒業する生徒さんも、全員科学者になるわけではありません。そういうケースもありますが、多くは会社に就職して科学とは関係のない分野に進みます。それでも、卒業生たちに会うと、「あの時のこんなことが役に立ってるよ」と話してくれます。

半世紀変わらずこだわってきた本物体験。たくさんの発見から思考を深め、いろんなことにチャレンジできる教室であり続けたいですね。

 

(編集後記)

「麻布科学実験教室はライフワークに近いもの。ビジネスは他でできればいいかな。」と笑う阿部先生。お父様の意志を受け継ぎ、子どものため、彼らのその先の人生を豊かにするためにチャレンジし続けている姿が印象的でした。

 

今はAIで何でもできる時代。唯一できないのが「実体験」。だからこそおもしろい。

 

「学び紀行」はこれからも多様な塾・スクールのかたちを伝えていきます。